第二夜 恋の毒
残心の後、俺は持っていた弓を下ろす。放課後の弓道場。他には誰もいないこの場で俺は練習をしていた。
やりすぎがよくないのはわかっている。けれど頑張りたいのだ。三年生として最後の部活というのもあるけれど、理由は他にもあった。
「せ、先輩……!」
緊張した声が聞こえる。振り向くと、茶色のお下げの女子生徒がいた。入り口にはこちらを見る女の子達がいた。友達なのだろう。
「来てくれたんだね。ただ、練習はそろそろ終わりにしようと思ってたんだ」
「そうだったんですね……」
その子は残念そうに言う。その悲しげで少し縮こまった姿がどうにもかわいく見え、俺は小さく息をついた。
「でも、せっかくだから一射だけやろうかな」
「ほ、本当ですか……!?」
「うん。それじゃあ始めるよ」
静かな弓道場で弓に矢をつがえる。本当は試合を想定するべきだったが、目の前の的を射る事だけを考え、集中しながら弓をゆっくり引いた。
誰かがツバを飲み込んだ音だったのだろう。ゴクリという音が聞こえた後に矢を放った。風を切りながら進む矢は的の真ん中を射貫き、それを見た俺は残心の後に弓を下ろした。
「……うん」
「す、スゴい……! やっぱり弓道がお上手なんですね!」
「射貫きたい物があったからね」
「え?」
「なんでもない。帰るところだったし、今日は送っていくよ。さあ、行こうか」
「は、はい……!」
見ると入り口にいた子達は既にいなくなっていた。安心して帰ったんだろう。そしてその子と帰りながら俺は胸の奥にある想いを改めて感じていた。
以前、この子が来てくれた時にお互いの星座を話した事がある。俺はこの子の心を射貫きたいと思っていたが、気づかぬ内にこの子に刺され、恋の毒に蝕まれていた。オリオンはヘラに差し向けられたさそりに刺殺されたが、俺は刺された心から入ってきた毒のおかげでこれからも生き続ける。いつかこの子の心を射貫くために。
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