第17話 竜王の城へ
朝食を終えた後、アーサーはジョニーと書斎で昨晩の成果を聞いていた。そこで改めて目にするドラゴネアス家の課題の多さに頭が痛くなったが、優先事項を確認しガブリエルとの謁見に備えた。
「ジョニー、後発でできるだけ早く実務担当者をよこしてくれ。支援を取り付け次第俺はダンジョンに向かう。一時的に手薄になるがセバスチャンとハーベストはどちらもいてほしい。あと、ジェフリーも連れていけ。」
「わかりましたが、なんでジェフリーまで。」
「今朝ソフィア様と話していて我が領が貴族の世情に疎くなっていることを痛感した。来年の祝賀会に向けて、料理の質を上げなければならない。ジェフリーにはその辺の調査を頼みたいと思っている。ドラゴネアス家でジェフリーを修行させることができればかなり箔が付く。」
「なるほど。そう考えると今回のソフィア様が来てくれたのはかなり幸運だったな。もっと事務的な相手だったらこうはいかないだろうから。」
「ああ、急な事だったが助かった。これの写しは作ってあるんだろうな。」
ジョニーから渡された資料について確認する。
「大丈夫ですよ。もう二部作ってあります。」
「わかった。だがもう少し作っといてくれ、ここにいる者が一人一部は持てるようにしたい。」
「そうですね。そういえば料理の件ですが、何をおしえてもらったんですか?」
「どうやら最近は四角いパンがあるらしい。それとコーヒーという黒くて苦い飲みものもだ。コーヒーというのは飲むと頭がすっきりるらしいので、文官たちにもいいかもしれん。とにかく町ではわからない貴族の食事情を仕入れないと笑われてしまう。」
◆◆◆
旅の支度は使用人たちに昨晩のうちに任せていたので、急ごしらえであるものの最低限の状態にはしてある。ベイブは初の遠出となるが、子供のため特別に用意するものはなく基本的には着替えのみだ。それでも貴族の親子の荷物となればそれなりの量になってくる。
「ダメー。それとそれは置いてって。」
玄関前で待っていたソフィアに二つの荷物がはじかれる。一つはアーサーの着替えで、貴族の家に行くために用意した正装だ。ダンジョンに向かうために動きやすい服も持っていくため、どうしても荷物が多くなってしまった。それに正装をは押し込んで詰め込むわけにはいかないので、どうしても箱が大きくななる。貴族になった時思い切って買った装飾のしっかりしたものなので、重量オーバーで持っていけない。仕方なく相棒の大剣と一緒に背負える程度の荷物だけになった。もう一つはベイブの荷物だ。ベイブの荷物は一つの箱に収まっており、特に装飾があるわけではない。しかし、ベイブ自体が想定外なので、できるだけ軽くしたい。
「待って下さい。僕の着替えはどうなるのですか。」
「大丈夫、それくらい貸すから。たぶん。それにアーサーさんのドレスだって必要なら貸してもらうようにするから置いてって。」
「わかりました。ベイブの着替えはお前たちが来るときにもってこい。うまくいけばしばらくベイブは伯爵家で預かってもらうことになるだろうから。」
アーサーはさらっと納得し、見送りに来ていたセバスチャンたちに任せた。
「じゃあ、行くよ。手つないで。」
輪を作るようにソフィアとアーサー、ベイブは手をつなぐ。
「ほいじゃ、【帰宅】。」
三人は黒い幕に包まれ姿が見えなくなった。幕が落ちて消えると三人の姿も見えなくなっていた。正に一瞬の出来事でその場にいたものは全員息を飲んでいた。
◆◆◆
幕の内側は外で見ているよりも一瞬というわけではない。大体三十秒。その間恐ろしい速さで幕の内側では景色が移り変わっていた。ソフィアがドラゲナイ家からドラゴネアス家に来るまでの情景が巻き戻っていく。それぞれが一瞬なのでそれをまともに見ていることは出来ないがフラッシュ映像と違いちゃんと早戻しになっている。屋根の上を渡るような映像や空を駆けているような映像もあったが、アーサーはそれをとらえていた。映像が止まって貴族の家らしい立派な門が見えたところで幕が降りた。
「到着~。ようこそドラゲナイ家へ。」
