Day8 雷雨
姿の見えない声は『頼んだぞ』と言ったきり沈黙して、断ることができなかった。無視してもいいんじゃないかと思うけど、手の上の石らしきものがやたらと存在感を発揮している。強引な主張されてるみたいで、押し負けしそうだ。いや、断りを入れられなかった時点で負けていた。押しの弱さに付け込まれてる気がする。このなにかも、あのなにかにも。
ため息をついて出かける用意をした。頼まれ物と塩飴をポケットに、保冷剤を手ぬぐいに包んで首に巻き、凍らせたスポドリを持って玄関に置きっぱなしの祖母の麦わら帽子を被った。玄関を出たらぶわっと虫の声に包まれる。あたりを見回し、山があるほうへ足を向けた。スマホで地図検索したいけど『山の社』じゃ目的地設定できない。この道であってるのか、どれくらい歩くかもわからない。薄っすら不安をかかえつつ、わからなかったら戻ればいいと自分に言い聞かせて歩いた。
ちゃんと着くのかな、これは誰に渡すのだろう、誰に頼まれたって説明できない、いったいなんなんだ、願いを叶えるって言ってた。いくつも浮かんだけど、ずっと考えてたものに舞い戻る。時間を戻したい。繰り返さないように記憶があるままで。そうしたら。
降格して地方の田舎に飛ばされる上司の顔が浮かぶ。さんざん頭を下げさせたのに最後は笑ってた。気にするなって言ってくれたけど、気にしないわけない。俺のミスの責任は俺なんかじゃすまなかった。注意してくれてたのに、あとでやろうと思って忘れて。俺の無能で周りが被害に遭う。あのときに戻れるなら。戻りたいとなんども思って、逃避するなんて無駄なことをまたしてると歯噛みする。
ポツリと頬に当たった。ハッとしたらポツポツと当たりはじめ、あっという間に本降りになった。雨でけぶる周りを見回し、少し離れたところに見えた小屋へ走る。思ったより小さくてかがんで駆け込んだ。浅い
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