第4話決別




 朝、私は目を覚ましました。

 エミリオはまだ寝ていました。

 結婚したからは珍しいと思ったけど、エミリオはダンピール。

 本来夜型。

 私に合わせてくれているのが申し訳なくなった。

 私はエミリオを起こさないようにそっとベッドから置き、服を着替えた。

 そして部屋を後にする。


「エミリオが、今日は起きないけど昨日何かあったの?」

「旦那様は夜遅くにカイウス殿下に呼び出されたようで」

「カイウス殿下に?」

 一体何なんだろう?

 私は少しばかり不安になった。


「他愛のない話だ、フィミア」


 目を覚ましたエミリオが食堂へとやって来た。

「エミリオ」

「フィミア、心配させてすまない」

「ううん、いいのよ。無理してない?」

「大丈夫だ」

 私にそう言ってエミリオは椅子に腰をかけた。

「この後、街に行かないか?」

「ええ、いいわ」

 私はエミリオに促されるままに街へと繰り出そうとした。


 すると、屋敷の前に、見慣れたみすぼらしい貴族の親子がいた。

「フィミア! ドラキュリア公爵様に嫁いだのだろう⁈ なら公爵様に援助を願えないか⁈」

「このままでは私達は死んでしまうわ!」

「お姉様お願いよ!」

 ああ、なんて身勝手な人達。


「約束を忘れるとはなんと身勝手な連中だ」

 エミリオが現れる、仮面をあの時の仮面に変えて。

「ま、まさか貴方が……」

「其処まで頭が回らぬ愚か者だとはな。私こそ、エミリオ・ドラキュリア。ドラキュリア公爵である」

 そう言って仮面を付け替える。

「私の契約を破った罰だ、金を全て返してもらおう」

 エミリオは契約書を突きつける。

 父はそれを奪おうとしたが、奪えなかった。

「魔術で保護された契約書だ、破れぬ」


「──それと、領地の民達に重税を敷いている件について聞かなければな」


「国王陛下……!」

「へ、陛下!」

 カイウス殿下のお父上、国王陛下が私達の前に現れた。

「カイウスからの調査で判明済みだ、どう責任をとる。ローランサン伯爵?」

「そ、それは……」

「エミリオ様、お姉様よりも私を正妻にしてください! お姉様みたいなみすぼらしい──ひっ⁈」

 妹が最後まで言うことは無かった。

「妻を侮辱するとは死にたいようだな」

 エミリオが国王陛下を見る。

「本日、このときをもって、ローランサン伯爵から爵位は没収とさせてもらう!」

 その言葉を聞いて泣き叫ぶ両親。

 それはそうだろう。

 平民が、貴族を侮辱したのだ。

 重い罪になる。

「公爵の妻を侮辱したのだ、処刑が妥当だろう」

 国王陛下が言う。

「許してください!」

「ねぇ、フィミア! なんとか言って!」

「助けてお姉様!」

 助けを求める元家族に私は言う。

「……」

「我が妻の父母、家族は貴様等ではない」

 何も言わない私の代わりに、エミリオが口を開いたが、内容が驚くものだった。

「我が妻は母方の父母、ローゼス伯爵夫妻の養子になっている。故に貴様等とは既に縁は切れている」

「そ、そんな身勝手な!」

「全ての権利を譲渡すると言ったのはそちらだ。まぁ、この養子縁組を決めたのは国王陛下とローゼス伯爵夫妻だがな」

 母方のファミリーネームを出され、私は困惑した。


 いつの間に──


「お前達が彼女を私に寄越した時点で、我が妻はフィミア・ローランサンではなく、フィミア・ローゼスになっていたのだ。そこから私の妻になったのだがな」

「そういうことだ、ローランサン伯爵家は取り潰しになるが、ドラキュリア公の妻はお前達とは何の関係もない人物となっている」

「そうそう、陛下。処刑は少しお待ちを」

「何故だ」

 エミリオは笑った。

「我が妻に関わった場合全額返金させる約束を取り付けているのですよ、処刑されたら返金してもらえないので」

「ふむ、では財産没収、それで足りなかった分は犯罪奴隷として鉱山で働き返済してもらう。それが終わった後に処刑だ」

「そんな!」

「あんまりだわ!」

「ひどいひどい!」

 泣き叫ぶ元家族を見ても私は何も思わなかった。

 約束も守れず、自分達の事しか見られず、考えられないそんな人達なんだなと悲しくなった。

 記憶の中にある父はここまで愚かじゃなかったはずだが、いつの間に愚かになっていたのだろう。


 そう考えていたら義妹レディナが何か光る物を持って居た。


 私に急接近する、持って居るのはナイフ。


 避けられない。

 思わず目をぎゅっと閉じる。


 パリン!


 何か音がした。

 赤い鞭状の物が蠢き、ナイフを粉々にしていた。


「貴様は即処刑を望む。我が妻を殺そうとしたが故に」

「そうだな」


 レディナはわめきながら連れて行かれた。

 そして後日、公の場で処刑された。





 公爵の妻の命を奪おうとした平民。

 という罪状で。





「……」

 処刑の場所には行かなかった。

 呪いの言葉を吐いているであろう異母妹の最後を見る勇気が無かった。

「フィミア」

「エミリオ」

 処刑場から帰ってきたエミリオに私は抱きつく。

「何か言われたりしなかった?」

「いや? 命乞いの言葉を口にしていたよ、あの女は」

「そう……」

「だが、見るに堪えなかったから、君は行かなくて正解だ」

「ええ……」

 エミリオが私の額にキスをした。

「これからは、もう元家族に煩わされずに生きていいんだ」

「……」

「あの夫妻も、鉱山送りになってるしね」

「……」

 もし、父が愚かじゃ無かったら私はどうなっていたのだろうか。

 そんなことを考えてしまった。

「あの男は、君の母上と君を裏切っていた。だからこうなったのだ」

「裏切っていた……」

 確かにそうだ。

 レディナの年齢を考えると母が存命中から浮気をしていたことが分かる。


「だから悲しまなくていい」

「エミリオ……!」


 私はエミリオに抱きついて泣いてしまった。

 幸せな家族を壊したのは父、そして全てを台無しにしたのは彼ら。

 でも。

 悲しくて仕方なかった。





 愛しい妻には内緒でことを進めていた。

 妻ならきっと断りかねないからだ。

 だが、犯罪者の身内を我が公爵家に入れては問題は大きい。

 だから、外させて貰った。

 祖父母──義父母達も妻に会いたがっている。

 合わせて上げなければ。


 さて、これでゴミはほぼ綺麗さっぱりなくなった。

 と、思いたい。

 思いたいが身の程知らず、処分しなければいけない相手は多く居る。

 気をつけなければ。






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