2 彼と逃げるまで
遡ること1年と数ヶ月前。この魔法の国に召喚されて最初に思ったことは、「コスプレかぁ。この人たちの服、いくらぐらいで売れるかな」だった。
先の思案からご察しできる通り、私は服が好きな新人のアパレル店員で、さらに幼少期からひどく貧乏であった。まともな食事も服も娯楽もなく、親からは「産むんじゃなかった」と毎日罵られる。いつの日か感情というものがよくわからなくなり、ついたあだ名は鉄仮面、ロボット、悪魔、ゴミ。ちなみに鉄仮面というあだ名は小・中・高皆勤賞であった。
やっとの思いで高校卒業後、密かに憧れていた服屋の店員になる。なんとかぎこちない営業スマイルは覚えるものの、私は心の底から感情がなくなってしまっていたようだ。当然皆も馬鹿じゃないから、私の異端さに気づき、私から徐々に距離を置くようになる。
楽しみもなく、親からは金を送れとせびられ、ただ貧乏なりに足掻いて必死に働く毎日。そんな日々を送っていた私がある日突然、目が覚めたら全く知らない場所、いや、世界へと来ていた。
「貴女様は選ばれしもの、聖女なのです! 国を挙げて貴女様を歓迎いたします。どうかこの国の繁栄のため、力をお貸しください……! 貴女様になら、この国すべての人間が物も金もすべて差し出すでしょう……!」
神官のような服装のご老人が、涙目で私に跪く。
そんな美味しい話があるか。きっと今もカメラが回っていて、私が信じたところを撮って嘲笑うのだ。そんなことを思いつつ、私は「はぁ」と返事を零すだけだ。言われるがままに手を引かれ、着替えさせられ、今までの人生で一番豪華な食事をとり、ふかふかのキングサイズのベッドで眠った。
親にたかられて、お金が無さ過ぎて3食もやし炒め生活2日目だったことが大きな要因だろう。私はこのドッキリに乗ったふりをしようと、睡魔に包まれる中で決める。どうせなら目先の極楽を楽しんでから、散々と嘲笑われようと思った。
この世界が夢やドッキリなどの、虚構なんかじゃないと気が付くのは翌日の朝のこと。
ばしゃん! と水面が荒ぶる音がした。私は男性に勢いよく突き飛ばされ、噴水の中に転げ落ちた。
王の謁見の間へと向かう途中、メイドさんらしき人にバケツの水をかけて笑う、騎士のような恰好の男の人たちが3人いた。けたけたと、意地の悪さが溢れ出る品のない笑い方。腹が立ち、私は間に入って彼女をかばっていた。正義感だとか、そんな大層なものじゃない。学生時代に同級生に同じことをされたのを思い出し、無性に腹が立ち、つい足が動いていた。
「貴方たち、いくらなんでもやりすぎじゃないでしょうか? ドッキリかなにか知りませんが、さすがにこのような幼稚な行い、目に余ります」
淡々と事実を口にした。男たちは顔を見合わせて笑う。だが私が1ミリも表情を変えないことに腹が立ったようで、私はまんまと突き飛ばされ、噴水にばしゃん! と落ちてしまった。
強く打った後頭部がガンガンと痛む。夢にしては痛すぎるし、ドッキリならやりすぎだ。
「お、俺は悪くない! 気持ち悪いんだよ無表情女!」
やがて私を突き飛ばした男とその仲間たちが、鎧を着た人たちに怒鳴られながら連行されていく。未だ痛む頭と「聖女様になんてことを!」と沸騰したかのように騒ぐ周囲の人々の尋常じゃない様子に、どうやらここにいる間は、ドッキリだとか高を括ってはいけないと、ぐっと腹に力を入れた。
軽い手当の後、王の御前に連れていかれた。