門に負けないほど立派な鎧を着こんだ兵士がハルバードもって門の左右に立っている。兜は目元が隠れており鼻から下しか見えないが、ごつい顎と歴戦の傷が見える。
「ガッツさん、客さん連れてきたから連れてって。」
「了解しました。彼はアーサー様のご子息ですか。」
「そうだよ。」
ドラゴネアス家から客人が来ることは当然門番にも伝わっており、ソフィアが派遣されたことも知っている。雑な引継ぎに見えるがすべて承知している。ゲームやWeb小説の影響で堅物で無能な印象が蔓延しているが、貴族の家に来てまず最初に目につく門番が質が悪いわけがない。バッキンガム宮殿の門番や儀仗隊を見ればわかる通り、目立つ兵士というのは名誉職であり、新兵ではとても務まらない。それに防衛において出入口を固めることは基礎中の基礎だ。ただの堅物では通すべき客を見極めることができない。予定外にこぶつきだったとしても状況を察することが必要だ。
「ではアーサー様参りましょう。」
「よろしく頼む。」
引継ぎを終えたソフィアは颯爽とこの場を去っていく。これから屋敷の者たちに自慢の足の速さで客人が来たことを伝えに行くのだ。これからオフというわけではない。
門の内側には広い道としっかりと手入れされた庭がある。道は広さは馬車で通ることが想定されている。屋敷の屋根は見えるが入り口が見えないのでそれなりに遠いということはわかる。
こんなだだっ広い道を歩いていると貴族じゃないみたいだな。特にアーサーなんていろんなもん背負ってるからまるでRPGの勇者みたいだ。今は上着を脱いで入るが正装なので、違和感のある恰好にはなっているな。
◆◆◆
数分歩くと屋敷の入り口に到達した。
屋根が見えていた時点で薄々気づいてはいたが、ここは屋敷というには立派すぎる。はっきり言って城だ。ドラゴネアス家とは比べ物にならない数の使用人たちが働いていることは容易に想像できる。城の裏側にも広い土地があるのは間違いない。この街を外側から見れていないがこの城に似合うだけの堅牢な城壁があるのは間違いないだろう。むしろ屋敷の門や塀は白くきれいだったが、背も高くなく中も見えていたので威圧感がなく勘違いしていた。この城に住んでるいるのが同じ貴族だというこが信じられないほどの格差だ。
謁見の間に続く廊下にも高級な調度品や鎧が並べられ、ドラゴネアス家との格の違いを見せつけていく。ベイブは驚きと関心しかしていなかったが、アーサーはジワリと緊張が高まっていくのを感じた。
若い執事が待っている扉のまで門番は止まった。
「武器は持ち込めませんのでここでお預かりいたします。」
「背中の荷物も頼めるか。」
「勿論でございます。」
アーサー腕にかけていた上着を執事に手渡し、背嚢と大剣を先導した門番に渡す。
それから、預けていた上着を受け取り袖を通す。他家にかかわらず執事が身だしなみを整えてくれる。
「問題ありません。では参りましょう。」
執事がそう言って扉の方を向くと、向こう側の兵によって扉が引きあけられた。
数段高くなったところにかぶりえるが、豪奢な椅子に座って待っている。そこに続くように入り口から赤い絨毯が敷かれている。そこを執事が先導し、ガブリエルの前まで連れていく。ベイブは一歩遅れてアーサーの後ろについていく。これが実際にはちょうど言いタイミングだったので問題なかった。ガブリエルの前でアーサーが止まった時も少し遅れて一歩下がった状態だったが、これも完璧な位置取りだった。
謁見の間は地方に王が出向いたときに使用することを想定されているため、王城の物に引けを取らないつくりになっている。椅子だけではなく窓もカーテンも王城の物を参考に一流の物を集めている。
部屋の中にいる人数は十人程度で意外と少ない。ガブリエルの脇には同じような豪奢な椅子に彼の妻が座っている。両脇に宰相と騎士が控えている。さらに会談を降りたところに文官とメイドが最小限だけ控えている形だ。
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