2024年12月28日 ー誰なんだー

 この日はみおが朝から怒っていた。

「どうしたよみお?」 

「なんでも」

 何を言ってもなんでもばかりで困ってしまう。

「何か言いたいことがあるなら言ってくれよ、わからないよ」

「翔さんは少し冷たいと思うの」

 なんのことやら。

「昨日も帰ってくるなり、すぐに寝て、仕事が忙しいのは見てるからわかるけど、少しはお話ししたいよ私は」

 そういうことか、職場も同じな彼女は仕事が忙しいのは理解してくれている。

「それに、私そろそろみんなに付き合ってること言いたい、翔さん狙ってるって人何人か聞いたし」

 それは、初耳だ。

「ごめん、不安にさせているなら、ただ、職場にいうのはもう少し待ってくれないか。」

「なんで?」

「いや、立場上ちょっとな、頼むよ。」

「いつならいいの?」

「本当にもう少しだけ、頼む。」

「うーん」

 納得していないかおだ。流石に同棲して約1年彼女の表情も理解できるようになってきた。

「ほんと、もうちょっとだけ。」

「待ってるからね。」

 そうだ、今日は彼女の好きなご飯屋さんに行こう。

「みお、今日さあの定食屋に行こうよ」

「えっ、いいの?いこー」

 すぐに表情が変わって本当に可愛い。

「みーさんのご飯だけ用意するね。」

 皆さんに紹介していなかったが、うちには猫のみーさんというマンチカンがいる。

「あ、そうだ昨日ちゅーる買っておいたよ」

「ありがと!でも今日はみーさんお気に入りを作って渡します!私たちだけずるいからね。」

 みーさんのためにご飯の準備をする彼女を見ながら、来月に迫ったスピーチの原稿を考える。


 定食屋に行く道のりで、ブライダルキャンペーンをみる。

 結婚式か、ふと経験したことのない何かがフラッシュバックする。

 チャペルに神父。ベールに包まれた花嫁が歩いてくる。


「大丈夫?」

「ああ、ごめんぼーっとしてた。」

「体調悪い?」

「いや、そんなことないよ」

「でも、なんか辛そうだよ、」

「お腹が減っただけだよ。」

 多分お腹が減っただけだ、そんなよくわからない記憶よりも、今は何を食べるか考えよう。

「大丈夫ならいいけど、無理しないでね」

「うん、ありがと、」 

 

 その日は何もする気が起きなかった。定食を食べてただ家に帰りあの記憶を思い出す。

 知らないはずの何かの記憶。

 何か大事なことを忘れているのか?知らないはずの何かの記憶。

 誰なんだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る