Day18 蚊取り線香
男が歩く。その少しあとについていく。昼の日差しは強くて帽子を被ってくればよかったと思う。バカバカしいほど旺盛に茂る草むらから青臭い匂いがした。
これってなんだ? これぐらいの年はこういう感じで親しくなるのか? 就職してからの友達いないしわかんないな。たぶん、話しかけられて知り合った。俺が話しかけるわけがない。それから何回か会って、ああ、今日は助けてくれたのか。やっこさんにびっくりして忘れてた。肩を見るとやっこさんはそこにいる。
「さっきはありがとう。助けてくれて」
振り向いた男は笑って「ああ」と軽く言った。それきり前を向いて黙って歩く。お礼が遅れたのは気にしてなさそうだけど、本当に気にしてないのかはわからない。男の後姿を見ながら、名前を聞いてないなと思った。いや、覚えてないだけか? 近所の婆さんの名前も聞いたと思うけど記憶にないし。また聞くのもあれだし。こういうの苦手だ。
前を歩く草履が止まった。顔をあげると家で、ホースが庭に出しっぱなしなのが見えた。別れを告げて玄関を開ける。振り向いた先、遮蔽物のない田舎道には影すらもなかった。
家に入って扇風機をつける。夜に焚いた蚊取り線香の残骸を捨てて新しいものをセットした。仏壇にあったでっかいマッチ箱のマッチで火をつける。線香みたいな匂いだと思って、蚊取り線香だったと気づいた。直射日光に当たって疲れた体を横たえる。
ごちそうになってしまった。たぶん前回も。なりっぱなしは落ち着かないけど、お金は受け取らなさそう。なにかビールとか渡す? のむのまないあるよなぁ。一人暮らしならスイカもらっても困るだろうし。どうしよう。
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