1-2話
施設から出ると最初は周囲の目を過剰に気にするユキハであったが、その必要はないことを悟り、少しずつその持ち前の笑顔を取り戻し屋台を眺め歩いていく。
その様子に安堵したトウヤもまた安堵し、学院へと続く屋台を物色するが、先程から漂ってくる美味しそうな匂いに足を止めた。
「フランクフルトかぁ……うまそうだな。ひとつくらいいいよな?」
「だ、だめだよぉ。買い食いは入学式の後でって書いてあったし……あ⁉」
フランクフルトを売っている屋台の前で二人が押し問答していると、突如突風が吹き荒れ、それに足を取られた屋台のテントは音を立てて崩れ落ち、トウヤは瞬時にユキハを羽織っているマントで庇った。
「ユキハ⁉ 大丈夫か? 怪我はない?」
「私は大丈夫……だけど、おじさんが、おじさんが――」
咄嗟にトウヤを払いのけ崩れ落ちたテントに近づこうとするユキハの肩を取り引き留める存在がいた。
「今近づくのは危ないからやめておけ。マグナ、そっちはどうだ?」
その声に驚き振り返ると、長めの白髪で右目を隠した高身長の男性が立っていた。
「お、ゼロも来たか。このトラブル生成体質、こりゃ本物だな。こっちは大丈夫だ。モノもいるんだろ? よろしく頼むわ」
「もち、僕もいるよ! オッケー、任せてちょ」
ゼロと呼ばれた青年の背中にはまだ年端のいかない金髪の少年が張り付いており、身軽に飛び降りると笑みを浮かべ領域を展開させる。
すると空中のいたる所で放電が始まり、それに呼応するようにテントが浮んだかと思うと、ゆっくりと元の形に戻っていった。
そしてテントの下からは、店主を庇う赤髪の青年と、同様に結界を張っていた二人の女性が姿を現し、改めて店主の無事を確認し立ち上がるとユキハの元に歩みを進める。
五人はユキハ達と同様に白い制服を身にまとっており、ゼロを除く四人は頭に文様が描かれた白い面をかけており、それを見たユキハは首を傾げた。
「白い、動物の、お面……?」
「ユキハに代わってお礼言うよ。助けてくれてありがとな」
「僕は我が君のために助けたのであって、あんたにお礼言われる筋合いないから」
そんな悪態をつくモノの頭に、ゼロは容赦なく拳を振り下ろす。
その衝撃にモノは悪態をつこうとするも、ユキハが視界に入り慌てて赤髪の青年の背に隠れた。
「ったく。許可もなく御前にまかり出てごめんな、我が君。俺は火属性銃火器科三年のマグナ=ヴァイント。ほらお前らも自己紹介しろよ」
「ぼ、僕は格闘技科二年のモノ=ステラント。雷属性だよ。十歳だけど立派な特待生なんだ! ずっと、ずっと逢いたかったよ我が君」
マグナの後ろからひょっこり顔を出し、そのように言い放つと、隣に立つ赤茶髪の女性はクスリと笑った。
「モノが優秀なのはみんなわかってるよ。あたしはカレン。カレン=ラーズバード。銃火器科二年の地属性だよ。で、こっちが……」
「槍術科二年、水属性のアイリス=ランフィートと申します」
四人は自己紹介を終えると共に、ユキハの目前で静かに跪いた。
『我が君。我ら四人、あなたを守護するために参上しました』
「え? えっと?」
突然の出来事に狼狽しているユキハを見たゼロは、絹に触れる如く優しく頭を撫でる。
「あいつらはずっとユキハに会える日を待っていた。俺はゼロ=ストラトス。刀剣科三年の風属性。あいつらの友人ってとこだ。お前等二人もあいつらに自己紹介してやれ」
ユキハの緊張を解くには少し時間が要すると判断したトウヤは、先に軽く頭を下げた。
「その制服、みんな各学年の特待生? 俺はトウヤ。トウヤ=クラウド。そこの先輩と同じ、雷属性の格闘技科だよ。ほら、ユキハ大丈夫か?」
トウヤのサポートに頷くと、ゼロの後ろから少しずつ言葉を紡ぎ始める。
「……えっと、ユキハ=トーシスです。まだ学科とか決まってなくて、入学してから決めるって聞いてます。その……我が君って、先輩たちの主ってことですよね? 絶対人を間違えてますよ」
そのように話すユキハの言葉を聞いた四人は、心惹かれて聞き入っており、そしてそんな四人にゼロは再び深いため息をつくとユキハの頭に手を乗せる。
「今まで辛かっただろ。ユキハ、お前は魔力を持っていなくて、重度のトラブル生成体質だな? このテントがそのひとつだ」
図星をつかれ更に悲しみが増すユキハに、マグナは言葉を重ねた。
「そう! その二つの体質が我が君の証拠なんだよ。んで、その人を守るのが獣の守護者である俺たちの役目なの。二人とも獣騎士って聞いたことないか?」
【獣騎士】という単語がユキハの頭にある、施設で幼い頃から読み漁った本の検索にかけられる。すると一冊の本の内容がユキハの脳内に再現された。
「【獣騎士】……その昔、この世界に魔法という恩恵を人間に授けた、獣の力を持つ騎士。【世界を壊した救世主】に仕えている。そして今も尚、その生まれ変わりが獣の守護者という名の元で救世主と行動を共にする……」
「おお! よく知ってるじゃん‼ こいつは嬉しいねぇ」
「ユキハには絶対記憶があるからな!」
かつて目にした本の記憶を引き出すユキハに対して自慢げになるトウヤに、モノは拗ねた様子で口を尖らせた。
「凄いのはお前じゃなくて我が君じゃん」
少しずつ冷静に考えてみると、今まで自分が置かれてきた環境、運命的に出会ったこの四人に対し他人感を覚えず、そして何より目の前で跪くという行為に対して違和感を感じないという現実に色々と思い当たることもありユキハは静かに考えこむ。
「でも、我が君っていうのはやめていただけると……恥ずかしいし」
「我が君の望みってなら仕方ない。んじゃ、ユキハってことでよろしくな!」
そんな話をしていると、先程までの騒動もあり、徐々に人だかりができ始め、騒ぎになりたくないのか、それを避けるように五人はその場から去っていく。
「詳しくは入学式の後で……な♪」
そんなマグナの意味深な言葉を残して。
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