Day9 ぱちぱち

 合わせた手を降ろして目を開けると、見上げてくる真っすぐな目線にぶつかった。ぎょっとして体が跳ねる。子供が横から覗き込んでる。なんで、いつ。

「それ、持ってきちゃだめだよ」

 え、塩飴のことか?

「だから雨降ってるんだよ。それ返してきたら?」

 それ、と言ったときにポケットを見たので預かったラブレターだとわかった。でも持ってきちゃダメって。知らなかったんだけど。どうしよう。またやってしまったと心臓が大きく鳴りだした。子供のクリクリした丸い目が、いつもミスして迷惑をかける、そういう人間でいる後ろめたさまで見通すみたいで怖くなる。焦って説明するも、『なにか』に頼まれたのだとしか言えず、頼みを断ることもできなかった情けなさでしどろもどろだ。我ながら要領を得ない話をし終わり、審判を待つ気持ちで口を閉じた。

 一度も逸らされなかった丸い目がぱちぱちと瞬きする。それから柔らかく笑う形に細まった。

「それは災難だったねぇ。巻き込まれちゃかなわないよ」

 優しい声にほっとして、力が抜けたのかくしゃみがでた。

「おや。体が冷えてしまったのかな。これは早くすませないといけないね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る