2章 別れと出会い
2024年2月16日 ー最悪な朝ー
4回目の選択は、今思うとあまり気持ちいものでない。
ここに書きたくもないのだ。
少し嫌な気になる人もいると思うが、少しだけ付き合ってほしい。
あの日、みおさんとランチに行った日。
その夜に事件は起きたのだ。
いつも通り家に帰ってくると、怜がいた。
「今日は早かったんだね。」
怜が言う。なんか冷たい。
そういえばここ何日か怜とまともに話していない気がする。
「うん。」
「まあいいや、今日は会社に戻らないの?」
なんだそれは、僕は帰って会社に戻るなんてしたことがない。
「いや戻らないけど、、」
「そう。ご飯できてるから食べて。私寝るから。」
「ちょっと待って、何怒ってるの?」
「いや怒ってないけど。」
なんだ、この会話は、とても嫌な感じがする。
「怜。何かあるなら言ってくれる。疲れてるんだ。」
「またそれね。」
「もういいや。なんか会話にならないし。」
はぁという大きなため息と共にベットに向かう怜。
今思えばこの日の僕は高圧的な言葉ばかり出てきていた。
そして次の日の朝。怜はいなくなった。
一枚の途中まで書かれた紙と手紙をテーブルに置いて。
育む時間は長くも、終わりは案外あっけないものだった。
事の顛末なんてことはない。手紙を読んで理解した。
僕は今の地位になるために家庭を捨てていたのだ。
人生で一番最悪な気分の朝だった。
もう一度話したいという連絡もつながらない。
電話を何回しても、つながらない。LINEも。
時計は7時50分を指す。会社に行かなくては。
そして思った。こんな時にも会社という単語が出てくるほどに、僕は仕事をしていたのだ。
この日は何を誰と話したかも覚えていない。
ただ次に覚えているのが、マンションの前に大きなトラックが止まっていたこと。
そしてそのトラックに見覚えのある家具が乗せらていること。
そして部屋から出てきた怜が冷たい目でこっちを見ていること。
「なんだ。こんな早く帰ってきちゃったんだ。」
「ちょっと待ってくれ、なんだよこれ。」
「いや引っ越すのよ。ここは私の家じゃないし。」
「おいおい、待てって、まず落ち着け。なんも相談なしにこんなこと。」
怜は何も言わない。
「せめて俺からの話ぐらい聞けよ。」
怜はまだ何も言わない。
「それに、一人でどうするんだよ。」
その言葉に反応するように怜の怒号が住宅街に響き渡る。
「ふざけんな。ふざけんなよ。私が好きなのはあんたじゃない。翔くんだ。」
「はぁ?俺は俺だけど。どうにかなったんじゃないか怜」
「君はそんなことを言う人じゃなかった。私は、いつものあの翔くんが好きなんだ。」
「意味わかんねぇよ。いやいや本当にわかんない。俺は俺だし。それに家に帰ってこないことに怒ってんなら、これからは気をつけるからさ。だからもう一回話そうよ、なっ?」
「とにかく部屋に戻ろうぜとにかく。近所の人に迷惑だから。すみません、引越しなしで。全部戻してもらえますか」
業者の人が、えっという顔でこっちを見る。
「キャンセル料は払いますから、すみませんねー嫁が勝手に。」
「はぁ、、、。これ全部ですか?」
「だからそうだって言ってるだろ。」
つい大きい声が出てしまった。
その会話に怜が割って入る。
「気にしないでください。早く新居に行きましょう。」
「いやいや何言ってんのまじで。待てって」
手を掴もうとしたが振り解かれた。こんなに細かったとは思わなかった。
「さよなら。本当に。」
その時、久しぶりに怜の顔をみた。その顔はこけていた。
外見が変わるほどに彼女を追い詰めていたことを理解した。
怜はクリっとした目に、涙を溜めたまま、決してこぼれ落ちないように早歩きでレンタカーに向かった。
ドラマならここで追いかけるのだろう。僕はただその場に立ち尽くしていた。
怜の物だけが綺麗に無くなった部屋。
広くなった部屋。そして寒くなった部屋。
5分ほど立ち尽くしていた僕はそこに戻った。
怒りの感情と悲しいという感情が交差する中、【離婚 やるべきこと】 とグーグル検索をかけていた。
財産分与やチェックリスト、法律事務所などが検索にヒットする中、彼女の姿が頭から離れなかった。
僕は彼女を苦しめていた。その事実だけが頭から離れなかった。
目から涙がこぼれ落ちる。何もする気力が湧かない。
もうこのまま寝よう。
その日の夜に神は目の前に現れた。
そして、僕は選択を変えた。
怜に告白する YES → NO
心の辛さがなくなることはないだろうが、僕はこの選択を変えた。
愛した人を苦しめたくはなかったから。
どれだけ辛くても朝は来る。
何もなかったかのように。いや事実この世界では何もなかったことになっている。
部屋は変わっていないが、初めから一人で暮らしていたかのような部屋。
鍋も、何もかも一人用だ。朝食の準備をしてコーヒーを入れる。
もともとマグカップも1つしかなかったように棚に整理されている。
出勤の時間になり着替える。服もだいぶ少なくなっていた。
シャツも、ネクタイも、彼女が選んでくれたものはなかった。
とにかく仕事をしよう。
それだけだ。今僕にあるのは。
この時は知らなかったんだ。と言うよりも知るわけがないだろう。
なぜなら元々ないことになっているんだから、そう。
怜という人物はただの大学の知り合いと自分が思うなんて。
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