Day2 喫茶店
おおい
冷えたビールを流し込む。薄い苦みの炭酸が通り過ぎていく。
おおい
そうして長い長い息を吐いた。空から庭に出したガラクタへ、そこから片付けが進まない家へ目線を移す。 おおい 長く入院していた祖母が死んで空き家になった田舎の家。無職になって実家へ帰るつもりの俺に、電気水道ガスもろもろ出すから骨休めついでに片付けてと母が告げた。 おおい
「呼んどるよ」
視界の外の声に振り向けば、薄暗くなった庭に立つひょろりした男。前髪に目が隠れて口だけが笑ってる。
おおい
「呼んどる。そこ」
はだけた着流しの合わせに片手を突っ込んだまま顔を動かした。それを追った先、込み合った紫陽花の葉の下の陰、見えないところから向けられるなにか。
みずをくれ
「水だと。しばらく雨ふっとらんからなぁ。庭木のついでだ」
ああ、そうだ。今日も暑いから昼に水やりしようと思ってたんだった。忘れてた。外水道の脇に置いてるホースを取り付けて蛇口をひねる。勢いよくホースの中を走る水を確認してシャワーノズルのスイッチを押した。ザアアアと飛び出した水を紫陽花に向けると花に葉に跳ねて小気味いい音を立てる。しばらくそうして、気づけば葉の陰はただの影になっていた。
「なぁ」
視界の外へ振り向く。男は変わらずだらしない格好で立っている。
「暑かったろう? 喫茶店でソーダ水でもしゃれこまんか」
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