第24話 特急ソフィア1号

スキルの確認をした翌日、俺はソフィアと一緒に経験値スポットに向かうことになった。ドラゲナイ家に来てから一週間経つが屋敷の外に出るのは今日が初めてになる。


メイドの案内に従って玄関まで行くとソフィアが背負子つけた状態で待っていた。背負子は明らかに人が乗ることを前提に作られており、どちらかといえば座椅子を背負っていると言うべきだ。


これで俺は嫌だが、確実に察してしまった。俺はここに座らされて目的地まで運ばされるのだろう。ソフィアの足が速いのはわかりきってるし、レベルもそこそこあるだろうから子供一人担いで目的地まで行くのはさして苦ではないのだろう。逆にソフィアを使って運ばないと時間がかかるほど遠い場所と思えばしかたないと思う。


「やあ、子豚君。早速だが出発するよ。さあ、背中に乗せてもらって。」


ソフィアはベイブに対して背を向けたが、特にしゃがむなどはせずそのまま立っていた。ベイブもその言葉を意味を理解し、ソフィアに近づき背を向けて立つ。


「メイドさん、お願いします。」


ベイブはメイドに背に乗せてもらうように頼んだが、メイドの察しが悪く短い言葉のやり取りでは理解できなかった。


「ぼくをソフィアさんの背中の椅子に乗せてください。」


「はい、わかりました。」


メイドはベイブの脇に手を入れソフィアの背中に座らせる。それからベイブ自身でベルトを締めて体を固定する。腰だけでなく、両肩から脇にかけてのベルトもあり、スカイダイビングとかで見るようなしっかりとした固定をする。

ただ、メイドも察しが悪かったのではない。単にプライドが高かっただけなのだ。ベイブの案内をしたメイドは男爵家の令嬢で当然のごとく行き遅れで、家から追い出されるようにドラゲナイ家で働いている。自信過剰なところがあり、アーサーを誘惑できると考えているほどに頭の足りない女だった。所詮その程度の女なので、ちょうどよくベイブという貴族の子息の世話を少し任せてみたら、つけあがった上アーサーに近づけなかった腹いせでベイブに気付かれない程度の嫌がらせをしていた。結果これをきっかけにドラゲナイ家も放り出されるのだが、それはまた別の話である。


「ほいじゃ、行ってきまーす。」


ソフィアは見送りに来ていた他の使用人たちに挨拶をして、玄関を出る。さすがにガブリエルは執務等があるので来ていなかった。それにソフィアを信頼しているという面もあって特に心配はしていなかった。


玄関を出ると快晴で、初夏の陽気がいい感じだった。日差しも暑くなく正にピクニック日和。


「じゃあ行くよ。腕組んで。」


「はい、準備できたよ。」


「OK!」


特に掴まる場所がないので、腕がぶらぶらして邪魔にならない様に腕を組む必要がある。足は特に言われなかったのでそのまま自然に下に垂らしたままにした。

ベイブが返事をするとすぐソフィアは加速した。

五歩地面を蹴ると次からは宙を駆けていた。どんどんと高度が上がり、十秒後には建物のほとんどが眼下にあった。上から見た街並みは明らかに現代と近代のまじりあった様子だ。車道と歩道がしっかりと分けられており、車道はかなり広い。歩道橋も見えるが他の建物たちと同じで石造りで、まるでサンドボックスゲームの様なちぐはぐさがある。

だが、その広大さには圧倒された。周りの建物より圧倒的に大きいドラゲナイ家の敷地が小さくなり全体が見えてくにつれ、その何十倍とある町の全体が見えないことに驚く。しかも道路以外の密度はかなり高い。町は台地の上にありそれを囲むように城壁があった。それから北に森、南に平原が広がっている。