「貴殿には近年多発している魔物の侵攻を食い止めてほしい。もちろん強制ではない。首を横に振るならば、数日はもらうが、元の世界に貴殿を帰そう」
「やります。元の世界に未練などありませんので」
「……なんと。今までの聖女候補はみなすぐに帰ってしまい、こんなにも献身的ではなかった。稀に見る素晴らしい聖女だ」
王は満足げに髭を撫でる。一方で私は「3食つき豪華な暮らしをひたすら堪能するまでは帰れない」と、とにかく食らいつこうと意気込んでいた。浅ましいことこの上ない。
とんとん拍子に話は進む。私はこの城に住み、この国の歴史や魔法の扱い方など、基本的な教育を受けることとなった。
座学は大変だったが、魔法に関する勉強や実践練習はとても楽しかった。異世界の人間だからか、私には魔力がたくさんあり、様々な魔法を使うことができる。ただ問題があることと言ったら、楽しくてつい、没頭してしまったこと。それも周囲が頬を引きつらせるほどに。もうひとつ、この世界では日常生活で使う魔法以外で、私が得意とする攻撃魔法を女性が使うことは、ほぼ無いこと。
『あの方、1年近くいるのに攻撃魔法ばかり……。いくら聖女だからとはいえ、あれでは何かに取り憑かれたようです』
『しかも食い意地が張っているし。浅ましい』
『愛想良くしようとしてるみたいだけれど、あんなに魔法に没頭している時点で同じ人間じゃないわ』
『この前メイドにありがとうって言ったらしいわ。何の魂胆かしら』
『全く、聖女だからって理由で、私たちがあんな気持ち悪い人に仕えなくちゃいけないなんて……』
お世話になっているのだから、少しでも愛想良くしようとしたが、ダメだった。嫌われていると自覚してからは大人しく、メイドたちの数多の陰口は愛想笑いで聞き流していた。こんなこと元いた世界で散々言われ慣れているし、相手にするぐらいなら魔法の勉強をしたかった。
1年が経つとき、更なる面倒ごとが降ってくる。
「我が息子である第2王子のハーモニと婚約を結んではもらえないだろうか?」
王はわざと聞こえるような声で「第2王子は主に魔法関係の人事や予算など、魔法に関する事務作業を官僚たちとともに仕切っているからなぁ」と呟く。要するに「これからも今まで通り、お前の大好きな魔法の勉強がしたいなら結婚しろ」という訳だ。この人もさすが人の上に立つだけある。手段なんてものは選ばない。
どうせ好いた相手もいないのだし、何よりも魔法の勉強ができなくなることは辛すぎる。恋愛感情なんて晩年を迎えるときまで恐らくないであろう私は、いつも通りの無表情で頷いた。
「キヌヨはいつも一生懸命で、僕も元気をもらえるんだ」
第2王子、ハーモニ様とは週に1度会っていた。まだ17歳のこの方にはものすごく丁寧に、ものすごく親切に接してもらえた。私はなんだか申し訳なくて、好意的にしてもらってる以上、なんとか好きになってもらえるよう、なるべく明るく振る舞った。
「魔法は男性の特権だけど、君みたいに懸命に研究する女性も素敵だね。攻撃魔法がこんなに素晴らしくできる女性を、僕は初めて見たよ。特に君の雷魔法は、目を見張るものがある」
ハーモニ様は柔らかく笑う。視界が弾けるくらいに心が弾んだ。そんなことを言われた日、私は憂鬱極まりなかった婚約者としてのいわゆる花嫁修行も力を入れて取り組み始める。
彼は会うたび私を肯定してくれた。とにかく優しい人だった。だんだんと私の心は和らいでいく。自分でも単純だと笑う。私は私が思う以上に、肯定に飢えていた。魔法以外のことで嬉しいという感情を久々に味わい、ちょっと舞い上がっていた。
