第3話私のために
「フィミア、こんなところで眠っていては風邪を引く」
「ん……」
気がついたら眠ってしまっていたらしい。
私が起きると、エミリオが立っていた。
「少し仕事を見るから、湯浴みでもして休んできたらいい」
「はい、あの……案というか殴り書きというか……」
「分かっている見せて貰うよ」
エミリオは私のメモを受け取り、私は立ち上がり、執務室を後にしました。
「はぁ……温かい」
「それは良かったです」
「香りも良くて……これはカモミール?」
「はい」
体をほぐして貰いながら温かいお湯に浸かり、私は気分が少し楽になった。
風呂から上がり、寝間着に着替えて寝室に向かう。
すると執事が軽食を用意してくれていた。
「夕食をお取りにならなかったのですから、少しでも食べてください」
「有り難うございます」
サンドイッチと温かいスープを口にする。
ほっとする味だ。
「美味しかったです」
「それは何よりでございます」
執事がそう言うと、侍女達が歯を磨く道具を持ってきて歯磨きをした。
「フィミア、いいか?」
「勿論です」
私がそう言うと、エミリオは上着を羽織らせて、紙の束と私のメモを見せた。
「君の書いていた通り、ここをこうすれば効率があがる。そして余った人は別のこの仕事
に任せられる」
「は、はい」
「そしてここだが──」
そんなやりとりが続きました。
「旦那様、もう夜も遅いです。旦那様はともかく、奥方様はお辛いでしょう」
執事がエミリオに苦言を呈した。
「確かに。では、続きは今度でいいか?」
「え、明日では駄目なんですか?」
「明日は君と買い物に行きたい」
「分かりました」
私はベッドに横になり、エミリオも続いてベッドに横になりました。
抱き合うように私達は眠りに落ちました。
翌日、朝食を済ませると、エミリオは目元を隠す仮面を私に渡しました。
「我が公爵家のしきたりでね、基本外に出るときは目元を仮面で覆うんだ、君のサイズは既に測ってるから合うと思うが……」
エミリオは、家に来たときとは違う仮面をつけていた。
家の時は真っ黒な仮面だが、今回は華やかな仮面だった。
私も仮面をつける。
「似合いますか?」
「ああ、勿論だよ」
仮面をつけて馬車に乗り込む。
何処に行くのだろうと不安になっていた。
そしてついたのはアクセサリー店。
エムロード店。
母から聞いたことがある、王家御用達の店だと。
「え、エミリオ。ここって高いんでしょう?」
「確かに高いが、君との結婚費用と考えれば安いものだ」
エミリオは私を引っ張るように店に入っていく。
「ドラキュリア公爵様! ようこそいらっしゃいました!」
店主らしき身なりの良い方が店の奥から出て来た。
「結婚が決まったから、指輪を購入したい」
「防護の魔術がかかった指輪が宜しいですか?」
「勿論だ」
エミリオの言葉を聞くと、その男性──おそらく店主は奥へと引っ込んだ。
そして美しい色とりどりの指輪を持ってきて見せてくれた。
「綺麗……」
「フィミア、君ならどれを選ぶ」
「え?」
「値段とかは考えずでいいから」
私はしばし悩み、白金で輪を作られ、金色の宝石であしらわれた指輪を指さした。
「どうしてこれを?」
「貴方の色だから」
そういうと、彼はしばし黙った。
「なら私は君の色のものを選ぶとしよう」
エミリオはそう言うと、白金のリングに紫の色の宝石をあしらった指輪を選んだ。
「では、サイズを測りますので」
指を出しサイズを測ってもらった。
「完成したらお屋敷にお届けに参ります」
「うむ、頼んだぞ」
エミリオはそう言うと私の肩を抱き、代金を払って店を後にした。
「さて、次はドレスと行こう。薔薇もはやりだがレースもはやりらしい」
「そんなに私に使わなくても……」
馬車の中で私はエミリオに苦言を呈する。
「いいんだ、これは私が君に使いたいと思ったのだ。父も母にはそうしていた」
「もう……」
何度かお会いしたことのあるエミリオのあのお父様が恨めしくなった。
威厳、威圧感があり、初対面では泣いてしまった。
泣いてしまった私を見て、エミリオのお母様が咎め叱っていたのを覚えている。
すると、どこかしょぼくれていたのが分かる。
私がエミリオのお母様のように、エミリオを尻に敷くなんて想像ができない。
だって、エミリオは恩人なのだもの。
そして馬車が止まり、私達は下りる。
名前だけ知っている、妹が買いたいとだだをこねていた上流貴族御用達の服屋、アンジェリカだ。
エミリオは肩を抱いて私と共に店に入る。
「公爵様、いらっしゃいませ」
若いが美しくドレスやアクセサリーで身を包んだ女性が近づいて来た。
「アンジェリカ殿、我が妻にふさわしいドレスを見繕いたい、それと結婚式の衣装の話もしたい」
「畏まりました、奥へどうぞ」
と店の奥へと案内される。
「フィミア、仮面を外してもいい」
「いいのですか?」
「ああ」
エミリオが仮面を外したので、私も外した。
「ん? もしかしてビアンカ様のところのお嬢様ですか」
私の顔を見た途端、店主の顔色が変わる。
懐かしそうな顔色だ。
「お母様とお知り合いで?」
「勿論です! ビアンカ様はよく私達の相談に乗ってくれました、この店がこの規模になったのもビアンカ様のおかげですとも!」
初めて聞いた。
でも、母は色んなところに知り合いがいたからなんか納得できた。
「しかし、よくご結婚なされましたね、御子様は不遇の待遇を受けていたと噂で聞いていました……」
「少々特殊な方法でな、それで連中とフィミアを縁切りさせてもらった」
「そこまでするのが正しいでしょう、縁が続いていると金をせびりに来るでしょうし」
「ああ、そうだな」
その会話はそこで終わり、私とエミリオはサイズを測って、そこからドレスとタキシードのデザインについて話合った。
私にはどのドレスのデザインも美しく見えて、迷ってしまった。
でも、選んだ。薔薇飾りとレースの美しいドレス。
それでいて品の良いドレスを。
「お選びいただき有り難うございます」
「きっと美しいだろうな」
エミリオは微笑んだ。
幼少時期天使のような美しい微笑みをしていたエミリオは大人になっても美しいままの微笑みを見せてくれた。
取りあえず、今日はこの辺りで街を見るのを止めて屋敷に帰った。
「私は仕事をしてから休む。君は先に休んでくれ」
「私も、何か手伝いをしたいわ」
そういうと、エミリオは微笑んだ。
「いいのだ、今日は慣れない買い物に付き合ってくれただろう? それだけで十分」
「でも……手伝いなら明日以降頼みたい」
「分かりました……」
少しふがいない妻のような気がして不安で仕方が無かったです。
エミリオはああ言ってるけど、本心は?
私は不安を抱えながらもベッドに横になった。
深夜になると、目がさえる。
吸血鬼の血を引くが故に、反転した生活は少々負担だが、フィミアの事を考えればどうということはない。
グラスに入った血を傾けて口にしながら思案する。
これから彼女と私は結婚するのだから、彼女に合わせるのに苦労はない。
さて、彼女を虐げていた愚者共だが、どれだけ持つか見物だ。
あの馬鹿共なら「約束」等と言う言葉を忘れてフィミアに寄ってくるだろう。
金のために。
実に、実に愚かだ。
「前回」のフィミアの苦しみを思い知るがいい。
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