第2話来客は次期国王⁈
「フィミア。私と君は夫婦になった訳だが、君に無理強いしたい訳じゃない、どうする?」「どうするとは……どういうこと?」
食事後、歯を磨き終えるとエミリオはそう言ってきた。
意味がちょっと分からない。
「夫婦になったから一緒に寝るということだ。ベッドで」
「エミリオなら構わないわ」
「本当か?」
「疑り深いわね、昔から。エミリオ以外とは嫌だからいってるの」
「そうか、ならよかった」
エミリオはそう言うと、夫婦の寝室へと案内してくれた。
広い寝室、広いベッド。
「私は少しだけやることがあるから先にベッドで休んでてくれ」
エミリオはそう言って出て行ってしまった。
私はすることも無いので、侍女の方に寝間着に着替えさせて貰い、ベッドに横になる。
疲れているけど、寝られない。
ベッドの中でもだもだしていると、エミリオがやって来た。
「休めなかったのか? 大丈夫か?」
「うん、ちょっとね。なんか今の状況が夢見たいで……」
「大丈夫、夢なんかではない」
エミリオは私の頬にキスをした。
「頬なの?」
「私の妻は本当に愛しいな」
エミリオと私は口づけし、ベッドに横になった。
私は大人の階段を上った。
愛しい人に抱かれて。
目覚めるとエミリオが既に着替えていた。
夢ではなかったと安堵した。
「今日は来客がある、君にも紹介したい」
「どのような御方ですか?」
「悪い奴じゃないが、私をいじくり回す悪趣味な性格をしている」
「まぁ」
エミリオがそういうなんて、相当な方だと私は気を引き締めました。
「大丈夫、君には危害はないから」
「そうですの?」
「ああ」
私も着替え、食事を取り、エミリオから妻としての仕事を教えて貰いながら、エミリオと共に仕事をし、ティータイムを取る時間になり、庭でお茶会をしていると、執事の方がやって来ました。
「旦那様、
「え?」
思わず耳を疑います。
「エミリオ、カイウス殿下って、あのカイウス殿下?」
「ああ、そうだとも」
「……」
思わず卒倒しそうになりました。
侍女の方が支えてくださらなかったら倒れていたかも。
「エミリオ! そういう御方がいらっしゃるならもっとちゃんと言ってちょうだい!」
「す、すまない」
「おやおや、
そこに居たのは、茶色の髪に、青い目の御方でした。
「よぉ、エミリオ。幼少期から恋焦がれていた幼馴染みと結婚できた気分はどうだ?」
「最高の気分だ、カイウス」
「え、エミリオ!」
「いいんだよ、奥さん。えっと名前は……」
「フィミア。元フィミア・ローランサン。現フィミア・ドラキュリア」
「ほぉ、あのローランサン家か」
「で、殿下。何か……」
私は思わず不安になってしまう。
「いや、噂で聞いた話だ」
「う、噂、ですか」
「ああ、前妻が良妻で統治経営などもできていたのに、前妻が死んですぐ娶った後妻とその娘と共に財産を食い潰しているってな」
ずきんと心が痛んだ。
その通りだからだ。
義母と義妹、そして父が母が作った財産を食い潰して豪遊するようになった。
そして使用人を雇えなくなり、私が使用人扱いされ、それでも残った財産を今も食い潰そうとしている。
領地は酷い様なのを、隠している。
「で、俺は貴方に聞きたい。奥方殿。
殿下の言葉に私は首を振った。
「無いでしょう、だって──」
「領地の統治の悪化も賄賂で役人を騙しているのですから」
「そこまでか、やれやれ。これはやることが多そうだ」
殿下はそう言ってため息をつかれました。
「ところで結婚式はどうするんだ?」
急に話題を変えたので私は少し戸惑いました。
そう言えば式は挙げてない。
「やるべき事が片付いたら上げたい」
「そうか」
「……」
二人の会話がどこか不穏で私は無性に不安になりました。
「おっと、お前の奥方を不安にさせちまったな」
「そうだな、どう責任をとってもらおうか」
「うげ、嫁さんがいると強気になるの、お前⁈」
「妻を守るためなら強気になるとも、いつも見たくいじられてばかりだと思うな」
「エミリオ!」
殿下になんて口の利き方をするの!
と叫びたくなりました。
「はは、お前の口の利き方に不安になってるぜ」
「大丈夫だ、完全にプライベートだからな、公的な場所ではわきまえる」
「……」
本当にそうなのかしら?
と問いかけたくなりました。
「さて、お茶会をしようぜ、スコーンのジャムは何だ?」
「お前だけマーマレードにしてやろうか」
「嫌がらせかこの野郎!」
殿下は笑いながらエミリオの肩に手を回しています。
「え、エミリオ……」
「えっと、フィミアさん。俺とエミリオはプライベートだとこんななんだ、困らせて悪いな」
「は、はぁ……」
王族というのに、威圧感がなく、寧ろフレンドリーすぎて不安になりました。
次期国王なのに、大丈夫なのでしょうかとも、思ったりしました。
それと、カイウス殿下が噂とはまるで別人だから私は余計に混乱しました。
威厳があり、国の事を考えており、民を愛し、それでいて冷静な人物と聞いていたからです。
真逆とも言える目の前の殿下に、私は混乱するだけでした。
「じゃあ、ちょっと旦那借りてくな」
殿下はそういってエミリオと共に馬車に乗りました。
「今日中には帰ってくる、留守番を頼めるか?」
「はい、勿論です」
「ありがとう」
馬車が走っていくのを見送って、私は屋敷に戻りました。
「私、エミリオの妻としてちゃんとできたかしら?」
「大丈夫です、奥方様。私共も最初は驚いたものですから」
「奥方様、貴方はなすべき事をなしたのです」
「……なら、良いのだけど」
そう言って、屋敷の執務室に戻り、エミリオの仕事の書類に目を通しました。
下手に手をつける訳にはいけないですが、一つでも多くを知っておきたいのです。
私は真剣に書類に目を通しました。
時に不要な紙にメモを取り、改善策等を書き記しました。
王宮に着き、私はカイウスと共に一室に案内された。
「国王陛下、王妃殿下、謁見の許可を下さり、感謝いたします」
「いいのですよ、ドラキュリア公」
「ドラキュリア公、話とは」
「私から話させていただきます」
カイウスが妻から聞いた事情の一部を話した。
「なんと、やはり役人を通さず領地に行くべきだな」
「前妻との娘をそのように扱うなんて……」
国王陛下は自分の見立ての甘さを戒め、王妃殿下は妻のことを気にかけていた。
「フィミア──妻と結婚したのは昨日ですが、私は何年も前から彼女を愛しています」
「エミリオの奥方は、そんな身内を疎んでいるようです」
「実母の財産や遺産を食い潰したのですから当然でしょう」
「では、ローランサン伯爵家を──」
「取り潰すのはまだ待っていただきたいのです」
国王陛下にそう意見する。
「ドラキュリア公、どうしたのだ」
「取り潰すだけの情報は集めてください、私はそのための準備をします」
「準備、とな」
「はい」
私は静かに口を開いた。
「我が妻を苦しめ続けた罰を、受けてもらいたいのです。何もかも失った状態で──」
あの時、のうのうと生きていたお前達を私は決して許さない。
フィミアの死の苦しみを、生の苦痛を、味わうがいい。
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