だが、数ヶ月後に返ってきたのは、雷のようなひとつの言葉。
「愛人候補を10人ほど父上が選んでくれたんだけど、キヌヨはどの人がよさそうかな? ちなみにこの国の法律で、愛人は5人まで選べるんだけど」
底のない暗闇に突き落とされた気がした。私は馬鹿だった。小さな優しさにひどく浮かれ、そしてもう1年が経つというのに、まだこの世界のことを理解しきれていなかった。この世界は日本とは大きく違うことくらい、勉強していたはずなのに。
「……ごめんなさい。元いた国は、一度に一人の人としか結婚できない法律だったから、その、驚いてしまいました」
「あぁ、そうだった! 僕としたことが、異世界文化学の授業でそういう国もあると学んだはずだったのに……。ごめん。あ、そうだ、急で悪いけれど来月にその候補たちとの顔合わせがあるから、マナーのレッスン頑張ってね。それと今後、この国の貴族の女性にとって魔法の研究をすることは非常識……ごほん、危険だから、昼の決まった時間にだけ頼むよ」
知らない単語と事実が多い所為だろうか、ハーモニ様の声が遠く感じるのは。言葉がすり抜けていくその中で、彼の「非常識」という言葉が、耳と体の奥にある見えない臓器に残って、消えやしなかった。
あとは皆様、ご察しの通りである。ハーモニ様は愛人候補たちにくびったけ。優しい仮面は禿げていった。加えて、魔法の研究は1日1時間しかさせてもらえない。一部の愛人候補からは「こんな女が婚約者で私たちが愛人だなんて」と罵詈雑言を浴びせられる毎日。
ただでさえ無いに等しい私の感情はどんどん薄れていった。そうしなければどこにも逃げ場がないのだ。魔法を使える時間だけしか、私は生きている実感がない。1日1時間しか魔法が使えないから、とにかく隠れて紙に魔法に関するメモを書き殴った。紙切れだけが命綱だった。
しばらくして、私はハーモニ様の執務室に呼びだされる。ハーモニ様の座る革の椅子の周りには、愛人候補が2人、にやにやと笑って立っていた。
「キヌヨ、実は今度の夜会で発表があるから、キヌヨもおめかしして出席してくれ。どうせ魔法しか予定がないし、暇だろう?」
「やだぁハーモニ様ったら、本当のこと言ったら可哀想ですよ」
「ふふっ、おめかしだなんて。できるといいですねぇ。そんな特徴的な顔と髪と身体してる分際で、似合うドレスがあれば幸いですが」
あからさますぎる悪口に反論する気もなくなっていた。ただ頭を下げて「かしこまりました」と告げて部屋を出た。
自室に戻ってもなんだか呆然としていた。日が沈み、夜になっても。窓から星空をなんとなく眺める。この世界に来たときは、食事のために見知らぬ世界に身を投じたというのに、今はそんな気力が懐かしい。もう私には何もない。気力も、希望も、未来も。日本にいた頃さえ何もなかった人生なのだ、きっとこれからも何もないのだろう。
夜空にしゃらり、と、オレンジ色の流星が走っていく。私は意味もなく手を伸ばし、力なく下ろした。
*
多くの貴族の人々で賑わうダンスホールで、そのときは訪れた。
「キヌヨ・ミネダ、君は王家の恩で城に置いたにも関わらず、勉学を怠け、使用人や僕を慕う女性たちに無礼を働いた! そもそも君のような攻撃魔法ばかりの無表情で無愛想な不気味な女、この僕の婚約者として到底相応しくない! よって、君との婚約は破棄し、魔物との第一戦線へ向かわせることとする!」
