第5話祖父母と対面、そして悪夢
「私のお祖父様とお祖母様に会いに行く?」
「ああ、ちょうど王都に来ているらしい。行こう」
「でも……」
私は渋りました。
だって、私は母を、その方々の娘を不幸にした男との子でもあるのですから。
「大丈夫だ。向こうが会いたがっている」
「……」
「それに義父母になっているんだ、顔を合わせないのも問題だろう?」
「わかり、ました……」
あまり気乗りはしませんでしたが、エミリオがこう言ってるのだし、私は祖父母の屋敷に向かうことにした。
「つきました」
仮面を被ったまま馬車を降りる。
そして、案内されるがままに玄関に入ると──
「フィミア!」
品の良い老婦人に抱きつかれた。
どこか母の面影がある。
「え、えっと……」
「お願い、仮面を取って顔を見せて」
そう言われてエミリオを見ると、口だけで微笑み頷いていた。
私は仮面を外す。
「あ、ああ……!」
「お、おお……!」
杖をついた貴族服を着込んだ老紳士も現れ、声を漏らす。
「ビアンカに、ビアンカにそっくりだ……!」
「ええ、貴方。あの子にそっくり……!」
老紳士も私に抱きついてきて、私は困惑。
母方の祖父母にあった記憶がないから困惑しています。
「ローゼス伯爵夫妻。感激のあまり抱きつくのは分かるが、妻が困惑している」
「すみません、ドラキュリア公爵様……」
エミリオに言われて二人は涙で目尻を拭う。
「私はクレス・ローゼス。こちらはミンティア・ローゼス。フィミア、お前の祖父と祖母だよ」
「……」
「そしてビアンカは私の娘だった。孫が劣悪な環境に居たのなら救うべきだった」
ローゼス伯爵は申し訳なさそうな顔をした。
「ビアンカにはいつ戻って来てもいいと言って居たのに、あの子は最後まで戻らなかった。そして私達は葬式に参列することをあの伯爵に拒否されたの」
「死に目にも会えず……だからフィミア、お前に会えて私達は心の底から嬉しいんだ」
「お祖父様……」
「ええ、これからは何かあったら頼って頂戴」
「お祖母様……」
「その心配は不要だ、私は彼女に苦労をさせない。そう誓っている」
「ドラキュリア公爵様……孫を……
「どうか、幸せに……」
「勿論だとも」
その後、お祖父様達とお茶会をして過ごし、色んな話をした。
主に母の話。
私の知らない母の話を。
それを聞くことができて私は満足だった。
そして馬車に揺られながらうとうとと眠りに落ちる。
夢を見た。
知らない男から暴力を振るわれる夢を。
そして死ぬ夢を。
「‼」
脂汗をぐっしょりとかいてしまった。
「フィミア、大丈夫か?」
「え、ええ。ちょっと悪い夢を見たの」
「……どんなだ?」
「……知らない男から暴力を振るわれて殺される夢……」
「そうか、だが夢だ。食事をして風呂に入り、私と一緒に眠ろう。悪夢なんて見ないように」
「……エミリオ」
エミリオなりに気を遣ってくれているのが分かった。
私はそれが嬉しかった。
屋敷に帰ると、胃に優しい食事が出た。
そして、心地の良い花の香りのするお風呂に入れて貰い、エミリオと抱き合って眠った。
悪夢は見なかった。
うなされているフィミアが起きた。
内容は「知らない男に暴行されて殺される夢」だった。
私は言えない。
それは「夢じゃ無い」等と。
私だけが知っている秘密。
フィミアはとある豪商に殺された。
その豪商から金を貰ってあの汚物共はフィミアを売った。
売った先で暴力を振るわれたフィミアは打ち所が悪く死んだ。
それを知った時、私はなんとかフィミアを救いたいと思った。
今までフィミアのことを忘れたことは無かった。
だが、奴らは徹底して情報を秘匿していた。
だからフィミアが殺されるまで私は知ることができなかった。
知った私がすることは、まず我が家に伝わる「巻き戻しの魔法」でフィミアが生きていてあの豪商に会うまでに時間を巻き戻した。
そして、わずかな時間で奴らの情報を王家──カイウスに手伝って貰って素っ破抜き、フィミアを妻として迎え入れ、同時に母方の祖父母の養子にさせた。
夢で見ると言うことはいずれ気づかれてしまうかもしれない。
だから夢で見ないようにこれから「悪夢封じの魔法」をかけさせて貰う。
フィミア。
君は幸せになっていいんだ。
君の幸せのためなら何だってしよう。
それが、前回の私ができなかった罪滅ぼしだ。
君が幸せになるように。
君が笑顔でいられるように。
私は尽くそう。
悪夢はいらない。
君をおびえさせるから。
愚者もいらない。
君を傷つけるから。
君を傷つける者全てを私は決して許さない。
君を守ろう、フィミア。
私の最愛の妻。
私がただ一人愛する人。
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