流星様と踊る日に 

区院ろずれ

1 プロローグ


 広大で神秘的な、青いバラが咲く庭園。その真ん中の四阿で、鮮やかなオレンジ色の長髪の彼は正座している。ちなみにここはこの「魔法大国アルヴァ」で一番の大魔法使い、シロール・オニキス様の屋敷。そして目の前で甘える犬のように私を見上げるのは、シロール・オニキス、本人である。


「キヌヨ様、新しい町はお気に召しませんでしたか?」

「そうじゃありません……!」


 私の名前はキヌヨ・ミネダ。もし私の人生が物語になったとしたら、きっと察しのいい人は、私が異世界である「日本」という国から召喚された異世界人であるとわかるだろう。私のこの長い黒髪も、黒髪の人がほとんどいないこの国では異質なものだ。


 そんなことはどうでもいい。問題は目の前のこの男の悪癖だ。


「私のために町の統治権ごと購入するのはやめてくださいと、何度言えばわかるのですか?」


 シロール様はうるうると、口元に手を当ててわざとらしくこちらを見つめる。


「だってぇ」

「だってじゃない。元の領主様に返してきてください」

「そんな捨てフェアリーラビットを拾った子供に言い聞かせるように……。残念ですが無理です。元の領主はわたくしが消し___」

「え?」

「いえ、お気になさらず。では他に欲しいものは? あ、この国まるごとでもいいですよ? どんな醜く極悪非道な手を使ってでも、貴女のためなら国一つ落としてみせます、わたくしは」

「貴方の言うことは冗談に聞こえないのでやめてください」

「冗談じゃないのに……」


 可愛く見えるように頬を膨らませても、私は新たなため息を零すだけだ。


 一応、私は彼の婚約者である。この世界の一般的な婚約者と違う点は多々あるが、一番はこの、己の住まう国さえも私に捧げてしまいそうなほどの、彼の溺愛っぷりだろう。


 最初に言っておこう。これからの話は、恋物語というにはいささか厳しい。独占欲と、嫉妬と、崇拝と、ひとつまみの鼻血。それらを煮詰めた、少々問題のある恋物語だ。



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