ハーモニ様は堂々と、両隣に女性を侍らせながら告げた。これ、日本にいた頃に無料漫画アプリで見たことある。悪役令嬢とかの、断罪とかいうイベントだったような。
くすくすと私を嘲笑う声が漂う。私はそっと挙手する。
「婚約破棄と第一戦線へ私が向かうことについて、陛下がお認めになったということですか?」
「そうだ! 陛下はこの国の民が魔物の被害に苦労していることに、大変心を痛めている。今まで勉強させてやった恩に報いるよう、この国の、民の平穏のために、死ぬまで奉仕活動を行うように」
「……そうですか」
私だって一応この国の魔物被害について勉強してきた身。魔物は直接見たことはないが情報は得ていた。
魔物とは、この国の天井に住まう女神が生み出した瘴気から生まれる、動物でも人間でもない生物。闇ともいうべき薄暗い魔力を纏いながら、人を襲う生き物。
魔法が使える健康な成人男性ひとりで、せいぜい1度に2体討伐するのが限界だと聞いている。さらに魔物たちが生まれる瘴気との境界に近い第一戦線は、毎日何十体も魔物が生まれ、元犯罪者や貴族社会から追い出された者たちが討伐にあたっているとか。
私は頭を下げる。
「かしこまりました。今まで大変お世話になりました」
顔を見せないように深々と頭を下げたのは、長いこと衣食住を保証してくれた感謝と、せめてもの皮肉だった。ここで無様な姿を見せたりなんかしない。
「まぁ滑稽。今から全てを失うというのに」
「相変わらずの無表情のくせに、一応礼は言えるみたいだな」
「どうせ思ってもいないくせに」
ひそひそ、くすくす。私への悪意に満ちた囁きにも、涙なんか流さない。
全てを失うのは初めてじゃない。この世界には魔法がある。上等だ。私はひとりだって、地べたを這いつくばって砂を舐めたって、生きていける。これまでも、これからも。
「なんという清らかなお心!」
私が顔を上げたときだった。囁きに満ちた空間が、ざわっと揺れた。
パチパチと軽く、だが大きく響き渡る拍手。カツン、カツンと鳴る靴の音。背後から聞こえるそれに、私は振り向いた。
「さすがは聖女様、このような下品な場でも礼節を弁えていらっしゃる」
背の高い、オレンジ色の髪の美しい男性が私を見下ろして笑っている。きらきらと青色の刺繍が施された真っ黒なローブは、高級感が溢れ出ていて彼の整った顔がよく映える。
「え、あ、ありがとう、ございます?」
「なんと! わたくしのような呪われた地に住む魔術師にお言葉を……。感無量でございます」
「失礼ですが、貴方様は?」
「あぁ、申し遅れました! わたくし_____」
「シロール!」
ハーモニ様が不機嫌極まりない表情で、言葉を遮る。ハーモニ様はずんずんとこちらに歩いてきた。
「何をしにきた! ここは神聖なる場、お前のような『辺境の呪われ魔術師』が来るとこではない!」
「おやおや、それは失礼。あまりに聖女様への薄汚い罵詈雑言が飛び交うものですから、そんな大層な場だったとは思わず。ま、そんなことはどうでもいいですが」
「なんだと!?」
シロールと呼ばれた男性は、私の手を取る。膝をつき、まるで物語の王子様のように私を見上げて、優しく微笑んだ。
「キヌヨ・ミネダ様。偉大なる貴女様が全てを失うというのなら、わたくしが全てを貴女様に捧げます。どうかわたくしと、婚約していただけませんか?」
時が止まる。パチ、パチと瞬きを繰り返してしまう。婚約、私と、たった今婚約破棄されたばかりの私と、婚約?
