Day21 自由研究
ジッと針が当たった音のあと、のびやかな声が響いた。悲し気なメロディーだけど、声が力強くてカッコいい。こういうの聴いてたんだ。聞かせてくれた子供用のレコードは、わざわざ買ってくれたのかもしれない。遊びに来てたいとこも聞いたかな。おとなしく座ってるの見たことない気がする。やたら元気で、夏休みの自由研究とか言ってクワガタ採りに走っていった背中しかおぼえてないけど。
はじめて思い返した人たちの姿は断片的で曖昧だった。顔も思い出せない。おやつに食べたアイスや、強い日差しで陰影の濃くなった庭の色だけが鮮やかに残った。
レコードが止まる。音楽の消えた部屋がシンとしたと思ったら、虫の声が耳に入ってきた。棚にレコードをしまって他へ視線を向ける。プラの衣装ケース。服なら何も考えないで捨てられる。どんどんゴミ袋に移して、それが終わったらタンスの中。下着があったのにぎょっとしてから、やっぱり何も見ないように底からさらって捨てた。桐のタンスにしまわれてた着物は高そうだから母親に聞こう。
洋服を片付け終わったので、出すのを忘れないようにゴミ袋を玄関に移動した。開けっ放しのドアをもう閉めようとストッパーを持ち上げる。立ち上がったら、明るい庭が目に入った。人が立っている。あの男。夕方近くなっても眩しい陽で反射した白い顔の中で、口だけが笑っていた。
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