第27話 ネームドの矜持

最後の訓練が終わったころにはすっかり日が暮れていた。

一度砦に戻るため歩いていた。背負子はソフィアが乗せる気ないので使えない。


「ね、どのくらいレベル上がった?」


「ちょっと待ってください。」


今日は【打撃】の乱射練習がメインだったのでほとんど場所は変えずにいたので、後半から偽竜を一匹も倒せていない。倒せていたとしてもバッタ程度のサイズではぱっと見わからない。正直なところレベル上げとしてはほとんど成果がない。一応ステータスを開いて確認するが案の定といったところだ。


「2レベルしか上がってないですね。」


「えー、全然じゃん。」


「同じところでしかスキル撃ってないので、偽竜も逃げたんじゃないですか。」


「そうかなあ。あいつ等さ虫じゃないから、逃げたりはしないはずなんだけど。私の時は走ってつぶしてたんだけど、むしろ襲ってきたからなぁ。」


「だとしたら僕のスキルが見えないから敵が分からないんじゃないんですか。攻撃が見えなければ敵を探しようがないですから。僕が視界に入っていれば推測して襲ってくる可能性はありますが、見えない位置からだと攻撃だけじゃなくて敵も見えないですから、襲いようがないというところでしょうね。雹が降ってきても空を攻撃するほど馬鹿な生き物はいないですから。」


「そっかー、それにしてもすごいステータスだね。やっぱ元ネタにいたキャラはすごいなぁ。」


「そうなんですか?見られることはありましたが他人のは見たことないですから。」


俺のステータスは回復力が40、筋力が18、それ以外はレベル+2前後といった感じだ確かに回復力は異常な上がり方だ。


「はい、これワタシの見てみ。レベルは今75だよ。」


ステータスを見た感じ瞬発力や持久力は150を超えており、筋力も98とかなりの補正を受けている。特化している部分についてはステータスが頭抜けて高いのは俺と変わらないがレベル相応といったところだ。だが、それ以外の部分ががおかしい。高くても補正値は30前後、低いものは10未満床とか0もある。魔法関連はおおむね3以下になっていた。


「モブのステータスなってこんなもんよ。ワタシは特化するステータスとかスキルの補正があってかなり高くなっている部分もあるけど、ほかは死んでるよね。」


「率直に答えていいですか。」


「どうぞ。」


「これが普通なんですか?使い物にならないステータスがあるじゃないですか。」


「そういうこと。普通のステータスはレベルの半分程度、さらにスキルに関連がなくなると基本は補正がほとんどないのよ。」


「なるほど。レベルアップで必ずすべての項目が上昇するのは異常なんですね。でもそれってたぶんステータスもそうですが、スキルの方にも原因があると思います。たぶんネームドキャラ、元ネタにいたようなキャラはスキル自体が物理も魔法も両方あるんだと思います。僕もそうです。そうなると両方のステータスがスキルに関連するので最低保証という形ですべて上昇しているんだと思います。その中で特別なものはさらに特化して他の倍以上の数値になっているんだと思います。」


「じゃあ、子豚君は回復系のスキル以外は特化しないってこと?それって悪役出来なくない?」


「回復力は肉体の回復全般の数値なので、筋肉の超回復とかにも影響がある数値なんですよ。だから補正を受ける前の地力の上昇に重要な補正値なんです。それにスキルの解放具合が影響する可能性もありますよ。筋力は【衝撃魔法】の解放が進んでから他より多少特化した感じですし、補正のない値はレベルアップの影響受けないですから。いわゆるHPとかMPは補正がかかってないみたいですし。」


「え、HPとMPって上がんないの?」


「HPはわかりませんが、MPは筋肉とおんなじでつかった分鍛えられて増える感じですね。だから補正はないですが、レベルアップとは関係なく増える感じですよ。僕もレベルアップしないうちはスキルを使いまくっていたら自然と増えましたし。MP増えてないと上位のスキルとかつけないんじゃないですか?」


