第25話 子豚式自走砲ベイブ二式

◆◆◆


作戦は簡単だ。ソフィアに背負われた俺が【打撃】を連打、乱発してドラゴンが見つかったらラッキーという感じだ。おそらく広範囲型の魔法を使って一帯をあぶりだすこともできるのだろうが、ドラゴンをまだ殺す気はないという点が重要なのだ。

ドラゴンがいないということはあり得ない。となればおそらく生息しているであろう中心地生息している場合、ドラゴンの能力で姿が見えなくなっていいると考えられる。その場合、無差別に攻撃をばらまける俺の打撃は相性がいい。それに加えてソフィアが走り回って二人で荒せばかなりの速度で虱潰しにできる。それに仮に反撃されてもソフィアの足には追いつけないので確実に逃げ切れることもこの方式としては重要な利点だ。

そして、ここまでして見つからなければおそらくドラゴンが地上にいないということにもなる。一部を除きドラゴンは基本的に地上に生息している。そしてドラゴンの特性は偽竜にも現れるため、二脚で跳ね回るバッタのような小さな偽竜が周りにいるということは弱くて小さいドラゴンが地上に隠れ住んでいるというのが予測だった。それが見つからないとなれば探す当ては地中。それもアースドラゴンのようなしっかりとしたダンジョンをもっておらず、蛇の巣穴のようなみじめなものかもしれない。

これは極めて厄介で、地上にいるより探すのがめんどくさい。

が、痕跡が見つからない以上可能性を順につぶしていくしかない。

何よりドラゴンが見つからにということは危険なのだ。見つけられないということは異常に繁殖していてもわからず、頃合いを見て人間に攻勢をかけてくるという可能性があるからだ。偽竜が暴走とは比にならない。何せ生物としての格が違うのだ。弱そうに見えても本当に弱いわけではない。それなりの実力がなければ周りの偽竜のように虫をつぶすようには倒せない。

これだけ偽竜が湧くような場所でドラゴン一頭などありえない。複数頭いるのが定石であり、仮に一頭のみであればそれはかなりの大物だ。


◆◆◆


経験値スポットについて所でバッタのような何かがぴょんぴょんと跳ね回っている。

特にこちらを襲ってくる様子はないが、とにかく数が多いのはぱっと見でわかる。

最初に練習を兼ねてソフィアが走っていない状態で【打撃】を連発することにした。

俺は両手を握り前に突き出す。それから呼吸を整え両手から【打撃】を打ち出す。ガトリングをイメージして次々に地面に打ち付ける。連射がはじまる前の空の回転をイメージし、それから一気に放出する。


「【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】【だ】」


スキル名を言わなくても打てるようになったが、さすがに初めてやるので短縮で詠唱してイメージをガトリングに合わせてみる。頭で狙いをコントロールする余裕はなく、腕をゆっくり動かすのがせいぜいだった。密にはやれたが、広範囲には出来なかった。


「ねえ、そのウルサイの、ないとダメ?」


「こういうのは初めてなので慣れないと無理です。でもできないことはないですが、これは数日では無理ですね。それに広範囲に打てなかったのでまずはそこを直さないと目的達成とは行かないですね。」


「ありゃ、さすがに一日じゃ無理か。とりあえず今日は練習とレベルアップで終わりかな。やるだけやったら今日は砦に泊まって明日の朝帰るよ。」


「わかりました。じゃあさすがに降りていいですか。」


「いいよ。しばらくウルサイだろうし。抱えて走れないこともないだろうし。」


ベイブは体を固定していたベルトを外し、ソフィアの背中から降りる。長いこと座りっぱなしだったなので体を伸ばしストレッチをする。体育の授業みたいに準備運動をして体をほぐしていく。


「そういえばさ、ソフィアってこの世界のことどれくらい知ってるんですか。お互いに転生者ってのはわかってると思うんですが、結局ちゃんと話さなかったですから。」


ソフィアはどこからともなく取り出したペットボトルで水を飲みながら答える。


「ああ、それね。子豚君はどうかわからないけど、ワタシはこの世界の元ネタはよく知らないんだよね。死ぬ前はねバイクレースをやってたの。チームのメカニックが色んな意味でオタクでさ、そいつがはまってたことくらいしか知らなくて。そいつも必要以上に自分の趣味は話したりしないから、バッグにつけてたキーホルダーのキャラしか知らないんだよね。」


ふーん。俺よりは知ってるんだ。


「僕は転生先が決まっるまでタイトルも聞いたことなくて、ネームドキャラに転生するのにどんなキャラかわかんなくて、それからずっとそれっぽくやってるんですよね。」


「へー、ワタシはモブだっただからなー。もうそんなこと考えなかったな。それよりもうバイクに乗れないんだってので結構つらかったなー。スキルで速く走れるってわかったからそっちで楽しくやってこれたんだけど。」


え?ソフィアってモブなの。

おいおい、おかしいだろあ。れだけ早く走れてワープスキルも持ってるし、おそらく収納スキルっぽいのもあって、しかもそれなりに重要なポジションについてるのに。

つまりこの世界の基準としてネームドキャラだろうがモブだろうが強い奴はいるってことか?

もしかして、アドバンテージは元ネタを知っていれば効率よくスキルのレベルアップができて、重要な話に確実に関われるという部分だけなのか。

そうなると元ネタ未履修の俺はノーアドバンテージだから、主人公どころかモブのライバルになれるかも怪しい。


「ちなみに、ソフィアはレベル幾つなんですか?」


「あー、79だよ。走るだけなら50もいらないんだけど、30じゃ足らないからね。レベルアップのためにわざわざ攻撃系のスキル強化して戦えるようにしてるから。あと運び屋としても色んな事ができるようになるためにもレベルアップは必要だから移動の合間にいろいろ倒してるよ。」


「へー、すごいね。」


確かにざっと見一つのツリーで40~50ポイントくらい解放できそうだったからうなずける。この世界のレベルが100が上限だとしたら俺はスキルの解放の選択をしなければならないんじゃないか。


「そういえば、レベルの上限がいくつか知ってますか?」


「ああ、ソレ。私も最初気になって聞いたんだけどわかんないんだって。今までの最高レベルは256らしくて、それも寿命でそこまでしか伸ばせなかったらしいよ。スキルポイントも余ったらしいから、足りなくなったりしないよ。」


「ならよかったです。普通って100が最大じゃないですか。だからポイントがたらなくなったらどうしようかと思ってましたが、よかったです。」


でも、逆におかしいな。ポイントが余るのか。

一つのスキルにつき1ポイントで解放するのように調整されている。それが元ネタからの設定なのか、この世界を現実して作った時の調整かはわからないが、そういうものになっている。そうである以上無駄にポイントが余るというのは仕様上おかしくないか。普通は120~150ポイント程度あれば十分なはずだ。

俺みたいなイレギュラーなきゃ価値がないポイントがたまるとして、それはどっちだ。無駄なポイントではなく使い道があるのか。それともイレギュラーな存在が生まれることを前提に全人類に同じ仕様が適用されているのか。

元ネタを知らないと余計なことまで考えてしまう。


ベイブは頬を叩き、気合を入れなおす。

それから、目の前の草むらに【打撃】を乱発していくのだった。








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