1-4話

一足先に目的地へと到着したアイリスは仮面を外し、古びた一冊の本をユキハに差し出した。


「「世界を壊した救世主……」」

「お二人はご存じですか? この昔話。我々のことを知っているユキハ様には今更なお話かもしれませんが」

「有名な昔話です。その昔、世界を侵略しようとした悪魔たちから世界を守った救世主がいて――」 

「その救世主は実は鬼で、世界を壊した最後の敵だった……って話っすよね? 有名な話だから俺も知ってるけど、それとユキハと何の関係があるんすか?」

「その救世主……つまり、【時渡りの姫】の魂を持つ生まれ変わりがユキハ、お前なんだよ」 


そんな会話の入れ違いで山の下方から追ってきた三人が姿を現し、アイリスの代わりにマグナが答え、アイリスは静かに身を引き頭を下げた。


「生まれ変わり?」

「そうだ。んで俺達四人は姫の部下だった獣騎士の生まれ変わりで、姫の生まれ変わりに仕えて守護する正式な獣の守護者なわけ。だから、俺たちは覚醒具であるこの仮面をつけることで、人の力を越えた獣騎士としての力を使えるのよ。例えばこいつは飛行能力を得ることができるし、俺は火龍の攻撃力を得ることができる」


「あの、ダメだった奴らってのは?」


 ユキハの問いにモノがマグナの背中からひょいっと顔を出す。


「その質問には僕が答えるね。あの子たちは獣稀って言うんだ。僕たちと同じ獣騎士の血を分けた獣の一族で、その名の通り獣の力を持つ稀な存在なんだけど、僕達との競い合いの結果、その力が足りなくて騎士の称号、そして守護者の称号をもらえなかった子たちなんだ。騎士でない以上、我が君に対しては当然、一般人にもその素顔を晒すことは許されてないんだよ。だから、常に覚醒具をつけてるんだ。……まぁ、二人が感じた視線はあいつらの羨望の眼差しってとこじゃないかな?」


「ふーん。なるほどねぇ。ん? でもこの話のラストって確か……」


 一通りの話を聞き、一つの疑問を持ったトウヤはパラパラと手渡された本のページをめくっていく。その様子を見た四人は悲痛な表情で視線を逸らし、アイリスはそっと本に両手を添えた。


「そう、我が君は死にました。時代の荒波にもまれ、我々獣騎士の目の前で。その日から初代獣騎士達は新たな任に就いたのです。より強い血を残し、より強靭な能力を後に生まれる我が君のために。そして生み出された今代の正式な獣の守護者が我ら四人で、我らにとってユキハ様がこの世界で一番尊い存在なのです。そしてこれも併せてお話しなくてはいけませんね」


チラリとカレンに視線を送ると、カレンは頷き返す。


「ユキハ、あなたは死ぬよ。初代の我が君と同じ十八になる誕生日の夜に」


今まで語られた話に思考停止していたユキハだったが、カレンが告げた唐突な余命宣宣告に血の気が引いていくのを自覚する。


そんなユキハの様子を察したトウヤは慌てて口を開いた。


「そ、そんなこといきなり言ってユキハの気持ちも考えろよ! それにこの話本当にユキハなのか?」

「いいの、トウヤ。それに――」


この四人がこのように自分の目の前に現れ、目の前で跪くこと。そして彼女が覚醒具をつけ華麗に空を舞い、当然のようにその手を取ること。それらの感覚に言葉を続けることができず、先程手を取った右手を見つめた。

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