第二頁:どんな時代にもトラテープはあります

 家から出て、モノレールに乗る。

モノレールはこの辺では結構メジャーな移動手段なのだ。


 さすがに平日の朝とはいえβ5地区行きの列車に乗る人は少なく、落ち着いて席に座ることができた。

正直この異常がある右足で人の海に揉まれるのは勘弁して欲しいので、今回は非常に助かった。


 モノレールに乗って揺られること約20分。(このモノレールは揺れとかほとんどないので、揺られるという表現が適切なのかはわからない)

合流場所の駅に到着したわけだが当然の事ながら彼女はいない、まぁ合流時間の1時間以上前だからないなくて当然か。

 コンビニにでも寄ろうかと思っていた頃‥

 

「ごめん、待った?」

 後ろから聞き慣れた声がした、彼女なりに気さくな挨拶を選んだらしい。


 俺はその声に対して「デートの待ち合わせかよ」と軽く突っ込んだ後、

「いや全然、俺が早く来すぎただけだぞ。」


 と言って振り返ってエコーの方を見る、いつも通り背中に重そうなバックを背負って、頭には目元全体を覆い隠すようなゴーグルがついていて、その表面をライト(正確には違うらしい)がピコピコ光らせている。


 ただ、一つだけ違うのはその頭が普段より一回りくらい高い位置にあるのだ、  

 

 びっくりして足元を見ると、その‥何て言うべきかな、機械の馬?でも体格はがっちりしてて脚も短いしどちらかと言えばポニー?の胴体の中に彼女の足が膝ぐらいまで入ってる。


 俺が足元を眺めていたのに気が付いたらしく、不安そうにこちらを覗いた後こう言った。

「やっぱり変かな?」


 俺は急いで答えた。

「いや変じゃないよ、ただ見慣れない物があるなーって、別にそんだけ。」


 そう答えると気分を良くしたのか、嬉しそうに話し始めた。

「そう?なら良かった。これはね、うち技術開発局の新作の歩兵装備で、局長の自信作なんだよ。」 


 よく一緒に活動していたから忘れていたが、彼女の所属は調停局ではなく技術開発局なのだ。

それにしてもこの装備、あの局長の作りそうな物だ。


「あっそうだ、サッガッさんから頼まれてたアレ、今のうちに渡しておくね。」


 そう言うと見慣れた背中のバックから、同じく見慣れた物を取り出し、俺に渡してきた。


「バックラーと暴徒鎮圧用情報剥奪式特殊拳銃インベーダーそれぞれ2個ずつ、いつものやつでいいんだよね。」


 俺は手早くインベーダーを腰のホルダーにいれ、バックラーを装備する。


「それと、ちょっと右足貸してくれない?」


「右足?別にいいけど。」


 俺は慣れた手つきで右足の義足を外し、手渡した。

右足を失った体はバランスを失い大きくよろけたが、運良く後ろにあった手すりを掴む事ができた。


 彼女はそんな俺に見向きもせず、いつの間にか現れていた機械の三本目と四本目の腕で背中のから工具を取り出し、元からある両腕で右足を分解し始めた。


「音でなんとなく分かってたけど、やっぱりシリンダー周りがダメになってるね。」


 やっぱり技術開発局の局員は凄いな、俺なんか怖くてバラす事すら出来ないのに、何て考えながらぼんやり眺めていると、恥ずかしそうに言ってきた。


「あまり見ないでくれない?さすがにやりずらい。15分ぐらいで終わらせる算段だからその間‥」


 すると突然ポケットのスマホが鳴り、声が聞こえてきた。

「二人とも、すこしばかりいいかね。」

「なに、たいした事ではあらず、適当に聞き流してもらって構わぬ。」


 サッガッさんの声じゃないか、一体何の用だろうか。

スマホを取り出すとビデオ通話になっており、画面には暗い表情をしているサッガッさんが写っていた。


「ただ一つ謝っておかねばと思い連絡させてもらった次第だ。

かような仕事、本来ならば巡査局のしかるべき局員を向かわせれば済む話なのだが、何せゆえに、一応君たちを向かわせたというか事だ。」


 なんというかこう‥いつも思うが律儀な人だな。

「別にいいっすよ、こっちとしても手柄をたてられるので。」


「うむ、そう言ってくれるとありがたい、それといんべ~だ~を解除しておこう、今回の仕事は手早く済ませることとしよう。」


「通話が終わり、彼女の方が気になったので見ると作業を終え伸びをしていた、手元には俺の右足があった、黄色と黒の確かトラテープとかいうやつでぐるぐる巻きになった。」


「よし、即興で仕上げた割にはいい出来なんじゃないかな。」


「あの‥エコーさん?それ‥」

 さすがにこれは相手がエコーさんでも伝えなければならない、俺は興奮気味に言った


「それ最ッ高にイカすじゃないですか!センスの鬼ですかあんたは!?」


 長いこと一緒にいたが、まさかこんな人だったとは、あなたとはいいお酒が飲めそうだ。


 が、私の考えとエコーさんの考えは違っていた。


「私はただ表面の傷が目立つから、そこからひび割れ無いように保護するために貼っただけだけど‥、そう、ジャックさんはこーゆーの好きなんですね。ふふふ。」


 しまった、彼女は秘密を知った事によるものか、もしくは軽蔑によるものか、うっすらと笑みを浮かべながら右足を俺に手渡した。


 非常に気まずい。義足を取り付ける手が気のせいか、もたついた。


 俺は会話をして、この空気をどうにかするために必死に話題になりそうなものは無いか辺りや、手に持っているものをを探し始めた。

偶然スマホを見たときに、俺は活路を見付けた


「もう時間になってますね、行きましょうか。」 


 俺は普段よりも早足で移動した。右足の違和感はほぼ無くなっていた。


ーはいここから生牡蠣のターンー

本来ならこの回で通報があった建物にカチコミ仕掛けるつもりだったんだけど、何か伸びました。

ついでに前回の2倍ちょっと長くなりました。

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