第23話 お前本当にアーサーのガキか?
ガブリエルに連れられて俺は屋敷の裏手にある射撃場にやってきた。言ってしまえば、石造りの巨大な体育館だ。床はが土なので、野球の室内練習場が近いかもしれない。
そもそも裏手にそんな施設があるなら、そこに近接武器の訓練場もまとめておけと思うが、そんな単純な話ではない。確かにもともと訓練場はここしかなかったが、伯爵家の私兵が増員されたことで場所が足りなくなった。弓や魔法を入り打つわけにはいので、剣士たちと合同でつかっていては一度に訓練できる人数が限られていた中で、兵の数が増え訓練が回らなくなった。そこで剣士たちの訓練場を新たに作るまでの間、三つある中庭のうち一つを訓練場にあてたのだ。中庭は専ら茶会のためにしか使われておらず、使用頻度の低い場所を借りる形とした。
だが、これが功を奏した。今まで兵士の訓練は訓練場に赴かなければ見ることができなかったが、屋敷のあちこちから見ることができるようになった。これは戦闘にかかわらない使用人たちが普段の兵士の訓練の様子を見ることで、兵士たちの努力を知ることができ、一体感の醸成に成功した。また、客人が来た時に訓練を邪魔せずにその様子を見せることができるようになった。これによりドラゲナイ家の兵たちの強さを簡単に見せることができるようになった。結果的にそのまま剣士たちの訓練場として使われる結果となった。
当然だが射撃場ではすでに他の兵士たちが訓練しており、当主の特権で一列を空けてもらった。順番も割り込む形となってしまった。射撃場は射程の短いレーンと長いレーンが背中合わせになっており短い方を使うことになった。的までは10m程度で、主に投擲の練習に使われていた。
「魔法使えると聞いていたが、この距離で問題ないか?」
「問題ないです。なぜそんなことを聞くんですか?」
「そりゃ、魔法ったって人によって出るもんが違うからな。それにレベルが時なんて初期の魔法だから戦いに使えるかわからん。ましてお前は武器が使えんのだろ、少なくとも魔法はそれなりの射程がないと話にならんぞ。」
「大丈夫です。レベルが上がらない間はちゃんとスキルの練習はしてますから。射程ももう少し遠くまであります。」
「そうか、じゃあまずは一番自信のあるスキルを使ってみろ。」
「では、【衝撃魔法】の【打撃】を使います。」
俺の【打撃】を見れば納得するのは間違いない。あれからレベルアップをして一時的にカンストした俺はスキルを使いまくって馴染ませる方に力を入れた。ポイントは1だけ余っているが、選択肢が多すぎて決められなかったのでこの方針にした。【打撃】撃ちまくったの時に感じだ体が理解していく感覚を他の全てのスキルで出来ないか試した。そうすればよくわからないスキルも先が見える気がしたからだ。
まずは【打撃】、最初にレベルアップしたときに射程は15mまで伸びてる。射程は余裕だ。
軽く拳を握り、藁をまかれた丸太の的に向ける。的は人を模しているのか十字型になっている。ベイブはそこに目掛け【打撃】を放つ。スキル名を言うことはない。長い期間の訓練によって意識するだけで発動できるようになっている。ジョニーは木のナイフを作った時にスキル名を言っていたが、あれはベイブにスキルを見せるためにわざとしたことだ。
藁の潰し、堅い木を殴りつける音がしたとき、【打撃】が命中したことを証明する。目に見えない強打を証明する方法はそれしかない。だが、訓練場は静かではないので、はっきりと聞こえる程度にはならない。子供のベイブのステータスでは鍛えていない成人男性が力を込めて殴った程度なので、周りで投げつけられる石やブーメランに交じって音が判別しきれない。ベイブ自身も当たった感じはわかっているが、音の威力が足りてないことを自覚していた。
「面白いな。俺のスキルに似ているが、技の出だしが見えんな。さすがに威力はまだまだだな。これはどれくらい連発できる。」
ガブリエルは歴戦の猛者なので、目立たない打撃音もとらえていたし、的に中った時の藁の沈みや揺れも見えていた。自身も【拳当て】という遠距離にパンチを飛ばすスキルをもっているが、それを使うには腕を振って殴る動きをしなければならないし、銃弾が飛んでいくように軌道がある。だが、【打撃】にはそれが見えず、そこは素直に驚いた。
「それはどれくらいこの魔法を使い続けられるかという話であってますか。それとも短い時間にどれだけ連続して使えるか、どちらの話ですか。」