「そうだよね。じゃないと使えなさそうなスキルいっぱいあるし。」


「どうしましょうか。ガブリエル様からはスキルを解放するのはレベル上げきってからって話でしたが、僕の推察が正しいと先にスキルを解放したほうがいいと思います。」


「それなら、一回帰るから明日聞けばいいんじゃない。」


「え、もしかして毎日ここに通うんですか。」


さすがにそれは聞いてない。いくらソフィアの足を使えばすぐこれるとはいえ毎日帰るのか?砦だし泊まる部屋くらいあるだろうに。

レベルアップも終わってないけど。


「しょうがないじゃん。連絡手段がないからワタシが直接話した方が早いもん。それに帰るだけなら、一瞬じゃん。」


確かに、ドラゴネアス家の領地からドラゲナイ家までほんのわずかな時間で移動した。何日かかけてきたルートをあのスピードで戻れるなら、ここまでの移動をさかのぼるなら一瞬だろう。


「じゃあ、これから毎日通いでここに来るんですか?」


「砦の方がいいの?さすがにワタシは嫌だよ。」


今にも舌を出してベーとしそうな顔のソフィア。


「さすがに僕だけでいいですよ。」


「何言ってんの、保護者がいないんだから無理だよ。」


「そういうことですか。」


面倒だ。貴族の子女である以上は一人でおいておくのは難しい。

特に見た目の年齢は幼い。中身が前世込みでアラフィフでもそこは関係ない。


「毎日あの移動はつらいので、明日交渉します。兵士たちと同じ宿舎にいれば何とかなると思うんですが。」


「うまくいくかなぁ。」


「そうだ、通常の訓練とかもやるために移動時間はできるだけ削った方がいいですから、何とかできると思いますよ。」


それからいくつかのたわいない話をしながら砦の門番に挨拶をして、ドラゲナイ家に戻った。


◆◆◆


夕食を済ませて自室に戻った後、ベイブは今後のスキル解放に頭を悩ませていた。

ベイブの持論ではスキルの解放がレベルアップ時のステータス上昇に影響する可能性があるみているため、スキルの解放順序によっては上げたいステータスが後回しになってしまう可能性もあるからだ。


【衝撃魔法】は参照する筋力に影響をしていた。【回復魔法】は回復力に影響しているだろうが、もともと高い数値なので影響が分からない。

なら他のスキルはどうだ。

【木魔法】と【風魔法】は魔法の関連のステータス以外には影響があるだろうか。そもそも魔法関連のステータスすべてに影響するのだろうか。【魔力操作】や【魔力変換効率】など【魔力〇〇】といったステータスはいくつかある。すべてに影響が出るのか一部への影響かでコスパが変わってくる。

【粘液精製】や【よく音の出るビンタ】は何のステータスに影響するのか想像がつきようがない。【粘液精製】はガブリエルのアドバイス通りいくつか解放したとして何のステータスに影響が出るかわからない分無駄なポイント使用になってしまうかもしれない。【よく音の出るビンタ】はスキルの特徴からして筋力に影響が出るかもしれない。そうであれば【粘液精製】よりも恩恵がある。

仮に【粘液精製】に2ポイント使い、【粘度調整】の先で枝分かれしていたスキルを解放した場合、スキルの予想は出来ないが上昇するのはおそらく魔法関連のステータス補正だ。【粘液精製】が筋力などのステータスに影響するとは思えない。しかし、魔法関連のステータスの恩恵は今のところない。そういう意味では魔法関連のステータスの影響が出るスキルであるとしたら、【粘液精製】は有効な攻撃魔法に発展するかもしれない。RPGのセオリーでは属性相性を気にすると、複数の属性の攻撃手段を持つのは基本だ。【粘液精製】が水系の魔法に発展していくならそれも悪くない。


そうやってベイブは悩んだ末に【粘液精製】に2ポイントだけ使って、仮説を検証することに決めた。



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