第一幕 桃が今日、狂狂ぱぁ(2)
「ア゛ーーーッハハハハハハァ!ジュバババァーーン!」
桃我狂は迫り来るツメの軌道を表す漆黒の光を、キックで犬の腕や腹を次から次へと飛び移って躱し続け、相手の身体中をズババババッと手当り次第に斬りつけた。
剣閃が鮮やかな桃色に煌めく。
「!!……ギビィィィィィィ!ダンァァァァァァァァァ!」
血飛沫が舞い散る。
大犬はちょこまかと跳ね回る桃我狂に苛立ち、地響きを起こしながら巨大な身体を空高く跳躍させたかと思うと、フィギュアスケーターの様にトリプルアクセルした。
無理矢理身体から引き剥がそうという考えらしい。
「寄越ゼェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
ツメの漆黒の軌道が円を描き、山すら砕く竜巻の様に空気を抉る。
流石の桃我狂も、これにはひとたまりもないと思われた。
が、
「ア゛ーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハァ!」
気付くと、桃我狂はツメの先端の上に立ち、思い切り身体を広げて高らかに笑っていた。
「!ギギャッ!?」
驚愕した大犬を他所に、桃我狂はその場からズダァンと強く踏み出して立っていた所のツメをへし折り、自らの身体は相手の首元へと一直線に飛び立つ。
「いつもより多くゥーー!世界は回るよどォこまでもォーーーーーー!」
桃我狂は、大犬の出張った下顎を蹴って加速し垂直に落下しながら、
身体を激しく回転させつつ相手の腹という名の壁でジィィと火花を散らして刀を引きずり続ける。
そうする事で、まるで悪路を駆ける
ギャリュリュリュリュリュゥゥゥゥゥゥン!!!
と大回転切りを御見舞いした!
「!グギャワァァァァァァァァァ!!!!」
ギュイイインと分厚い黒肌を血飛沫と共にごっそり抉り取られ、犬はジタバタと苦しげに悶え始めた。
「ギ、ギビだん゛ごォォォ……寄越ゼェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」
大犬は大気を揺るがす程の巨大な咆哮をあげた。
辺りに凄まじい衝撃が響く。
近くにいた動物は失神し、植物はたちまち枯れ果てる。
桃我狂は、地面に着く前に刀をバネにして大犬の身体から飛び下がり衝撃を避けると、負けじと怒気の混じった声で叫んだ。
「〜〜〜うーーーるッせェーーーーわァーーーーーー!」
桃我狂は片手で刀をヴォンと軽々振り回し、大犬の攻撃で抉れた大地を駆け抜ける。
「グ ダ
ビ
ギ
.........ポ べ み゛ パ ペ ぽパァ!」
大犬の身体が激しく痙攣し、眼球が炭酸ジュースの様にプシュウと破裂すると、口をガクンと開けたかと思えば、ふいに、支柱の様な舌が10本に分かれ、桃太郎を串刺しにせんと襲いかかった!
「——ハァッ!」
ギインッッ!
桃我狂は槍の如く鋭く真っ直ぐ襲いかかる舌を次々刀で弾き飛ばし、ジグザグに跳ね回りながら再び大犬の元へと走る。
「ポ゛ポポポ゛ポポばァッッッ゛!」
大犬には、最早自我など見受けられない。
その姿はまるで、ただの欲望の化身のようだった。
大犬はまるで反吐を吐く様に口を抑え、「ヴォ、ヴォェエ」としばらく苦しんだ後、ふいに固まり、口から凄まじい邪気を纏った極太のレーザーを
ギュアアアアアアァァァ!!!
と放った。
桃我狂は、走りながら前方に何かを投げると、
抉れた大地を丸ごと焼き尽くすレーザーをスライディングでずざざざとギリギリ躱し、
その表紙に投げたソレをガブッと口にした。
「——ァ」
ソレを呑み込んだ桃我狂は、突如目が覚めたようにぐぉんと身体を反って立ち上がる。
そして、目をギンと見開き、遠心力と共に片手で刀を地面にズガンと突き立てた。
すると、なんという事だろう。
刀を中心に、五色の光を放つエネルギーが、桃我狂の体内に吸い寄せられるように注ぎ込まれていく。
「.....
桃我狂は頭をブンと振って長い前髪を揺らすと、
余裕しゃくしゃくな笑みを浮かべて元禄見栄を切った。
「ひどづゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!寄越ゼェェェェェェ!!!」
大犬は、トドメの跳躍とばかりに桃我狂に向かってダイブし、彼女を喰い殺さんとする。
しかし、遅すぎた。
「ア゛ーーーーーーーーーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァーーーーーーーー!!
キビキビキメるぜフェーーーーーーーーーーーーイ!!!」
五色の光を纏った桃我狂は、ズガァンと大地を蹴り上げると、一飛びで大犬の頭上を飛び越えた。
「ギュイッッ!??」
渾身のダイブを躱され、慌てふためく大犬に、千人力の必殺の一撃が襲いかかる!
「『
狂喜乱舞した剣閃が煌めき、五色の光が漆黒の大犬を
ジャギィィィィンッ!!!!
と一刀両断!
桃我狂はズザァと地面に降り立つと、勝利の元禄見栄を切り、高らかに宣言した。
「ア゛これにてェ!一件落着ゥーーーー!!!」
ジュドォォォォォーーーーーーーーーーンッッ!!!!
斬られた大犬の身体は大爆発を起こし、纏っていた邪気は穴の空いた風船から漏れた空気の様に外に放出され、やがて跡形も無く霧散した。
——そうして空も何事も無かったかのように蒼く晴れ渡り、
犬は邪気がなくなって元通りの身体に戻って、
桃我狂はふわぁと欠伸しながら引き続き鬼ヶ山へと歩みを進めましたとさ。
.....一方で。
「?.....んぁ」
一瞬、うっすらと動いた怪しげな小さい影に、桃我狂はただ目を擦った。
——続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます