Day13 定規

「では、いいでしょうか?」

 なんのことだかわからくて言葉につまった一瞬、錬金術師の手が肩に伸びて、パンっと破裂音が鳴った。錬金術師は手を抑えて一歩後ろに下がる。

「ふれるな」

 ぐいっと引っぱられ、白い着物の誰かが前に立った。

「渡すわけなかろう。さっさと去ね」

 かばってる? 俺を? なんで、誰? 俺がすぐ断らなかったから、助け? よくわからないけど、慌てて錬金術師に断りをいれた。

「遠慮なさらず。売ってくださるはずだったでしょう?」

 そんなこと言ってない!

「勝手をぬかすな」

 怒る白着物の後ろから覗いた錬金術師はニヤニヤ笑っている。

「まあ、多少強引でも手に入れば」

 錬金術師が腕を横に振った。定規で引いたようなまっすぐな線が空中にでき、そこに手を突っ込んで短い杖を取り出す。

「古典的ですが使い勝手はいいんですよ」

 錬金術師は何やらつぶやき始めて杖の先から白いもやが出てくる。焦るばっかりで動けない。

「そこまでにしとけ」

 視界の外からの声。静かで、有無を言わせない圧がある。顔を向ければ、前髪で目が隠れてるあの男がいた。笑ってない顔ははじめてだ。

「あーあ、お早いお着きで」

「お前のせいだろう」

 錬金術師は杖を降ろし、あの男の声から固さが抜ける。緊迫してた空気が緩んで、うるさく心臓が鳴ってるのに気づいた。立ちすくんで今さら息切れしてたら、白着物が振り返って優しく笑った。髪も肌も真っ白で眼がぜんぶ真っ黒なのにちょっとびっくりする。

「もう大丈夫です」

 ニコニコしてるのを見てたらだんだん落ち着いてきた。かばってくれたのに怖がるのは申し訳ないと思う。良い人みたいだし。バカみたいに開けた口からお礼を捻りだしたら、「いえ」と静かにほほ笑んだ。

 ところで、誰?

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