第22話 武器は持ってるだけではだめだが装備しても意味がない
アーサーの竜殺スキルを自室から冷ややかな目で見ていたガブリエルの長男ジョナサンは後悔と焦燥感に苛まれていた。
もっと間近であのスキルを見て置くべきだった。十年近く二頭目のドラゴンをしとめそこなっているような男のスキルなど期待できない。耳の速い使用人たちが騒ぐので品定めのつもりで見てやったはずなのに途轍もないものを見せられてしまった。見ることができただけマシというものだ。あの男が我が家に頭を垂れに来たのは知っていたが、これでは反対になってしまう。神の使徒が降臨し、こちらが自ら膝を折り支援を願うような神々しさだ。あと数年もすれば家督はほぼ間違いなく自分に渡る。しかし、その時この男と比べられるのは御免だ。むしろこの男を引き立てて積極的にドラゴンの討伐に参加させるべきだ。それが我が家の最大の利益だ。この際アルビダも持って行ってくれないだろうか。
◆◆◆
アーサーとアルビダの婚約は翌日以降正式な書類を交わすことで決まった。
アルビダの品定めは済んだが、アーサーのダンジョン遠征についていくことは変わらなかった。むしろダンジョン攻略の現状把握のためにドラゲナイ家の人間が行くべきであり、折角アーサーの活躍が見られるならということでアルビダに決まった。
それから数日で大まかな話を詰め、待機させていたドラゴネアス家の使者に後を託すと早馬でダンジョンに向かった。他がついてこれない可能性があったのでアーサーとアルビダが先行した。実際のところ謁見の日の午後には食料の買い付けにガブリエルが手をまわしており、途中で追い抜く形での到着となった。
そして二人が旅立ったことでようやくベイブのレベルアップの話になった。
いきなり経験値スポットに行くことは出来ず、最初は能力と地力の確認からだった。
ソフィアが付いているので早々危ないことにはならないが、グミしか倒したことのないような子ともが行く以上できるだけ安全は確保しておきたい。特に預かっている貴族の子となればたとえ下級の家の子でも消えない傷がついてはメンツに関わる。
経験値スポットにいる偽竜は小さく弱い。だが数が多いので体力がなかったり大勢を相手にする力がなければ逆に危険だ。
あのアーサーの子がどれほどのものか気になったので直接確認することとした。
最初は最低限の体力があるか確認するため訓練場の外周を走らた。
「まずは走り込みだ。この柵の周りを五周しろ。時間はこの砂時計で計る。」
訓練所の外周はざっと200mくらい、それを五周するので1000m。これを三分か五分で走れというのだ。五分であればそこそこ鍛えていれば大丈夫だろうという時間だ。ステータスによる補正もあるのでクリア自体は難しくない。
「はい。わかりました。」
「よし、合図を出したらすぐに走れ。前を向いて、位置につけ。」
「はい。」
俺がスタート地点について右足を引き前傾姿勢になったところで、すぐさまガブリエルが「走れ!」と合図を出した。当たり前だがタメもピストルもないその合図は戦場での指示のようだった。一拍おいてしっかりと地面を蹴ってスタートする。こんなことに惑わされるほどの精神年齢じゃない。まずはコースの感覚を確かめるため一周目は70%の力で走ってみる。訓練所の外周はきれいな長方形のためカーブでは大きく膨らんでしまう。下手に内側を通ろうとすれば片足に負担がかかってしまう。トラックを走るというよりは廊下を走り回る方が近い。やんちゃな田舎のガキだったころを思い出して懐かしい。レースゲームで覚えたインとアウトをなんとなく取り入れながら二周走ったところで砂時計を横目で確認する。砂は三分の一しか減ってないので、今のペースとコースを維持してはしる事にした。ステータスによる補正で年齢に合わないスピードが出ている。小学生低学年の肉体で中学生くらいの運動能力がある。難無く砂が落ちきる前に五周走りきった。
ゴールのあと少し息が上がったがすぐに落ち着いた。
