ダンピールの貴方に愛されて~時戻しの魔法~

ことはゆう(元藤咲一弥)

第1話私を救い出したのは幼なじみでした




 私の名前はフィミア・ローランサン。

 ローランサン伯爵家の長女……。

 だけれど、そんな扱いをされたことは無い。

 母が死んで父が再婚して以来、私は邪魔者扱い。

 賢い母が貯めた金を使う亡者と化した父と、そうさせた後妻と異母の妹。


 私はこっそりお金を貯めて待った。

 家から出るのを。

 だがあの日、運命は変わった──





「……」

「金がない、ドレスを新しくできないわ!」

「ネックレスを新しくできないわ!」

「むぅううあれほどあったのに、何故」


 使えば無くなるだろうに、馬鹿な人だ。

 そんな屋敷に、来訪者が訪れた。


「フィミア出ろ」

「はい、お父様」

 使用人がいなくなり、私が使用人代わりになった屋敷で、私は玄関に向かう。

 玄関に向かうと、仮面をした男の方が立っていた。

「あの……」

「この屋敷の主人に融資の話を持ちかけたい」

「……分かりました」

 なんて馬鹿な人だと思った。

 融資をしたって帰ってくるはずはないのに。

 そんな事を思っても言わず、父のところに案内した。


 融資の話と聞き、父達は私を追い出し何か話しているようだった。


 聞き耳を立てるが聞こえない、何故か。

 仕方なく、今日の料理の準備に向かった。


「フィミア、来るんだ!」

 料理を終えると、父は私の手を掴み、玄関へと連れて行った。

 其処には仮面をした先ほどの男性がいた。

「これからはこの方と暮らすんだ、いいな?」

 そこで、父は私を売ったことを理解した。

 悲しみの涙は流れない。

 ただ、私は絶望した。


 その所為か従者らしき方々が何かを運んでいるのに気づかなかった。


 私は着の身着のまま馬車に乗せられ、馬車が走り出す。

「……」

 悲嘆にくれている私に、仮面の男が声をかける。

「漸く君を助け出せた、フィミア」

「⁈」

 言っている意味が分からず、仮面を外す彼を見る。

 美しい金色の目に、フードを被って隠れていた薄い金色の長髪。

 どこか、見覚えがあった。

「フィミア、私だ、エミリオ。エミリオ・ドラキュリア」

「エミリオ⁈ 貴方なの⁈」

 私は驚愕の声を上げた。





 母が存命の頃、母とエミリオの母は友人だったことから私はエミリオとよく遊んだ。

 エミリオは天使のように可愛らしく美しい少年だった。

 仕草も、愛らしく、私はそんな彼を大切に思っていた。

 母が死亡後、エミリオと会うことができなくなったが、こんな美しい青年に成長していたなんて……





「伯爵には君と私に二度と関わらない、君のお母さんの遺品は全て持って行く、君の私物は全て持って行くという条件をつけて破格の金を渡してやったのだ。それで君を買うような真似をしてすまない」

「でも、そんなにお金を渡して大丈夫なの?」

「何、お金には困ってない。事業も上々だ、それに君がいれば私はそれでいいのだよ」

「エミリオ……」

「もっと早く君を助けたかったが、当主にもなってない私にそれはできなかった。漸く父が『エミリオも分別がつくか』と言って当主の座を譲って貰ったのだ」

「ううん、エミリオが助けてくれただけで私嬉しいわ」

「それなら良かった、じゃあ。私の屋敷に行き、身なりを綺麗にしよう」

 そう言われて自分の身なりに気づく。

 薄汚れたメイド服、化粧だってロクにしてない。


──ああ、恥ずかしい‼──


 エミリオの美しい容貌と、身なりを見ると恥ずかしさで死にたくなった。

「でも、どうして仮面を」

「私はダンピールだからね、無自覚に人を魅了してしまいかねない。それにダンピールの当主となると私とバレてしまうから素性を隠す意味合いもあったのだ。君の妹と結婚させられかねないかもしれなかったからね」

「……」

「私は君とずっと結婚したいと思っていた、こんな姑息なまねをしてしまったけど、改めて言わせて欲しい、私の妻になって欲しい」

「ああ、なんて嬉しいのエミリオ。勿論よ」

「有り難う、フィミア!」

 エミリオが私を抱きしめる。

「え、エミリオ。服が汚れてしまうわ!」

「構うものか」


 そんなやりとりをしながら私はエミリオの屋敷へとたどりついた。


 幼い頃、何度か母と訪れたお屋敷に。


 侍女の方々と、執事の方が出迎えた。

「我が妻に湯浴みをさせて欲しい、そして化粧、似合う服を身につけさせるように」

「畏まりました、旦那様」


 侍女の方々が私を風呂場へと案内する。

 薔薇の香りのするお湯で湯浴みをさせてくれた。

 今までは家族の目を盗んでお湯をたらいに入れて洗っていたが、そんな事もうしなくていいんだと思うと泣きそうになったが堪えた。


──ああ、彼に愛されていたのか私は──


 そう思うと胸がときめく。

「……」


 でも、少し不安があった。

 本当に彼に愛されているのか、自分の境遇に同情しただけではないのか。

 そういう不安が首をもたげる。


 湯浴みを終えると、綺麗な下着を着けさせてもらい、買い出しでちらりと見た今年流行のドレスを着せて貰った。

「わ、私がこんなのを着てもいいのですか?」

「何を仰います。貴方様は旦那様の奥方様なのですから」

「さぁ、化粧をしましょう」

 侍女の方にそう言われ、化粧をしてもらう。


「さぁ、奥様。旦那様のお待ちですよ」

 と部屋に案内されると、其処には仮面をつけているエミリオがいた。

「二人きりにさせて欲しい」

「畏まりました」

 侍女の方々が出て行くと、扉を閉めた。


「ああ、なんて美しいのだ! フィミア!」

「エミリオ……」

「君が使用人のように使われていてもその美しさは隠せなかった。だが、こうして着飾ると美しさが何倍も増している!」

「そんなに言われると恥ずかしいわ……」

「事実を述べているだけだ」

「もう……」

 そんなやりとりをしていると執事の方が食事の支度ができましたと呼びに来た。

 家の食事の何倍も上質なものだった。

 家では家族の残した、料理の残りものなどで空腹を癒やしていたから。


「フィミア、苦手なものはあるか?」

「いいえ、あの家での生活では好き嫌いなど言っている場合では無かったですから」

「そうか……」

 エミリオは何か難しそうな顔をしていた。

 いえ、怒っているような。

「エミリオ?」

「……ああ、ちょっと考え事を」

「そう?」

「ああ」

 私はエミリオが何を考えているか分からなかった。





 父は「お前に全て任せて良いと思ったら退こう、そうしたら好きにするといい」と言われていた。

 だから必死に領地経営、事業経営などに頭を悩ませて身につけて、父からの許可を貰った。

 それまで、影からの情報でフィミアの近況を調べるしかできなかった。

 やはりフィミアは相当酷い目にあっていたのだ。

 愚か者共、お前達に渡した金は破滅への金だ。

 破滅するお前達への贈り物だ。

 精々、豪遊するといい。


 そして、契約を忘れてフィミアに近づこうものなら、奈落へおとしてやる。

 全てを奪い去ってやるとも。


 そしてフィミア、君を二度と不幸にしない、決してあのような死に方をさせない。

 君を守るよ。






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