第18話 私がお前の父親だ

扉が閉まると執事がアーサーを紹介する。


「ドラゴネアス家より、当主アーサー・ドラゴネアス様とそのご子息ベイブ様をお連れいたしました。」


アーサーは丁寧に一礼をして、挨拶をする。


「お久しぶりです。アーサー・ドラゴネアス、参上いたしました。お目にかかるのは叙爵の時以来となります。あの時はあいさつしか出来ず申し訳ありませんでした。」


「ああ、久しいな。だが、余計な礼儀や気遣いはよい、腹割って話そう。ここにいる者は口が堅い。それにお前の素性も知っているものだけしかいない。」


「それは私がガブリエル様の子であるということですか。」


はあ?聞いてないぞそんなこと。それなりに交流があるから支援を依頼するんじゃないのか?というか俺の年齢的にまだ本編開始前のはずなのに、もうドロドロしたパートがあんのかよ。このまま俺に余計な属性がついて少年漫画の主人公みたいになったらどうするんだ。マジで意味わかんねーぞ。


「そうだ。私はお前が叙爵してすぐに知った。おまえの身辺調査は叙爵のために必要だったからな。おまえが我が子と知っているからこそ、こう簡単に会えたのだ。」


「やはり、知っておられましたか。手紙を送って使者が来たときに感づいてはいましたが、知っていたのですね。」


「なぜ、子として認めなかったとは聞くな。私の子は妻の間に生まれた子だけだ。だから話は聞くし、できる支援はするつもりだ。おまえが我が子というだけではなく、この国のことを考えて私も動いている。おまえが血がつながっているから都合がいいこともあるだけだ。」


「わかりました。ドラゴネアス家が必要としている支援について説明します。」


それから、アーサーは急ピッチで取りまとめた支援の内容を説明した。森の調査拠点開発のための人員支援、ダンジョンの攻略に向けた食糧支援、貴族との顔つなぎとそれに向けた装飾品の支援、ドラゲナイ家での使用人の修行、最後にベイブの家庭教師の選定についてすべてを話した。


「ふん、随分と図々しい限りだな。だが、言わせたのはこちらだ。まずは森の件だが、これは無理だ。偽竜の痕跡を見つけるまでは誰も手が出せない。出ないとドラゴネアス家の手柄にならない。必要な物資が安く売れるが、人を出せば能力が疑われる。」


つまりは支援したドラゲナイ家の人員が優秀だから痕跡を発見できたのであって、ドラゴネアス家はこの後の調査をするだけの能力がないといわれることを避けているのだ。たとえ木こりを送ったとしてもドラゲナイ家から入れた人員であれば、疑われてしまう。十分に疑いの余地がある状態ではドラゴネアス家の成果が減ってしまう。


「わかりました。何とかやりくりして見せます。そのためにもアースドラゴンを狩らねばなりません。」


「それについては問題ない。こちらの仕入れと混ぜて安く買えばいいだけだ。我々も遠征予定があるから、お前たちのいるププリアを経由していけばよいだろう。行き先を少し変えれば遠回りにはならない。その代わり半年以内に終わらせろ。」


「わかりました。この後ダンジョンに向かう予定でしたので、このことを話してきます。そろそろドラゴンのいる階層に到達する見込みなので私も加わり早急に片をつけます。」


少しきついと思ったが、顔色を変えずアーサーは条件をのんだ。


「貴族への顔つなぎの件は後回しだ。使用人の件だが、料理人ついてはここに来てもらった方がいいな。それ以外の使用人についてはこちらから人をやろう。何人も教えるならその方が何かと都合がいい。」


「ありがとうございます。我が家はパーティーの主催になる経験がほとんどなく、修行に出せる余裕もなかったので、メイドたちまで面倒を見ていただけるのは助かります。」


「パーティーは料理だけ良くてもだめだからな。諸々の疎いところを矯正せねばならん。それからお前の息子のベイブの件だが、それはこちらからも頼みたいと持っていたところだ。後継者の育成はなによりも家を存続させるのに重要な課題だ。今のお前のようになっては貴重な戦力を持った家がなくなってしまう。」


「私の不徳の致すところです。」


「それにソフィアからも話は聞いている。頭だけ良くてもお前の後継者は務まらない。先にレベル上げを済ませてから、勉学に励んでもらう。王都の学校に行かなければならないのだ手を抜けん。」


「はい、私と違ってベイブは生まれながらに貴族です。たとえ騎士爵だとしても貴族学校に行かなければならない。それまでの間、ご指導よろしくお願いいたします。」


「ああ、それと最後に後回しにしていた貴族の顔つなぎの件だが、俺の娘と結婚しろ。そうすれば自然と顔を出す場所が増えるぞ。それにだ、今まで提示した支援についてもこのままではできん。対外的に見て俺とお前の親子関係はないことになっている。それなのに急に支援をする形になればおかしく見える。当然お前もわかっていたことだと思う。」


「その点について承知しています。だからこそ今回この話に乗るということは我々の関係を明かすということではないのですか。」


「できん。理由は二つだ。まずお前を我が子として認めれば他にも同じように言い出してくるものもいる。だがほとんどは嘘だ。お前の調査も国の調査で初めて知った。だからドラゲナイ家だけでは調べられない。判断ができないから今まで一回も認めていない。もう一つはお前がすでに貴族だからだ。爵位を持っているものを息子と認めてしまえば、その爵位をはく奪されかねない。ドラゲナイ家が計画的にやったこととして認められてしまえば、叙爵の正当性が疑われる。何よりドラゴンスレイヤーの貴族は多い方が何かと良い。だからドラゴンを狩ることで貴族になれるのだ。」


「だから、あなたの娘と結婚し、つながりを持てということですか。」


「その通りだ。婚約せねば今までの支援はすべてない。それと婚約については貴様がダンジョンでアースドラゴンを狩ったと同時に発表する。いま、お前に娘を嫁がせるだけの理由がない。先に婚約を発表すれば余計な疑いをかける。今日ここにはドラゴンを狩るのが目前に迫ったからだという体にしなければならない。そのための最後の一押しを支援するのだ。」


「わかっていますが。」


「返事は出来ないか。この程度の決断ができなければ貴族としては務まらないな。妻を愛しているからこそ決めかねるのだが、その姿を息子に見せていていいのか。」


アーサーはベイブの方をちらりと見て苦虫をかみつぶした顔をする。

アーサーが愛妻家であることは俺も理解しているが、これは受け入れるべきだ。愛なんてなくたって結婚は出来る。何なら子供もできる。体裁を保つだけの努力をすればいいのに。


「申し訳ありません。妻にも悪いですが、新たに妻となる方にも申し訳ない。」


「我が娘の心配はいらん。その辺は承知した上で教育している。それにお前は我が娘のことを知らんからしょうもないことを言うのだ。愛などというのは後から芽生えるものだ、もっと貴族らしく振舞え。」


その言葉で場はしんと静まり返った。

沈黙がしばらく続き、緊張で出た汗が床に落ちた音さえ聞こえるような気がした。


「受けます。婚約の話を受けます。」


「いいだろう。時間がかかりすぎだ。いい頃合いだ、昼飯にしよう。そこでお前の婚約者候補と合わせる。」


ようやく長い謁見が終わった。
















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