第3話:未明に見る夢
暗闇に包まれた部屋、静寂を破る音は、私の寝息だけ。睡眠障害に悩まされる私は、今日も眠れぬ夜を過ごしていた。
0時前、睡眠薬を飲み、布団に潜り込む。アイマスクをし、眠れることを祈る。しかし、眠りに誘うはずの薬も虚しく、時計の針は刻々と午前2時を指し示す。
諦め、白湯を飲み干し、体と脳を休める。しばらくしたら、再び布団に包まれように祈りながら。
それでも、眠れるのは恐らく午前4時頃。まさに未明の時刻と言っていいだろう。
私はペットを飼っている。フクロモモンガという、エキゾチックアニマルと呼ばれる珍しい動物だ。知らない人は、普通のモモンガの小さい版を想像して欲しい。収斂進化というやつで、姿はそっくりなのだ。
彼らは夜行性で、私の朝7時の起床を心待ちにしている。朝散歩の時間なのだ。ケージの中の回し車をカラカラと回しながら、音で私を起こしてくる。私は7時にリビングの電気を点けてケージを開ける。それが私の朝のルーティンだ。
午前4時に寝て、午前7時に起きる。たった3時間しか眠れない。そんな時の夢はどうなるだろう?
実は、私はほとんど夢を覚えていない。確かに夢を見ているはずなのだが、その記憶はほとんど残らない。気絶したかのような深い眠りだからだろうか。
ただ、一つの記憶だけは例外だ。
我が家には複数のフクロモモンガがいる。中には、すでに虹の橋を渡った子もいる。夢の中に現れるのは、そんなフクロモモンガたちの誰かだ。
1匹だったり、複数だったり。それが誰なのかは分からない。ただ、私の飼っている、もしくは飼っていたフクロモモンガであることは確かだ。なぜかその確信だけはあるのだ。
その子とどのような夢を見たのかは、記憶にない。
楽しく遊んだのかもしれない。いたずらをしたのを怒られたのかもしれない。何か思い出を思い出していたのかもしれない。
それは分からない。
唯一分かるのは、その夢・・・いや、はっきり覚えていないから夢と言っていいのかは分からないが、その体験によって、私はスッキリと目が覚めるのだ。
それが私の記憶のせいなのか、それとも虹の橋を渡った子たちの霊のせいなのか。そんなことは分からないし、重要でもない。
朝7時、私はリビングを明るくする。ケージの中には、私を待っているフクロモモンガたちがいる。
ケージを開けると、彼らは思い思いに飛び出して、朝散歩を始める。
私は珈琲を淹れ、彼らの朝散歩を見守る。
この子たちは、たまに私に飛びついておやつを要求したり、他の子と喧嘩したりする。気が休まるわけではない。
でも、それが私の朝のルーティンだ。
未明に見る夢は、ルーティンを行うための夢だと、私は勝手に思っている。
それ以上の理由は必要ないし、それでフクロモモンガたちと私の心が保たれているなら、それだけで十分なのだから。
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