「そこそこのスピードはあるな。余裕もあるようだし次は二十周だ。持久力を見るから全速力でなくてい。さぁ走れ!」
ガブリエルは手を叩いて煽ってくる。
くそ、回復力が高いので疲れてもすぐに動ける様になるのでスタミナが有ると勘違いされた。休めないから回復のしようがない。さっきよりもペースを落とし50%の力で周回し、スタミナを維持する。七歳の子供に流石に4kmを走らせるのはいかれてるが、これくらい出来ないと連れていけないという場所なんだろう。ソフィアが軽く倒せるみたいに言ってたが、あいつは足が途轍もなく速いと聞いているので、相性が良かっただけだ。俺は走ることに関しては何ら恩恵はない。
◆◆◆
なんとか二十周走りきって膝をついた。上がった息を整えると、立ち上がれる程度には回復したので体に負担が掛からない様に軽く歩きながら心拍数を落とす。
「十分だな。それにしても回復力だけずば抜けてるのは本当の様だな。最後はスキルを一通り確認するぞ。そういえばお前は武器は使わなんのか。魔法を使うらしいが丸腰ではさすがに連れていけないぞ。」
ガブリエルの問いにベイブはすぐに答えることができなかった。
俺も馬鹿じゃないから魔法を使うなら杖がデフォルトの装備だと考えていたのだが、二つの条件から俺は杖を使わないことにした。まず、一番使える【衝撃魔法】は今のところ筋力を参照して威力を計算している。この魔法特有の条件だが、メインで攻撃力のあるスキルはこれだけなので、ほかの魔法を使うときに関係するステータスが機能していない。ポ〇モンで言えば技の種類は”とくしゅ”なのに、”こうげき”を参照するようなものだ。仮に通常の魔法が使えたとしても、魔法に関するステータスを上げる装備はない。つまり杖を持ったとしても棒きれとしての戦闘能力しか期待できず、杖を装備する意味がない。
では、ほかの装備ではというとこれも【衝撃魔法】には影響しない。筋力を参照しているので、一般的に言う攻撃力が上がったところで反映されない。棒切れ、包丁、ハンマー。子供が持てそうなものはいろいろ持ってみたが威力は一切変わらなかった。魔法を、特に【衝撃魔法】を中心に戦うようにすると武器を使う意味を見出せず、むしろデッドウェイトのように感じてしまった。ボクサーのように身軽な方がいいのではないかと考えているが、パンチで甲冑を相手にする気はない。それに魔法が使えない状況や戦闘のバリエーションという観点では何らかの武器が使えた方が総合的にはいいはずなので、この機に教えてもらうほうがいいだろう。
「特に武器は使いません。武器に関するスキルはないので、魔法を使いながら戦うのにちょうどよい武器があれば教えてほしいです。」
「なるほど。それで使いたい武器もないのか?」
使いたい武器か。これは地味に難しい。
剣がメジャーだろうし、棒きれやナイフの延長で今持てそうなはそれくらいだろう。
直近はバッタみたいな感じの偽竜を狩りに行くならハエたたきが調度良さそうだが、武器ではないな。ここはいっそのこと攻めを諦めて守りを固めよう。
「なら、盾が使える様になりたいです。攻撃をいなせるレベルまでなりたいです。」
「教えられんことは無いが本当にそれでいいのか?剣や槍ならいなすだけでく攻撃も出来るぞ。」
「はい。今一番必要な武器は盾です。扱いやすい小さめの盾がいいです。」
俺の筋力じゃ武器を持つより【打撃】の方が強い。射程も取り回しも十分なのだから、近づかれてもガードして、ゼロ距離でぶっ放した方がいい。剣や槍はこういう使い方はできない。シールドに銃みたいなスキル構成だとさながらガ◯ダムみたいな装備だ。
「そうか、だが今は子供が使う盾はないな。ゴーン、至急子供用の盾を作らせろ。」
ガブリエルは柵の外にいた暇そうな兵士を使いっ走りにした。
「とりあえずはスキルだ。ついて来い。スキルの試し撃ちはここでするわけには行かん。」
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