第六夜 海の流れ星
「あっ、お星様!」
海水浴中、小学生の娘が嬉しそうに言う。近づいてみると、そこにはヒトデがいた。
「ああ、これはヒトデだよ」
「ひとで? お星様じゃないの?」
「形は似てるけど、これはヒトデっていう生き物だ。まあ漢字だと海の星って書くけどさ」
「やっぱりお星様なんだ! それも海のお星様なんてスゴい!」
娘はピョンピョン跳びながら嬉しそうに言う。その姿はとても可愛らしかったが、ヒトデの中には毒を持つ種もいると聞く。これがそうなのかはわからないが、触らないように言わないといけないだろう。
そう思っていると娘はヒトデを見ながら手を握り合わせていた。
「何をしてるんだ?」
「お祈りしてるの。お星様に願えば叶うって聞いたから」
「あはは、それは流れ星の話だからヒトデに願っても……」
そういって笑いかけたが、娘はとても真剣であり、その姿を笑うことはとても出来なかった。
「因みに、何を願ってるんだ?」
「幸せ」
「幸せ?」
「うん。最近知らないお兄ちゃんの夢を見るの。知らないはずなのにその夢を見た後は涙がポロポロ流れて胸の奥がキュッとなるの」
「そうか」
知らないはずとは言っているが、娘の顔は真剣だった。もしかしたら前世で仲がよかった相手なのかもしれない。
「それならしっかりと祈らないとな。消えない星が目の前にあるんだからさ」
「パパ……うんっ!」
そうして俺達は祈りを捧げた。そして終わると波が打ち寄せ、引いていく波と一緒にヒトデは流れていった。
「あっ……お星様、行っちゃった……」
「海の流れ星、か……それにしては見た目が少しグロテスクではあるけどな。俺達の祈り、届くと良いな」
「そうだね。知らないお兄ちゃんが幸せだと良いな」
娘はニコニコ笑いながら言うが、父親としては少し複雑なところではあった。なにせ、知らない相手ではあるとはいえ、娘にとって大切な存在がいることがわかってしまったのだから。
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