1-5話

「あ、血が反応した? やっぱりユキハが我が君だ! 僕の唯一の……いてっ! もうゼロ兄もマグナ兄も僕の頭叩きすぎだよ! 僕の頭は太鼓じゃないやい」


満面の笑みを浮かべるモノの頭に拳を落とすと、マグナは表情を固めているユキハの両頬をつかみ屈託のない笑みを浮かべた。


「心配すんなって。それからユキハを守るために俺らがいるんだからさ。んで、ひとまずここまでが俺たちの話だけど、ユキハと……そこの金髪のアホ毛、何か質問あるか?」

「アホ毛って……モノ先輩? に続いてマグナ先輩もそんな扱いすんの⁉ 俺はトウヤだ! 正直俺は頭がぐるぐるしてる。ユキハ、お前は?」


その言葉にユキハは強く目を瞑り考え込み、四人はその様子をまじまじと覗き込んだ。そして数分経った後、覚悟を決めたのか目を見開き、四人を見つめ返す。


「先輩方のお話はわかりました。嘘もないんだと思います。でもなんで魔力もない、しかもトラブル生成体質の私がその証なんですか? ……しかも二年後には死ぬって」


その質問にマグナは先程装着していた覚醒具を肩から外しユキハの眼前に差し出す。その白面には龍の顔が墨で描かれており、それに見つめられたユキハは息を呑んだ。


「そもそも魔力とか魔法ってのは別世界から来た獣騎士の特殊能力なんだよ。我が君が永い眠りにつかれた後、獣騎士達が後の世に眷属を作ったんだ。後の世に生まれる我が君を守るためにな。この世界の人間が魔力を持っているのは……まぁ、眷属作りの副産物みたいなもんで、それぞれの属性の獣騎士の血が混ざっているからなんだよ。例えば俺と同じ火属性の人間は、火の獣騎士:焔日の血を引いてるってわけだ。

だけど、我が君だけは純血だ。だから、魔法を使えないってのが姫の生まれ変わりである証になるってわけ。……んで、次の質問だけど――やっぱこっからはお前に任すわ」


それを受けたアイリスはマグナの持つ面をそっと撫でる。


「まずトラブル生成体質ですが、これは元々獣騎士の持つ特殊能力なんです。我々獣にとってここは反転世界、長く滞在することはできません。そこで我が君にお仕えすることを条件に、反発する力の半分を姫に預けるという古の契約をしたのです。その体質は元々地の獣騎士白虎のもので、主に害成すものを呪い殺すというもの。その力がユキハ様から溢れ出て無差別にトラブルを生んでいるのです。そして短命、正確には心が枯れ廃人になるという物ですが、かつてその昔、この世界を守るために宿敵サタンから受けた【ヤドリギ】という魂の呪いのためです。かつて全ての力を操ったエレナ様でもこの呪いだけは解呪できなかった。ですがご安心ください。その呪いからあなたを守るために我ら四人、ここに参りました。どうか――」


「「「「どうか我らを御身の傍に――」」」」


片膝をつき頭を深々と下げる四人にユキハは一度言葉を飲み込むも、溢れ出る涙の粒と共に叫び声をあげる。


「わ、私が欲しいのは部下なんかじゃない! 私が欲しいのは、欲しいのは――」

 

そこまで言い放つと踵を返し町へ向かって走り去ってしまった。四人はそれを追うことなく見守ると、マグナはガシガシと頭を掻くと胸ポケットから煙草を取り出し火をつけ、白い煙を深く吐き出す。


「流石にいきなりは重かったんじゃない?」

「心配か? カレン。まぁ、確かにいきなりはヘビィだったかもな。でも、それは遅かれ早かれだろ。俺達も行くぞ。モノ、ニオイを追ってくれ」

「お前らわかってない! ユキハのことほーんとわかってない!」


犬柄の面をつけたモノがユキハのニオイを感知していると、その空気を断ち切るかのようにトウヤは怒声をあげた。その言葉にマグナは隠すことなく青筋を立て、煙草の火口をトウヤに向ける。


「へぇ? お前、トウヤって言ったっけ? お前にはユキハの気持ちがわかるってのか?」

「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってるんだよ。あいつの事だ。あいつは部下なんて求めていない。特に自分のために身を尽くすような存在なんてな」

「じゃあ何を求めているってのさ」


モノの問いにトウヤは遠い目をし、小さくその口角をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る