「面倒くさい奴だな。両方教えろ。十秒でどれだけスキルが使えて、一日で最高何回そのスキルは使えるんだ。」
スキルを使うのにはいわゆるMP的なものが使用されるらしく、魔力と言われている。さらにスキルを使うと肉体に負担がかかるのでそういった観点でも使用回数の上限が決まってしまう。魔法は頭の方に疲労がたまるので、魔力が余っているからと言って使い続けられるわけではない。
「そうですね、十秒であれば二十回から二十五回くらいです。今までの経験ではたぶん千回くらいが魔力切れのタイミングです。そこからしばらく休めばまた使えるようになるので、一日だとそれを四回前後は出来ると思います。」
「いかれてるなぁ。お前の魔力量がおかしいのか、その魔法が軽いのかわからんが、そんなに打てるのであれば穴場に連れていく分には問題なさそうだな。ちなみに他のスキルはどんな感じだ。」
やっぱり来たよ、その質問。
「他のスキルは残念ですが、あの的に当てられそうなものはないです。見せるにしても外の方がいいです。他に持ってるスキルは的を狙うようなことができないので。」
「ああそうか。とりあえず外に出るか。」
◆◆◆
射撃場を出てすぐ横の空きスペースで残りのスキルを順に披露した。【回復魔法】を除いてほかのスキルはすべてやって見せた。
【木魔法】の【芽吹き】は練習用に果物の種を持ち歩いているのでそれを使った。【風魔法は】は草をちぎって【上昇気流】に乗せてみた。
【よく音の出るビンタ】は自分の顔を叩いて響かせた。
【粘液精製】は【粘度調整】のスキルで三種類の粘度に調整して手から垂らしてみた。
「すごいな。アーサーの血を引いているか怪しいくらいだ。」
ガブリエルから素の落胆を引き出すほどに、ベイブのスキルはどうしようもなかった。練度は高いが使い物にならないスキルのオンパレード。最初にベイブが感じた通り、使えるスキルは【衝撃魔法】と【回復魔法】のみ。
「それを言わないでください。自分でも使えるスキルがほとんどないのはわかってます。強くなるか怪しいスキルがほとんどだということも自覚してます。」
「そうか。とりあえず、今あるスキルだけで穴場でのレベルアップは大丈夫だ。今の【衝撃魔法】の威力で十分あそこの偽竜は倒せる。スキルのレベルアップはレベル上げが終わってからやるべきだな。」
「はい。後戻りができないので、基本的には【衝撃魔法】と【回復魔法】を中心にすると思います。」
「ああ、それがいい。あと先に3ポイントくらい【粘液精製】に振って様子を見た方がいいな。今のところ役に立たないが、物質を生み出すスキルは貴重だ。アーサーが大剣を召喚したが、あれに通ずるところがある。あれはすでに出来上がったものだが、これは材料となるものを作り出すスキルの可能性がある。伝説の鍛冶職人はインゴットをスキルで生み出して剣をこしらえたという話もある。今はよくわからん粘液だが、特殊な薬品に変わるかもしれん。」
ガブリエルのいいたことは何となくわかっている。【粘液精製】のスキルはモンスターを模したスキルではないことは使っていてわかっていた。このスキルで出てくる粘液はローションだ。”生成”ではなく”精製”だったのもミスではなく、薬品としてとらえた場合間違いはない。精製された粘液には特に生臭さのような生物じみた何かを感じさせるエッセンスは欠片もない。それより前世で使い慣れたあのヌメヌメ感を思い出した時、これは俺がエロ貴族になった時に使うスキルだと思っていた。
だが、ガブリエルは前世のそういったやましい知識がなかったので、素直に可能性を指名してくれた。確かに化粧品としてボディローションはある。そういう観点から体に塗る薬品の可能性はあっておかしくない。【粘度調整】では蜂蜜からサラダ油くらいまでの幅で粘度を調整できていたので、例のローションにこだわっていた俺が悪い。だが、それならまだ他の魔法の方が可能性があると思う。
「わかりました。【木魔法】や【風魔法】よりも【粘液精製】の方がいいですかね。」
「そうだな。【木魔法】と【風魔法】はおそらく攻撃的な能力は得られないだろう。どういったことができるかを見極めるためにポイントを振るのは悪くないが、【衝撃魔法】がもう少し使い物になってからだな。おそらく【木魔法】は農家向きのスキルだろうし、【風魔法】も支援系統のみだろうな。空が飛べればすごいかもしれないが、先に足元を固めるべきだな。」
「そうですよね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます