2024年2月15日 ー3回目の選択ー

 この選択から僕の人生は大きく変わった。


 ミコトはいつものようにAIのように話をする。




「さあ、今日も選択を変えられる時間が来ました。本日は何を変えますか?」


 


 迷わず、僕はあの選択を変えることにした。


「なあ、この選択を変えるとどのぐらい僕の未来は変わるんだ。」


 その選択は、入社2年目の時、大事にはならないだろうと、


 クライアントの意見を聞かずに発注したことである。


 これが大事になり、大炎上。取引停止になった。


「それは私にもわかりません。」


 冷たいやつめ。


「いかがいたしますか?」


 少し悩んだ。それで最悪な状態になっていたらどうしようかと。


 しかしそれで最悪な結果になっていたらまた変えればいい。


「頼んだ。変えてくれ」


「かしこまりました。」




 3回目の選択 クライアントの意見を聞かずに発注する YES→ NO


 


 起きてすぐに社用携帯を見た。


 自分の今の境遇を確認するためだ。


 なんだこれ。




 グループリーダー 吉村 翔




 社会人7年目でこれはスピード出世である。


 もう驚くことはない。不思議な高揚感で、自分がすごい人間になったような気がする。


 その高揚感が続くまま、金曜日の会社に向かう。


 肩で風を切るような歩き方をしている。


 今までとは違い勇者の剣を持ったような気になっていた。


 選択がちがければこんな明るい未来だったのか。そう思いながら電車に乗る。




 会社では、みんなから挨拶をされた。承認欲求が満たされている。


 あの杉浦ですら、吉村さんと敬語になっていた。




「おはようございます!」


 大声で挨拶してきた背後には25歳ぐらいの若者が。


「おはよう。高岡」


 記憶にないと思うが、高岡と確かに自分は言った。


「そうだ、吉村さん、この前の件お時間よろしいですか?」


「うん。今から20分ぐらいは大丈夫。」


「ありがとうございます。では20分ほどで資料の概要お伝えします。」


 なぜあったこともない奴の名前を知っている。


 なぜ資料と言われてあれのことだとわかる。


 何か気持ち悪い感覚に追われた。しかし、高岡の言っていることはすべて理解できる。


 今までのメールの内容もわかる。本当に不思議な経験だ。


 前回もそうだが、リーダーと言われてすぐあのPRJの事かと納得できた。


 これがルールにあった、起こり得たであろう事が想定されて、自分の今になるというやつか。


 まあ今は目の前のことに集中しよう。


 


 仕事がひと段落し、みおさんをランチに誘った。お決まりのイタリアンだ。


 みおさんと話すことで、自分の今までがわかるのではないかと思ったこと。


 また、神様にあうトリガーなのではと少し思っていたことも誘った要因だ。


 


 いつも通りの注文をして2人で話す。僕は意外とこの時間が好きなのだろう。


 妻がいる身で、こんなことを思ってはいけないだろうが。


 昨日の夢の話をするが、どうやらミオさんには、


 入社時に3年目の先輩ですごい人がいると言われていたこと、


 それがサークルの先輩の僕であること。


 どうやらあの案件を成功させた僕は、破竹の勢いで案件を獲得して、会社で賞を受賞して、


 異例のスピード出世を果たしていた。


 色々な話をしてくれた。みおさんが大学の後輩であること以外、


 全て自分の知っている自分ではない。


 多分事象が変更して、過去が変わっているのだ。


 


 その後他愛もない話をしていると、店に杉浦と高岡が入ってきた。


 目があって、こっちにくる。そこしイラっとした自分がいた。


「吉村さん、ご一緒しても?」


 杉浦の敬語は媚びているようで気持ち悪い。


「それやめてくれない?同期なんだし」


「ならやめるわ。助かるマジで、同期に敬語って気持ち悪くて。」


 せめて1回は押し問答をしたかったが、こいつはそういうやつだった。


「失礼します。すみません、池田さん。お二人で話している時に、大丈夫ですか?」


 池田さんはみおさんの苗字である。


 先ほど言った通り、彼女は大学の後輩でサークルでも後輩。


 在学中も仲が良かったため、今更池田とも言えず、大学時代のようにみおとも言えず、


 敬称をつけて呼んでいる。




 「大丈夫ですよ。どうぞ。」


「ありがとうございます!お隣失礼します」


 あっ、そんなに仲良いんだ、と少し嫉妬してしまった。


「高岡とみおさんって仲良いの?」


 間髪入れずに高岡が答える。


 


「はい!僕入社して池田さんに一目惚れして、告白したんです。」


 


 何を言っているんだこの子は、こんなとことで、。


「えっ?そうなの?」


 僕より早く杉浦が反応した。あいつは本当にこういう話が好きだな。セクハラで捕まるぞそのうち。


「はい、言ってませんでした?」


「聞いてないよー」


 ふとみおさんに目をやると、バツが悪そうな顔で目があった。そしてすぐに下に目線を逸らす。


「ってことは付き合ってるの?」


 やめろ杉浦。聞くんじゃない。


「いえ、断られたんですが、僕はまだ好きでせっさんアプローチ中です。」


 笑うでもなく、照れるでもなく、まっすぐな顔でそれをいう彼を格好いいと思った。


「漢だねー。でっ池田さんは高岡のどこがダメなのよ。仕事もできるし、イケメンだし。」


 確かに、まだ3時間ほどしか仕事を見ていないが、仕事はできる。それに彼は女の子からの評判も良さそうな顔をしている。


 自己嫌悪に陥るほどに。


 


「…………」


 池田さんは俯いたまま。咄嗟に口から言葉が出ていた。


「あっ、やばい、こんな時間じゃん。池田さん、外回り行くよ。」


 みおさんはこっちを向き、目がうるっとしているのがわかった。


「杉浦悪い、ちょっと俺らの分も払っていおいて。」


 無神経への罰である。


「そりゃないですよ、グループリーダー。むしろ俺らの分も……。」


「ありがとな!明日金は返すよ、」


 えっちょっとという声を聞きながら、みおさんをそそのかして外に出る。


 


「ごめんな、少しサボってから会社帰るか。」


 咄嗟に出ていた。いつもの僕なら言わないのにこんな事。


「いえ、そんな……むしろありがとうございます。」


 みおさんはまだ俯いている。


「そうだ、3つ隣の駅にカフェができたらしくて行って見たいのよ。付いてきてくれる?」


「そういうところです…………」


「うん?何か言った。」


 みおさんが何かを言った気がする。


「何もないですぅーー。行きますよ!」


 不覚にもそのリスのようにほっぺを膨らませた顔にドキッとした。


 


 そして、まだ2月の寒い中、駅まで話しをした。


 今少し鼻の下が伸びているかもしれない。この顔は怜には見せられない。

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