第14話 君の名は?

いくらご都合中世とはいえ、ドラゲナイ家の配達人の服装は許されるものではない。

当然もととなったゲームでも見かけるはずのない現代の服装。

これもすべて転生者が原因だ。

配達人、ソフィア・クイーンハートは転生者で、競技中の事故で死んだ女性バイクレーサーだ。優秀なレーサーだが、スピード狂の彼女は大事なレースであればるほどおかしくなる。速度をできるだけ落とさずにカーブを曲がることで、可能な限りトップスピードで走りけることを考えている。そんないかれた走法で限界を超えた瞬間を見逃し、一瞬でバランス崩し死んだのだ。

だが、奇跡は起こった。転生し、その先でもスピードに特化したスキルを手にすることができた。前世とは違いバイクはないもののスピードを極める日々は楽しかったが、同時にこの世界では食うに困ってしまった。なのでそのスピードを生かし配達人として働くことにしたのだ。そのスピードに惚れたガブリエルがドラゲナイ家お抱えの配達人にしたのだ。


◆◆◆


セバスチャンに案内されているその女を見たとき俺は頭がおかしくなったのかと思った。パーカーは羽織っているが、市民ランナーのような格好の女が家の中にいる。ほぼ間違いなくこの女は転生者だ。こんな格好をこの世界の住人が思いつくわけがない。メイクやネイルはしていないが、この女は前世ギャルだ。圧倒的な陽のオーラを感じる上、この世界になじもうとしないこの不遜な態度は正にそうだ。しかもこいつは俺と同じで原作を全く知らないタイプの転生者だ。こんな格好でうろつける奴とはかかわるべきではない。


「ベイブ様。こちらドラゲナイ家からのお客人のソフィア様です。」


「初めまして、ドラゴネアス家長男のベイブです。」


セバスチャンなぜ声をかけた。こいつとは関わりたくない。察してくれ!


「へー、あたしソフィアよろしく。なんかブタみたいな名前してね」


「違います。あんな子ブタと一緒にしないで下さい。」


「へー、あんたもなんだ。」


あっ、やってしまった。ドラえもんとサザエさんは警戒していたが、自分の名前で引っかかるとは思わなかった。ニマニマと笑う表情が腹立たしい。セバスチャンお前は分かった上でやったのか?やはりお前も転生者なのか?


「ベイブ様、子豚とは何のことでしょう。」


「大した事ではありません。あとで教えるので、今はソフィア様の案内をお願いします。」


俺はそそくさとその場を離れたが、結局夕食に呼ばれてしまった。


◆◆◆


客人をもてなすため普段は使用しない接待用の食堂を稼働させる。料理も急ぎ手の込んだものを作り、体裁を整えていく。当然ながら数日前に来客があることが分かっていれば十分に準備ができる。だが、今回はイレギュラーが重なりすぎている。ただ手紙を届けるだけであればドラゴネアス家から向かわせたものに持たせて帰ってくればよかった。それが速達をさせるため早馬を用意するだけならまだしも、ドラゲナイ家のお抱えの特別な人物に届けさせてたのだ。家紋入りの短剣などただの使者では持つことができない。それは貴族の常識としては名代が持つような代物なのだ。単に手紙を届けに来ただけではないことがセバスチャンにはわかっており、そのことはすぐさまアーサーに伝えられた。

そしてこの客は厄介極まりない。急な来客となってしまった時、たとえ自分が格上の貴族だったとしても「構うな」と一言建前を言うのが礼儀というものだが、この客は存分にもてなされようとしている。ドラゴネアス家はドラゲナイ家に頼みを聞き入れてもらう立場なので、苦しくても受け入れるしかない。これが頼みを聞くか見極めるための試験である可能性がぬぐえない以上、できる限りのことはしなければならない。

ただこの客に貴族の常識というものがなく、不遜なだけであること。この不遜で奇抜な恰好の女がトラブルに巻きこまれないために、不釣り合いな短剣を持たさされているという事実をお互いに知らないのだ。ソフィアにとってこの短剣はテレビドラマで見た黄門様の印籠と同じ扱いなのだ。便利だが必要以上に周りが下手に出ないので、その重みが分からない。運転免許証くらいの感覚でこれを見せているのだ。

だからこそ実現可能な要望が通ってしまう。ベイブと話してみたいと思ったので夕食での同席を希望すれば、叶ってしまう。まだ十分に躾ができていないので断ったとして、それでも問題ないと言われてしまえば従うしかない。

調度品の揃えられた気品ある食堂に三人が着いて食事が始まる。マリーは幼い我が子の世話があるためここに同席していない。ベイブの弟であるマクシミリアンはまだ三歳のため、会食に参加できるほどの落ち着きはまだない。その状態では客人の前には出せない。言葉遣いやマナーが怪しくてもベイブほどの落ち着きがないと、さすがに見せるわけにもいかない。別の機会であれば手短に二人を紹介したのだが、そうも言ってられないほどアーサーたちは大慌てだった。


「いやー、さっきぶりだね。やっぱり他にいると思ったけどまさか君がそうだとは思わなかったよ。」


「何かベイブに気になるところでもありましたでしょうか。」


偶然ベイブとソフィアが鉢合わせたことを聞いていたアーサーは何か気に障ることをしていたのではないかと恐れていた。


「全然。むしろウレシイって感じかな。特別な共通点のある人間会えたって感じ。」


「それはどのような事でしょうか。」


「残念だけどアーサーさんには教えられないかな。ピンとこないんだよね。たぶんアーサーさんは違うと思うからこれ以上は教えられないかなー。」


「そうですか。」


「それより子豚くん、いい経験値稼ぎの穴場をおしえてあげようか。」


「とても興味深いです。できれば子豚と呼ぶのはやめていただけないでしょうか。」


「えー、子豚って呼んでいいなら教えようと思ったのに。」


「そうですね。残念ですが、あきらめるしかないようです。」


こんな奴とかかわっていられるか。アーサーに転生のことをおしえないと言っておきながら子豚呼びしやがって。ただ、アーサーの反応見るに転生者でないことは確実だとわかったことは良しとしよう。


「ソフィア様。その話を私に教えていただけないでしょうか。」


「いやー、アーサーさんには意味ない話だだから。ドラゴン倒せちゃうんでしょ。じゃあもう関係ない話だよ。子豚君が興味ないならこの話は終わりかな。10レベル以降のレベル上げが簡単にできちゃうのになー。30レベルまであっという間だよ。」


くそ、俺の抱えてる問題をズバリ見通しているかのような、エサをつるしやがって。俺はあれからレベルが1だけ上がり、10レベルで止まっている。狩にも参加できないので、レベルアップもできない。俺がレベルアップできれば少しでも戦力になれる。森の奥地に道を切り開く作業に加わることができれば、わずかでも計画を早められるかもしれない歯がゆい思いをし続けている。


「その話に非常に興味があります。子豚と呼んでも構いませんので、その話詳しく教えていただけないでしょうか。」


「いいねー、子豚くん。やっぱりレベル上げたいよね。長いよね。体ができるまであと何年かかるかって考えると、すごい足踏みしてる感があるよね。」


転生者だからわかる感覚。記憶があり精神年齢が高いからこそ、いろいろ考えてします。なのに子供であるとできないことが多いと感じるが、肉体の成長は急激には起こらない。だからこそいつしかアンマッチな状態が心を蝕んでくるのだ。いくら四十超えている精神でも経験したことのない歯がゆさにはそう簡単には耐えられない。















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