2024年1月6日 ー神のルールー

 奇妙な体験をした僕は、その日にランチで寿司を食い、夜には焼肉という小学生

 夢のフルコースをして気づいたら5万も使っていた。

 酒に酔い、気持ちよく家路に着いて、ソファに座り、嫁からの声、


 「お風呂沸いたよー」

 

 という声がその日の最後の言葉だった。

 そしてまた白い空間が目の前に広がった。

「こんばんは」

 後ろから声がする。

「また会えましたね。」

 咄嗟にナンパのような話し方をしてしまった。


「今日もまた選択肢を変えることが」

「ちょっと待った」

 彼女の声をさえぎってまでも聞きたいことがあった。


「君は何者なんだ。本当にあの時のことがなかったことになった。それにこれはなんなんだ」

 

「失礼しました。私名乗っておりませんでしたね。私は選択を司る神ミコトです。人は1日で3万5千回もの選択をしています。そこで私は選択をもう一度行うチャンスを与えているのです。」


「はぁ、それでなんで俺に」

「いずれ知ることができます。」

 いづれではなく、今知りたいとい気持ちを抑えて、まずは状況と、この力について聞く。

「なあ、この力はなんでも変えられるのか?」

「いえ、不可能です。」

 歯切れの悪い回答ばかり。

「ルールとかあるのか?」

「あります。聞きますか?」

 一番大事な部分だろと心で叫びながら、聞くことにした。

 ルールはこうだ。

 ・一度選択を変えたものをもう一度元の選択肢に戻すことも可能。

 ・未来の選択は変えられない。

 ・選択肢を変えることで、未来は変わるが、過去に戻ることはない。

  よって選択肢を変えた場合、起こり得たであろう事が想定されて、自分の今になる。

 ・選択できるのは目が覚めるまで。またタイミングは不定期で夢に現れる。

 ・選択の権利は原則的に他者への譲渡は不可。

 ・一定の条件をクリアしている場合、他者の選択を1人につき1つまで変えられる。

  しかし、その場合他者への干渉として、3つの選択を変えられる権利を失う。

 ・最後に選択を変えられるのは10回まで。そして二度とこの力は宿らない。

 

 

 随分いっぱいルールがあるものだ。

「わかった。ちなみに代償とかあるか?」

「いいえ。そのようなことはありません。」

「Aiみたいな話し方すんのな、神様って」

 軽口を叩いてしまった。無言である。

 気まずい雰囲気を変えたくて、咄嗟に石板に目をやる。

「そうだ、これを変えよう。」

 

 選択2 高瀬さんとの飲み会に行く。 NO → YES

 

 確かこの日に行かなくて怒られて、今でもネチネチうるさいんだよな。

「承知いたしました。」


 目が覚めて、出社のための準備をする。

 今日も中央線は混雑している。

 会社に着くといの一番に話しかけてくるのが、杉浦だ。

「おはー。」

「おー。おはよう」

「どうよ、奥さんとは昨日もイチャコラしてたの?」

 無駄に高いテンションをこっちに向けないでほしい。

「まあな。」

 そんなことはないが、イチャコラしてたことにする。

「いいなあー俺も妻ほしー」

「いいから仕事始めるぞ・」

「まあ待てよ。俺の話を」

 大きな声がする。部長の高瀬さんだ。

「おはよう。おー吉村。杉浦。」

「おはようございます!!」

 吉村は僕の名前だ。杉浦は僕の入社同期で、一番仲が良くて恨んでいる奴である。

 杉浦は僕と話していなかったかのように、真剣にPCに向かい合う。

 こいつは本当にすごいやつだ。朝の仕事を終えて昼ごはんの時間。


 後ろから僕を呼ぶ声が聞こえたが、部長の声でかき消される。

「吉村、ちょっと話がある。」

 高瀬さんからの呼び出しだ。また文句を言われるのかと、嫌な気持ちになりながら部長室に向かう。

「この前、飲み会で話していた。例の件、高橋を推薦しておいたから。頼むぞ、リーダー。」

 なんのお話か皆目見当もつかなかった。しかし、断るわけにもいかず。

「ありがとうございます。謹んでお受けいたします。」

 武士のような返事をした。どうやら僕は新しいPRJのリーダーになったようだ。

 ミコト様感謝である。そこから仕事がうまく行くようになり、帰りが遅くなって行った。

 

 2つ目の選択から僕は破滅の道を選んでいたのだろう。

 

 彼女に次に会うのはそれから4日後のことであった。

 その日は、みおさんと久しぶりにランチへ行くことになっていた。

 僕はパスタが好きで、みおさんはよく一緒に行ってくれるのだ。

「最近、吉村さんすごいですね。」

 開口一番褒めてくれるとはいい子だ。

「それと、この前はすみませんでした。」

 この前?咄嗟に口から、

「あー気にしないでいいよ。あれは先方が悪いから。大丈夫だよ。みおさんはちゃんと対応できてるよ。」

 はあーという小さいため息が聞こえた。

「いや、それじゃなくて、。」

 なんのことですか?うーん。あっ、咄嗟に脳の記憶がフル回転した。

「ごめん――――」

 そうである。僕は彼女から変な連絡をもらっていて、返信していなかったのである。

 なぜならあの文を見て寝落ちしたから。

「いえ……。うっふふ」

 笑いを堪えている彼女は、何が面白いのだろうか。

 もしかして、いじめっ子?こんなおじさんになりそうな冴えない男のごめんで笑うなんて。

「やっぱり、忘れてましたか。」

 笑いながらも芯のある声で問いかけてきた。それがまた怖い。

「ごめんね、、言い訳してもいい?」

「どうぞー」

 僕はあの日の神との出会いを話した。絶対に信じてくれないだろうと思うが話をした。

 彼女は笑顔から真剣な顔になり、聞いてくれた。

 全てを言い終わってから、ヤバい男だと思われてないか、心配になった。

 ガヤガヤした店内で、静寂なテーブル。

「それはすごい体験ですね」

 そう言いながら先ほどよりもニコッとして笑っている彼女。

「あっ信じてないだろ」

 と言いながら釣られて笑ってしまう僕。

 気持ちのいい瞬間である。

「それでさ、次にいつ会えるか楽しみなんだよ」

 そういうと彼女は笑顔のまま。

「多分、すぐ会えるんじゃないですか。」

 その時妙に説得力があると思った。

「それなら早く会いたいな。まだ変えたい選択肢があるんだ。」

 いつの間にはあのLINEの話から本題が逸れていた。

「そうですか。」

 その言葉は先ほどまでとは裏腹に少し冷たい気がした。

「どうした?」

「いや、時間、、。」

 時計に目をやると、お昼休みの時間が後5分で終わる。

「急いで戻ろう」

 そういうと彼女は大きく口を頬張って、パスタを平らげた。

 この時の彼女ともう少し話ができていれば何か違う選択もあったのではと思う。


 その日の夜、家に帰り怜と話をした後、ベットに行く。

 そして眠りについた僕は3回目の選択をする。


 


 

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