第15話 RTAのための経験値スポット

元ネタの「俺の彼女はレッドドラゴン」は美少女ゲームには珍しいRTAの概念がある。RPGの要素が濃いゲームのためゲームの進行にはボスを倒すことがキーになっている。普通の美少女ゲームは日数が進行にかかわる。選択肢を選んでストーリーを進める際にイベントが発生し、日々が過ぎていく。決まった日数の中でどれだけのことができるかというのが基本だ。この作品も日数の感覚がないわけではないが、ボスを倒さない限り、何もイベントが起こらないままゲームオーバーを迎えることができてしまう。逆にボスを倒しまくってストーリーを進めることができれば高速で周回して、マルチエンディングを確かめることもできる。だからこそ最速でレベル上げをすることが攻略とされた。製作者側もそのための公式チートいくつか用意しており、その一つが経験値スポットなのである。


「子豚くんも知ってると思うけど、レベル10以降はちゃんとした敵を倒さないとレベルが上がんない。それまでは子供が遊び半分に殺せるグミを相手に経験値が稼げていたのにそれが全く機能しなくなる。レベル10までにスキルの芽が出ないとその先のレベルアップは各段に難しくなってくる。」


「はい、小鳥を狩った程度で得られる経験値では意味があるの分からないほどに実感がないです。」


「そう、私も同じ。でもね、救済措置ってのがあんの。手のひらサイズのダイナがいっぱいいるところがあって、そこにいるダイナを倒すと経験値がジャンジャンはいんの。手のひらサイズだから、虫と変わんない感じでプチプチ行けば簡単だよ。」


「それはトカゲの間違いじゃないですか。尋常ではない数のトカゲが群棲しているとなれば確かに経験値はすごいでしょうが、トカゲだとすぐにレベルが上がらくなるのではないですか。」


「違う、違う。ちゃんとダイナなの。ちっちゃい恐竜のフィギュアあるでしょ。あれよあれ。そんでぴょんぴょん跳ねてるから、最初はバッタかと思ったの。」


「本当に要るんですか。」


「いるって言ってじゃん。レベルも30まで上がるよ。」


なん、だと。イカれてる。そこまでレベルが上がればステータスもスキルも十分になるはずだ。それなら伐採に協力できるくらいになれるかもしれない。


「その穴場はどうすれば教えてもらえますか?」


「ベイブ、待つんだ。我が家の立場を考えろ。」


苦しい状況を打開するため、ドラゲナイ家にはすでに協力を依頼している。交渉を始めるための事前の接待中だというのに、ベイブの図々しい態度にアーサーは怒りを覚えた。間違った認識をもとにした怒りはただの間抜けでしかない。ソフィアが面白がって個人的に話を進めているだけで大元の協力依頼には今のところ全く影響しない事案である。


「いいよ。でもあの場所は勝手に入れないから、戻って許可取らないといけないんだよねー。私が頼めばたぶんOKだと思うからアーサーと一緒に来なよ。」


「それはドラゲナイ家へ私も行くのですか。」


「そうゆうこと。」


「待って頂けないでしょうか。さすがにベイブも一緒では時間がかかってしまいます。」


ベイブがこの場に同席することを許したのはソフィアの頼みを叶えることで、ドラゲナイ家との交渉に役立つと考えたからであり、関係ないところまでベイブを付き合わせる気はない。今のベイブはまだマナーを学ぶ機会を得ていない。不遜なソフィア相手であればどうにかなるが、大貴族のガブリエル相手では問題になる。それに一番の問題は移動時間である。

ドラゴネアス家から使者を出した日から計算していくと、ソフィアは三日程度でこちらにやってきている。スキルによる移動ということは理解しているがあまりにも早すぎる。残っている一番いい馬を限界まで使っても無理だ。アーサー一人であればその身と馬のみで済むため限界まで移動を短縮できるが、ベイブがいては馬車がいる。通れる道も限られ、速度も出ない。それではわざわざ特別な使者を使ってまで手紙をいち早く届けたドラゲナイ家に申し訳が立たない。


「え?何言ってんの。別に時間変わらないけど。」


そしてソフィアは何か思い出したように目が開いた。


「あ、ごめん。言ってなかったけど戻るときはスキルで一瞬だよ。定員があるからもともとアーサーさんだけ連れていく予定だったけど、ついでに子豚くん連れていけばいいから。」


「それは本当か!」


アーサーはとっさに敬語を忘れて詰め寄ってしまった。座っているから近寄れはしないがソフィアから見ればグッと近づくような気迫だ。

転移スキルなど滅多に所有者のいない特別なスキルではないか。スキルの所持者は伝説上の人間ばかりで、現代で持っているものがいたとしても利用されないために口外しないことがほとんどだ。