「えっと、それはどういう意味でしょうか?」
「言葉の通りです。この身を焦がすほど、貴女様をお慕いしているのですよ、わたくしは」
男性は頬を染めてうっとりと笑う。
「おいシロール!」
男性が顔色を戻す。微かに「チッ」と舌打ちした音が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
「陛下からの許可はいただいております。今ここで簡潔にお伝えしましょう。聖女様に向かって、頭が足りない発言を繰り返すここにいる全ての方々へとね」
「な、なんだと!?」
男性は私の手を掴んだまま、口角を上げた。
「まず、聖女様との婚約破棄は陛下もお認めになっている。戦線に向かうこともね。そして第一戦線は我がオニキス家の領地。さらに戦線へ事実上追放すると言えど、聖女様は王家が面倒を見た上に、類い稀な攻撃魔法の才をお持ちだ。ですので陛下は監視をつけるご予定でした。なら話は早い。わたくしが婚約者として聖女様を監視しつつお守りし、聖女様には国のためにお力添えいただく。これで全て丸く収まります。これらを陛下に進言し、承諾を得ました。以上です」
「ふざけるな! キヌヨには馬車馬のように、死ぬまで働いてもらうんだぞ!?」
「何故、殿下は死にこだわるのですか? まるで苦しい死を望んでいるようだ。死ぬまで働くなら、彼女がのびのびと自由に、幸福を享受しながらの方がよろしいのではないですか? 魔法の研究をしながら、きちんと健康管理をするべきかと。そうすれば寿命も伸び、長い目で見ても良いでしょう」
「違う! この僕に好かれようとしなかった、愛想をよくしなかった罰として、彼女には死ぬまでずっと苦しんでもらうんだ!」
ハーモニ様がそこまで言うと、会場が動揺でざわめいた。いくら王子といえど、聖女を死ぬまでずっと苦しめるだなんて発言、王家の人間として失言である。ハーモニ様はざわめきの中、ようやく自分の発言が悪手だったことに気がついて「いや、これは」と、きょろきょろと視線を泳がせていた。
私は隣の男性の顔を見上げる。彼は口元を手で抑えていた。手の下から小さく見えた口元は弧を描いていて、瞳は鋭利なサーベルのような、強さと恐ろしさを宿していた。蜘蛛が獲物を捕らえたときのような愉しそうな表情に、私は何故だか目が離せない。
「これはこれはなんということでしょう! 見知らぬこの国のため、勉学や慣れぬ魔法の研究に勤しんでいた聖女様を、愛想なんてもので裁くのがこの国の王家でございましたか! なんと悲しい、なんと嘆かわしい!」
まるで劇を見ているようだ。シロール様の仕草、瞳の動き、言葉の一つ一つ。それらがこの場の空気を操る、マリオネットの糸のようだ。彼が生み出した形容し難い見えない流れに沿って、ハーモニ様はどんどん顔を青くする。
「殿下。愛想なんてもので飯は食えないし、安息なんてできません。貴方が仰る民の平穏なんて叶いませんよ」
だけどこの方の言うことは全て真っ当で、そして時折私を見て、優しく微笑むから。私は、私は、どうにも。
ハーモニ様は髪を振り乱す。
「う、うるさい、うるさいうるさいうるさい! 兵よ! 元聖女とこの男を拘束しろ! 不敬罪だ!」
私と男性を指さす彼はもう、私が最初に信じていた優しさの仮面も全て剥がれ落ち、なんだか哀れな気さえした。
「聖女様、わたくしの求婚のお返事は後日で構いません。ひとまずわたくしの手を取っていただけますか?」
「……寧ろ、取ってくださるのですか? 不気味だと言われ続けるこんな、聖女なんて名ばかりな女を」
「おや、この城の人間どもの見る目がないだけですよ。わたくしには紛れもない、天からの贈り物のような素敵なレディにしか見えません」
「レディ、なんて初めて言われました」
「なんと、わたくしとしたことが浮かれて、聖女様にレディなどと。失礼でしたなら謝ります。まぁ、ともかく今は逃げますか。こんな下らない夜会なんか放り投げて、辺境の星空の下でダンスでもいたしましょう」
兵に囲まれた中、私たちは軽やかな言葉を交わし合う。
シロール様はぐっと私の手を握ると、人差し指でくるりと円を描く。すると今足をついていた筈の石の床に、人が2人通れる白い空洞が空いた。魔法だとすぐに察した。が、こんな空間に穴を開けるような高度な魔法、初めて見た。
「手を離さないでいてくださいね、聖女様。ではでは皆様! 我々はこれで失礼いたします! どうか良い夜を!」
何か喚き散らしているハーモニ様の声も、周りの貴族たちの声も届かない。
私たち二人は落ちるように穴に吸い込まれる。目を瞑りながら私は、シロール様の手をずっと握っていた。私たちは出会って数分だ。でも、この夜から一緒に逃げてくれる。それだけで、この手を離さない理由として十分だった。
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