2024年12月21日 ー少し話をしようー

 その日は家に帰ってみおと高岡の話をした。

「高岡の奥さんなんだけど、覚えてるかな、俺の同期の怜さんなんだって。」

「そうなんだ、」

 驚いているのか、悲しいのか、なんとも言えない顔をしていた。

「どうした?」

「いや何にもないよ、世間って狭いね」

「そうだな、まさに俺もそう思った」

 今日のシチューはこの季節には沁みる優しい味だった。


 その夜に俺はまた白い部屋にいた。

「おー神様、元気だった?」

「今日はいかがいたしますか?_」

「いや特に、選択する気はない。」

「では、失礼します。」

「ちょっと待った。教えて欲しいことがある。この前の件」

「コノマエノケントハ?」

「いやなんでカタコトなんだよ」

「俺が教えて欲しいのはこの前のアドバイスの件に関して」

「あれですか。」

「そう。意味がわからなくて。」

「そのままの意味ですよ。選択が、あなたを形成してます。」

「そりゃそうだと思うが、なんであんなこと言ったんだ」

「最近言動がおかしいなと思うことはありませんが?性格が変わったなど」

「ないと思うけど」

「そうですか、ならよかったです。記憶はいじれても印象はいじれませんから。」

「でも大学の同期にヤンキーみたいになったねって言われた」

「そうですか。その方の印象ではあなたは変わったのでしょう」

「なるほどね。」

「はい。その方とは親しかったのでは?」

「全く」

「では、問題ございませんね。」

「そりゃそうだが」

 釈然としない回答だが、確かに親しくないなら別に気に病むこともない。

 

「それとあとひとつ聞きたいんだが。」

「なんでしょうか。」

「俺はもう後悔のしている選択はない、ここでこの権利を放棄することは可能なのか?」

「はい、できます。」

「そうか、」

「しかし、放棄した場合、二度とあなたにはこのチャンスは来ません。いかがいたしますか?」

「そうだよな、わかった。もう少し君と話したいから、まだ放棄はしないよ」

「懸命かと。では、また次の機会に。」

 

 何も後悔していることなんてなかったんだ。

 多分。今この時は。


 次の日の朝、みおが朝から怒っていた。

「どうしたよみお?」 

「なんでも」

 何を言ってもなんでもばかりで困ってしまう。

「何か言いたいことがあるなら言ってくれよ、わからないよ」

「翔さんは少し冷たいと思うの」

 なんのことやら。

「昨日も帰ってくるなり、すぐに寝て、仕事が忙しいのは見てるからわかるけど、少しはお話ししたいよ私は」

 そういうことか、職場も同じな彼女は仕事が忙しいのは理解してくれている。

「それに、私そろそろみんなに付き合ってること言いたい、翔さん狙ってるって人何人か聞いたし」

 それは、初耳だ。

「ごめん、不安にさせているなら、ただ、職場にいうのはもう少し待ってくれないか。」

「なんで?」

「いや、立場上ちょっとな、頼むよ。」

「いつならいいの?」

「本当にもう少しだけ、頼む。」

「うーん」

 納得していないかおだ。流石に同棲して約1年彼女の表情も理解できるようになってきた。

「ほんと、もうちょっとだけ。」

「待ってるからね。」

 そうだ、今日は彼女の好きなご飯屋さんに行こう。

「みお、今日さあの定食屋に行こうよ」

「えっ、いいの?いこー」

 すぐに表情が変わって本当に可愛い。

「みーさんのご飯だけ用意するね。」

 皆さんに紹介していなかったが、うちには猫のみーさんというマンチカンがいる。

「あ、そうだ昨日ちゅーる買っておいたよ」

「ありがと!でも今日はみーさんお気に入りを作って渡します!私たちだけずるいからね。」

 みーさんのためにご飯の準備をする彼女を見ながら、来月に迫ったスピーチの原稿を考える。


 定食屋に行く道のりで、ブライダルキャンペーンをみる。

 結婚式か、ふと経験したことのない何かがフラッシュバックする。

 チャペルに神父。ベールに包まれた花嫁が歩いてくる。


「大丈夫?」

「ああ、ごめんぼーっとしてた。」

「体調悪い?」

「いや、そんなことないよ」

「でも、なんか辛そうだよ、」

「お腹が減っただけだよ。」

 多分お腹が減っただけだ、そんなよくわからない記憶よりも、今は何を食べるか考えよう。

「大丈夫ならいいけど、無理しないでね」

「うん、ありがと、」 

 

 その日は何もする気が起きなかった。定食を食べてただ家に帰りあの記憶を思い出す。

 知らないはずの何かの記憶。

 何か大事なことを忘れているのか?知らないはずの何かの記憶。

 誰なんだ。

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