第21話 竜殺スキル
ドラゴンを討伐したものは新たなスキルツリーを獲得する。
最初に解放されるスキルから強力であり、ドラゴン討伐の証明となる。
しかし、このスキルツリーは他者からは見ることができず、発動をもって証明することができる。竜殺スキルの性能は本人が持っているスキルと最初に討伐したドラゴンによって決まるため、最初に討伐するドラゴンは重要になる。強いスキルのためには強いスキルを狩る必要がある。さらに、二つ目以降のスキルの解放の条件はドラゴンを狩ること以外が不確定で、本人すらわからない。レベルが上がれば必ず解放できる通常のスキルと違い、たとえ百頭のドラゴンを狩ろうと条件を満たさなければ二つ目以降のスキルは解放されない。
だからこそ、二つ以上の竜殺スキルを持つガブリエルとアルビダは異常な存在ともいえる。
「貴様の竜殺スキルを見せてみろ。ダンジョンに行く前に少なくともそこは確認しておきたい。貴様がドラゴンを討伐したことは疑っていない。だが、貴様の倒したのドラゴンの強さを見るにはそれが早い。」
一頭しか狩っていないため、アーサーの竜殺スキルの強さは倒したドラゴンの強さと比例する。そしてアルビダは最初のドラゴンを選び損ねたからこそ、アーサーの竜殺スキルを気にしている。ガブリエルもそれを見るのは初めてだが、スキルの内容については知っている。故にアルビダと同じくらい見たいと思っている。
「わかりました。お見せしましょう。ですが、まずは食事を済ませてからにすべきです。これを用意したシェフに申し訳がない。」
「いいだろう。」
そういうとアルビダは一番に食事を終えて部屋を出ていった。
「楽しみにしているぞ」と言い残して。
◆◆◆
ドラゴンスレイヤーの証明に際して国王に竜殺スキルを見せる必要がある。
その前に審査のために何度か官僚達に見せてはいるが、国王に見せるとなれば近衛達もいて緊張感が違ってくる。今回はそれと同じ空気感をアーサーは感じていた。
昼食を終え、一服もせずにアーサーたちは城の中庭にある訓練場へと向かった。竜殺スキルを見れるとあってギャラリーには兵士だけでなく手すきの使用人たちも集まっていた。城にいたガブリエルの子供たちもどんなスキルか確認するためにギャラリーに紛れるものや自室から覗くがいた。
「では、私の竜殺スキルをお見せします。【刃引きの聖典】」
天に伸ばした右腕、その先から白い光があふれていく。光はすぐに30㎝程度の棒状になり、それをアーサーがつかむと、形を大剣に変え光は収まった。大剣は角ばった四角く白い刃を持っているが、鋭さはなく押し切ることもできないような厚みがある。刃の両側面には文字のようなものがびっしりと刻まれており、聖典たる所以を示す作りとなっている。そしてこれを引き立てる以外の役目がないような何も装飾のない銀色の柄をアーサーは握り、剣を掲げる。
ガブリエルは大きく息をのんで確信した。自分の後継者は本来この男であると。これほどまでに美しい竜殺スキルは見たことがない。これは正に神の使徒が持つつような剣であり、人が触れていいようなものではない。荒々しいレッドドラゴンの暴力性を感じさせないこの力を持つことができているのは、アーサーが神に選ばれた存在だとそう確信した。
「いかがですか。これが私の竜殺スキル【刃引きの聖典】です。この大剣はスキルの名前の通り切ることができません。だからと言って叩くのも違います。この剣は邪悪を払うため力です。」
「その刃に掘られているのが、聖典の一節ということか。」
ガブリエルは刃の美しさに気を取られていたが、アーサーの声を聴いてその側面のディティールに気付く。
「はい。古代文字で森枯らしの悪魔を天使が討伐する一節が刻まれています。それに由来して邪悪に対抗する力が備わっています。そして悪魔の末裔たるドラゴンにもこれは一定の効果を発揮すると考えられています。」
アルビダはこれに腹が立った。羨ましくなった。そして納得した。
竜殺スキルを見ればあらゆることが分かる。
最初に倒したドラゴン、それを倒した人間との力関係さえも分かる。
竜殺スキルの性能に反映されたドラゴンの面影が強いほど、ドラゴンの方が強く運よく倒せたことを示している。アルビダは最初に倒したフォレストドラゴンに引っ張られ木々や植物を操るスキルを獲得した。自身の武器に関するスキルの影響で戦士の形をとってはいるが、魔法スキルの影響は皆無といっていい。それに比べ目の前のアーサーのスキルは真逆だ。暴力性の塊のようなレッドドラゴンの影響がほとんど感じられない。武器を召喚するという点以外はすべてレッドドラゴンを否定している。刃を潰し、純白と聖典で清められたそれは明らかにアーサーのスキルが勝っている証拠だ。【大剣】スキルによって武器の形が決まり、【清廉潔白】により真っ白に染め上がり、【精霊の鎧】の影響で聖典の一節が刻まれるほどに神々しくなっている。彼の活躍を描いた歌に聞く三つのスキルを集約した化身ようなスキルだ。
だからこそアルビダ納得した。
どんなにドラゴンが弱かったとしてもそれを飲み込むほどの力を持った人間など誰もいなかった。たとえはぐれた子供のドラゴンだとしても傷つけるのも一苦労な相手だからこそ、成体のドラゴンをしとめた上でこの結果は異常だ。落とされた頭を王都で見たとき若い竜であることは見て取れたが幼くはなかった。自分の狩ったフォレストドラゴンと違い間違いなく成体であった。この十年近く二頭目のドラゴンを狩れなかったことを最も悔やむべきは国王だ。彼にドラゴンを差し出せていれば一体何頭のドラゴンがしとめられていただろうか。領地の経営などさせず国が全面的に手を貸していれば、あの森もとっくに解放の目処がついていたのではないか。
我々の王が賢王ではないこを認めざるを得ないほどの衝撃だ。
「アーサー、結婚しよう。」
アルビダの口から何のためらいもなくその言葉が出ていた。
アーサーは名前を呼ばれ何を言われるかと思っていたが、想定外の言葉に何も返せなかった。
「お前の気持ちはわかっている。急にこのようなことを言われても理解が追いつかないだろう。単に私が納得したのだお前との婚約の話を。スキルをみてお前を試す必要がないということがわかった。」
「はい、ありがとうございます。」
アーサーが返せる返事はそれが精一杯だった。
ガブリエルは結果的に婚約が上手くまとまったことで安堵した。ギャラリーも行き遅れのアルビダがとうとう結婚するというところで拍手が起きた。使用人にもかかわらず図々しくも心配をしていたのだ。
「いいなお前たち、このことはしばらく内密に頼む。算段があるから外部には他言無用だ。もう一度言う、このことは他言無用だ。」
拍手が落ち着いたところで、ガブリエルが使用人たちにかん口令を引き幕を閉じた。
この一連の中ベイブは全くの蚊帳の外であったがために、自分が本当に特別な存在なのかと疑いたくなった。
自分には関係ないがこの世界としては重要な部分を見せられている。
まるで一年戦争の裏側を見ている感じがする。ここから本編に何かつながることを予感させる”ソレ”を感じた。俺が悪役になっていく1ピースをここにある。
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