第6話:居間で見る夢
今日は古物買い取り業者が玄関に来ている。妻は処分したい物品を用意し、業者と話し込んでいるようだ。
私は居間にいる。2時間が過ぎた。トイレにも行きたいし、体調も優れない。布団に横になりたい。
居間では、妻と業者の話し声が響く。極度の対人恐怖症の私にとって、この家はもはや安息の地ではない。
妻の明るい笑い声は、私の心の皮を一枚ずつ剥ぎ取っていくように響く。
妻は私の病気を知っている。それでも、人と話すのが好きな彼女は、楽しそうに業者と会話している。
私は、凍りついた石像のように、ただそこに存在していた。
何もできなくなる。椅子に座り、じっと目を閉じている。尿意すら我慢している。
コチコチと時計の音が、虚無感を際立たせる。
ふと、ペットたちの寝息が聞こえた。彼らの独特の、私にとって安らぎの香りがかすかに漂ってくる。
「ご主人、僕たち眠いんだよ?」とでも言いたげな、フクロモモンガの大きな瞳。私はそっと抱きしめ、頬をひと舐めしてくれた。
私は精神安定剤を飲み、少し早めの夕食をとったころ、妻と業者の会話もようやく落ち着いたようだ。
トイレに行き、布団に向かう。途中で妻に「ごめんね」と言われた気がする。
でも、妻の言葉は、私の心に何も響かなかった。まるで、雨上がりのアスファルトに落ちた水滴のように、すぐに消えてなくなる。
眠れない。居間で寝ていたからだろうか。それとも、心が疲れ果てているからだろうか。
あの、心が削られていた時間は、夢だったのだろうか。ペットたちのぬくもりも、夢だったのだろうか。
もう、わからない。ただ、苦しさだけが心に残る。
眠れない。
布団から起き上がり、再び睡眠薬を飲む。
早めに食べた夕食。少しの空腹感を感じるが、胃に重くのしかかる虚無感が、私を苦しめる。
きっとこの後眠りにつき、夜が明け、また一日が始まる。
ペットの世話、家事。そうやって、私は現実に戻っていく。
そうやって、居間から見続けた夢が覚めていくのだ。
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