「ほんとだよー。」


「何人運べるのですか。ベイブを連れていくならもう何人か連れていけないでしょうか。」


「残念だけど無理だね。人数ってか体重制限があるから、ムキムキなアーサーさん連れいくならあとは犬一匹くらいしか余裕ないかな。」


「だから、私だけを連れていく予定だったのですね。」


「そういうこと。だって本来は他人を運ぶためのスキルじゃないからね。」


今がチャンスだ。アーサーは冷静さを失っている。さっさと俺が行く話を進めてしまおう。


「であれば、僕が一緒に行くしかないですね。ソフィアさんの厚意をしっかりと受け取っておくべきです。僕も強くなれば役に立てますし、悪いことは何もないじゃないですか。」


「ああ、確かにそうだな。」


「話は決まったみたいね。明日のお昼前に出発するから、よろしくね。」


「はい、よろしくお願いします。」



◆◆◆


晩餐で終えた後アーサーは書斎に戻っていた。

途中で精彩を欠いてしまい、ソフィア悪い印象を与えてしまったのではないかと考えていた。だからこそ父親としてはやりたくないが、貴族としてはベイブによる機嫌取りは仕方がないと考えてベイブが付いてくることを飲み込んだ。だが、セバスチャンにはそれを正直に伝えはしなかった。


「ジョニー、ハーベスト明日、私はドラゲナイ家へ向かう。ベイブも一緒だ。道中はについては心配ない。客人のスキルのおかげですぐにつける。」


書斎にはセバスチャンだけでなくジョニーとハーベストも集められていた。


「ベイブも行くのか?なんでまた、ほかに誰か連れてけないのかよ。」


「ジョニー、残念だがこれはドラゲナイ家の決定だ。家臣のいない状態での面会を希望しているのだろう。私の資質を見極めるために。」


「なるほど、そうしますと私が呼ばれたのは金の無心ができないということが濃厚ということですな。」


ハーベストは禿げ頭からたれる汗をぬぐいながら困った顔で聞いてくる。


「ああ、その通りだ。私の交渉術で金を引き出してもロクなことにならないだろうし、このような面会で大金が動くことはまずないだろう。」


「金意外だと人か物ですが、うちの食料などは十分ですから人だけですな。」


「しかも戦力は借りるわけにはいかない。借りられるのは労働力だけだ。だからジョニーにも来てもらった。森を切り開き拠点を作るために、どれだけの手を借りれば計画は短縮できるか明日の朝までに見直してほしい。セバスチャンも手伝ってくれ。できれば細かく必要な人員の要望を出してほしい。」


「わかりました。せっかくなので、道を舗装する人員も確保しましょう。今はとにかく木を伐ってますが、調査拠点を立てたら此処との行き来をしないといけないですから道もきれいな方がいい。」


「わかった。そういうのがあれば可能な限り要望を出してくれ。どんな支援が受けられるかわからない。」


「であれば、森の件だけだはなく他の分野の支援も検討すべきですな。」


ハーベストは考えの凝り固まった三人に向けて、ごく当たり前の助言をする。セバスチャンは黙っていたが、それはアーサーの方針を認めて賛成していたからこそだ。彼も森にこだわりすぎていたことは間違いないといった形で、驚きが顔に出ていた。


「関係作りも兼ねて何か譲っていただいて応接室に飾ったり、服を仕立ててもらうのも良いでしょう。アーサー様やマリー様にかける金額を減らしてでも金を作っていましたが、叙爵の周年記念式典も近いのでこれからは出席者を募るために改めて顔を売らねばならないでしょう。」


「確かにそうだな。失念していた。そういった点ではお前が一番冷静だ。そういった支援についてはお前の方で検討してくれ。」


「かしこまりました。では先ほど物の支援は不要と言いましたが、食料の支援を頼みましょう。クルーゼたちの食費も馬鹿になりません。わが領から送るには遠くて日持ちしない野菜などは持っていけません。遠征に出ているククール領は流通はいいですが食費が高いのでその分を安く済ませられるようになれば使える金も増えます。」


「それだけじゃない。遠征中の飯がよくなれば効率が上がるさ。出費は抑えてもらっているはずだから、その支援に俺も賛成だ。それからアーサー、ドラゲナイ家から支援を取り付けたらすぐには戻ってこなくていい。」


「なんでだ。いち早く知らせるべきだろう。」


ここでジョニーの考えを理解したセバスチャンが初めて口を開く。


「ジョニーのいう通りです。こちらの送った使者はまだ帰っていないでしょうから、吉報はそのものに任せればよいのです。ドラゲナイ家からの支援も準備にはそれなりの時間がかかりますので、この機にクルーゼたちに会いに行くべきです。」


「ああ、あんたが来てくれれば士気も上がる。なんだったら一緒にダンジョンにもぐってしばらく帰ってこなくてもいいぜ。お前自身で今の状況を見てくるべきだ。忘れている勘も取り戻さないとドラゴンを狩れないかもしれないしな。」


「ありがとう。頼んだ。」


アーサーは三人に今後を託し、明日に備えて寝ることとした。

残された三人は空が白むまで急ピッチで資料をまとめた。若くないセバスチャンとハーベストは作業が終わると限界がきてそのまま書斎で眠ってしまったが、ジョニーはそのまま起きてアーサーが起きてくるのを待った。














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