ソフィアは門の位置など気にせず、城壁を超えて外に向かう。平原ではなくなぜか森の方に足を向けていく。城壁を超えるまでの間、上がり続けていた高度が止まった。その代わり一気に速度が上がり、ジェットコースター並みの加速度で突き進む。風を切る音が変わり、風が冷たくなる。そのまま真っすぐ進んで三十分位すると森が途切れ平原が見えてくる。そこから速度を落としながら鋭角で地面へと降っていく。木々がなくなったところでソフィアの足が止まり、自由落下に代わる。高さ3mくらいのところで、段を飛ばしながら階段を下りるように数度跳ねながら地面に着地する。ジェットコースターみたいに回転はしないので、長い時間乗っていたが酔うことはなかった。

ちょうど森から離れ、平原の入り口に着地すると目の前には小さな砦があった。

ソフィアは門番に話しかけ、中に入れてもらう。門番もソフィアが来ることを承知しており、特に質問などなかった。むしろ「Hey、来たよ。」で中に入れてもらっているのが恐ろしいくらいだ。というか町は門を通らなかったのに、ここではちゃんと入り口から入るのは何なんだ。


「あの、恥ずかしいので、一回下ろしてもらえませんか。」


俺は城壁の内側に入ったところでさすがにこのままでは気まずい。一度おろしてもらって自分の足で歩きたい。


「えー、めんどいからダメ。どうせちょっと挨拶したらすぐに目的地までまた走るからさ、子豚君はこのままでいいんだよ。」


「ここは中継地点ということですか。あとどれくらいかかりますか。」


「いや、ここは目的地の手前だね。反対側の門から出て少し行ったら、もう経験値スポットだよ。」


「もしかして、ここは経験値スポットを管理するための場所ってことですか。」


「そういうこと。バッタみたいなもんだって言ったじゃん。だからいっぱい湧くんだよ。ちゃんと毎日様子見て駆除しないといけないんだよ。」


なるほどと思ったが、同時に疑問がわいた。


「そうなると、わざわざそこまでしてこの場所を維持してるのはやっぱり経験値が効率よく手に入るからですか。でもここに来るのも簡単ではないようだから、町のみんなが使えるわけじゃないですよね。」


「そうだね。ここを使えるのはドラゲナイ家の兵士とワタシみたいに特別に認められた使用人くらいかな。誰でも使えるってのはいいことばかりじゃないからね。それに、ここはドラゴンが見つかってないから維持するしかないんだよ。」


偽竜は必ずドラゴンの生息域の周りに集まる。偽竜が見つかれば探せばドラゴンが見つかる。倒せるか否かは別して発見しておくことは重要だ。しかし、この経験値スポットにはドラゴンの姿どころか痕跡さえ確認されていない。世界の法則に反した場所だからこそ経験値スポットとなっているが、故に不気味な場所だ。


「なんだか面倒なところですね。」


「まあでも、子豚君が来てくれてラッキーだっておじさんが言ってたよ。」


おじさん。ガブリエルさんのことかな。


「ガブリエルさんがなんでそんなことを。僕はまだ子供ですし、スキルも強くない。」


「何言ってんの。子豚君の【打撃】と私の足があればドラゴン探しができるかもって話だよ。」


「え、どういうことですか。僕はレベルアップのためだけに来たんじゃないんですか。」


「そんな!タダより高いものはないってのは日本じゃ常識だったでしょ。」


「あー、確かに。でも実際どうやるんですか?」


駄々をこねてもしょうがないので作戦を聞き出してみる。背負ってもらうことに恥ずかしさを感じるなら、これくらい受けなければただのわがまま小僧になってしまう。俺は中身オッサンだ。そんなしょうもない感じにはしたくない。もう十年くらいしてかっこよく悪役やるのに支障が出てしまうかもしれない。正直弱みっぽいのを握られてるのは実家のアシュリーくらいで十分だ。


「ああ、それね。このまま私が草原を走り回って、子豚君は【打撃】をあっちこっちに打ちまくって欲しいんだって。」









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