昔世界を壊した救世主を今度こそ救うおはなし ~時渡りの姫と冥府の王~

時雨ユウ

第1話:始まりと出逢いは突然に

「ほ、本当にいいのかな……」


真新しい、純白のワンピースにボレロ、そして学院指定のマントを着こみ、鏡の前に立つ少女が一人。

その手には金色に輝くミツバのエンブレムに、『ユキハ』と少女の名が彫られたバッチが握られていた。今日は世界に三校のみ存在する王立魔法学院の一角、王立魔法学院マトリア校の入学式なのだが、先日ユキハの元に純白の制服と共にこのバッチが届いたのだ。


これは毎年入学試験の結果をもとに選抜された特待生二名に贈られる伝説のバッチと謂われている。


「特待生ならタダで学校に通えるし、卒業できれば明るい未来が待ってる……お金ない私達には助かるけど――」


しかしこの特待生選抜に嬉しさと同時に、気が引ける理由がユキハにはあった。この世界に生きる人間はみんな生まれつき魔力を有しており、成長と共に自身の領域を展開し魔法の使い方を身に着けていく。

中でも王立魔法学院に入学する者となると、独自の領域を展開し、初級レベルの魔法であれば縦横無尽に使いこなすというのが言わずと知れた常識である。


それに対し、ユキハは領域展開できないどころか、魔法全体がからきしで、自身に流れる魔力の属性すらわからない。では武術に優れているのかというと、幼い頃から施設の特別室にて幽閉されて育ってきた彼女にとって自身に適する武器もわからないときた。


悶々と考えながら身繕いをしていると、唐突に古びた鉄製の扉が叩かれる音が部屋中に響き渡った。


「おーいユキハ。準備できたか? そろそろ出ないと遅れるぞ?」


そんな声と共にゆっくりと開かれる扉にハッとすると、ユキハは慌てて声をあげる。


「トウヤ⁉ ダメだって!  急にドア開けたら……」


制止するその声も虚しく、思い切り解き放たれた扉は、隣に置かれている本棚に衝突し、その反動で積まれた本の束が遠慮なくトウヤの頭上に降り注ぎ、彼は重力に従って地面へと沈んでいく。


その衝撃にユキハはたまらず目を塞いだが、音が消失後ゆっくりと眼を開きおずおずと尋ねた。


「だ、大丈夫……?」


返答こそなかったが、代わりに彼のチャームポイントである黄色い浮き毛がぴょこっと挨拶し、主の無事を告げる。


そう、魔法関連だけでなく彼女に近づく者に対して無差別にトラブルを生むという呪いを生まれつき持っているということもまた悩みの種だった。


「気にすんなって。もう慣れっこだしな!」


トウヤが本へのダメージを確認しながら本棚に並べていると、その目先ではユキハがぽろぽろと大きな涙の雫をこぼしていた。


「ごめんね。私がこんなだから……私が化け物だから」


そこでトウヤは強くユキハを抱きしめ、その色素を持たない純白でふんわりとした髪を撫で、切り傷が残った自身の左腕を彼女に見せる。

するとそれは瞬時に塞がり、傷そのものが消えていった。


「だいじょうぶだって。俺の傷もすぐ治っただろ? お前が化け物なら、俺もそうだよ。ほら、俺達仲間だ。一緒に学院に行こうぜ。ここならきっと友達ができるって」

「友達……」


『友達』。彼女にとってこれほど重たい言葉はないことを彼はよく知っている。だからこそ敢えてそれを口にするのであった。


「さぁ一緒に、外に出ような」


トウヤは鞄から古びた鍵を取り出し、ユキハの足を鎖から解放させる。鎖から解放されたことにより、自由を得たユキハであったが、いざ自由となると喜びより不安が勝り、力強くトウヤの服の袖を握った。


「外に出てからも……これからも、ずっと一緒にいてくれる?」

「お前がそれを望むなら、ずっと隣にいてやるよ。でもその前に……その髪色は流石に目立つからな」


トウヤがユキハの額に口付けをすると、純白の髪は色素を得て金色に染まっていく。


「その髪色ならどう見ても雷属性の一生徒だろ。さ、行こうぜ!」


ユキハの不安を全て吹き飛ばすような満面な笑顔で、ユキハの手を取りゆっくりと部屋を出ると、学院に向かって歩き始めた。

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