第12話 金欠のドラゴネアス家

◆◆◆


途中から急につまらなくなってしまった。

ただ、木を切っているだけでは暇だ。子供じゃ作業できない。

倒木の枝葉に【打撃】を撃って揺らしている。ただ、それは無駄じゃないらしく、精度と威力が上がってきている。使うたびに体になじむ感覚があったが、おそらくスキルは使わないとそもそも本来の性能を発揮しないのかもしれない。単純な”慣れ”とは違い枝に当たるときの音が変わり、細枝が折れるくらいまでになっている。その時点で威力の上昇は感じられなかったが、ネズミ程度なら数発当てれば殺せそうな勢いだ。


「ベイブ様。手伝って頂けるの有難いのですが、枝が落ちたあとが汚いのでもう少しきれいにお願いします。鉈や鋸できれいに落とさないと棘が刺さってしまいますので。」


クルーゼが申し訳なさそうに言ってくる。この辺は経験がないのでちゃんと意識していなかったが殴りつけて枝を折っているので、割れたようになって鋭利な形になっている。こんなことで迷惑をかけて悪役としてのエピソードを作ってもしょうがないので、幹に残った部分も【打撃】で叩き潰していく。

なんだかんだそれが楽しくなってあっという間に時間が過ぎて、伐採作業が終わった。途中からクルーゼも伐採作業に参加しており、丸太を運搬していた。


「本日の作業はこれにて終了。道具の洗浄と片づけをしてから戻るように。」


「「「了解!」」」


つかれているだろうに相変わらず統率のとれた軍隊ぶりを発揮する。

同じころジョニーたちも狩りを終えて森から出てきた。

猪を二頭担いで後ろから兵たちが来た時には驚いたが、ジョニーも何羽もの獲物をひもでくくった状態で肩にかけていた。


「おー、いいタイミングだな。」


「ああ、ちょうど終わったところだ。今日の狩りはどうだった。」


「見ての通り上々だ。これから捌かなきゃならないが、料理番からも手伝いは来るし、小さいのはそいつらに任せて俺らは大物をつるさないといけない。」


「そうか。それもそうだが、森の様子はどうだ。」


「まだまだって感じだな。この二頭も運よく見つけた感じだ。まだ竜から追い立てられた感じではないな。森が広いからもっと減らさないと生息域が干渉してこないんだろう。」


「まだまだか。追い込まれた連中に当たれば竜も近くなるのだが。はぐれた偽竜の痕跡もまだないか。」


「全然だな。このペースだとまだまだかかるから相当予定を見直さないといけないな。」


クルーゼもジョニーも難しい顔で今日の狩りの成果と今後の展望を話し合う。


「やはりわれら私兵団だけでは手が足りんな。さすがに人を雇うしかないな。我々も訓練の時間を一時的に減らして伐採を優先しよう。このままではアーサー様も鈍ってしまう。」


「そうだな。セバスのケツをを叩いてやらないとな。ああ、最初の予想よりだいぶ悪いからな。むしろお前たちはダンジョンに遠征して小遣い稼いできてくれよ。」


「ああ、下手したら年単位での遠征になるかも知れん。話は早い方がいい。このまま私は向かうが、会えなければ夕食時に話しておこう。」


この世界はダンジョンもあるのか!すごいな正に王道のそれっぽい設定だ。

ダンジョンについては食堂に行く途中でクルーゼに聞いてみるか。



◆◆◆


ダンジョン。特に魔法的な要素はないが複雑な地下洞窟。最深部にアースドラゴンの巣があり、そこから中層までがアースドラゴンのテリトリーになっている。中層から入り口にかけては偽竜のダイナが住み着き、エサを求めてダンジョンの外に出てきたりもする。ダイナがダンジョンから出てこないように封じ込めておくために間引きを行っている。本物のドラゴンには劣るが、その辺の獣に比べると格が違うので間引くのも一苦労で、領地にダンジョンを持つ領主はあの手この手で人集めている。偽竜は肉も旨く、爪も鋭く余すところなく使えるので、狩った偽竜を一括で買い上げてしまえば儲けはしっかりと出るので外から人を雇っても困らないのだ。

アーサーがいなくてもドラゴネアス家の私兵団だけでダイナなら狩れるため、彼らを年に数回出稼ぎに出し、金と交易品を手に入れてきている。これも十分な特産がないドラゴネアスの領地が原因で運営費用が賄えないのだ。

これを解決するためにも、自領での偽竜狩りを始めたいのである。この土地に竜がいることはく呈しているからこそ早く見つける必要がある。そのためには森を切り開かなければならないのだが、今はそのための人員が足りず、人を雇う金も十分とは言えない。


「夕食の時少し話は聞きましたが、そこまで状況が悪いのですか?」


夕食後、五人の男がアーサーの書斎に集まっていた。面子はアーサー、セバスチャン、ジョニー、クルーゼ、それから金庫番のハーベストだ。皆が集まったところでセバスチャンが話を切り出す。


「状況はほぼ最悪に近い。ここの森は予想以上に大きく、ドラゴンの群れは予想以上に小さい。そのためもっと奥に行かないと偽竜の痕跡がつかめない。」


ジョニーの報告にクルーゼ以外は落胆する。


「ベイブがわざわざ話を聞けというから、子供でも分かるくらいによくない状況だと持っていたが、頭が痛いな。」


アーサーはベイブの顔を思い出しながらなんとか声を出す。


「おそらくですが、竜がいることは間違いないでしょう。歴史書にも書かれていて当時はここはかなり活発なところだったということは裏付けは取れています。それ故になかなか下賜されずにいた土地です。問題はいつごろからか伝承とは状況が異なってしまったということです。」


セバスチャンは元は国の役人でこの森の開発のために各所の合意で引き抜かれてきたようなものなので、特にこの件については下調べも十分なつもりでいた。


「伝承というのは尾ひれがついたり、何らかの意図で捻じ曲げられることが当たり前といっていい。今回はそれがこちらの想定を上回ってしまったのだ。国王たちもずっとこのことを信じてきていた。」


アーサーは気を落としつつも冷静さは失っていない。


「となれば奥地への調査のためにも国に報告できるレベルの内容を揃えねばならない。なんとしても偽竜の痕跡を見つけて、希望を見出さなければな。ジョニー、どの程度進めば痕跡は見つかりそうだ。」


「正直に答えますよ。まずは森の入り口から八日ほど行ったところより奥にしかいないと思います。少なくともそのあたりに拠点を設けないと継続的な調査ができません。正直今のまま、俺だけで探しても目処が立たないです。」


ジョニーはどうしようもない目算と現状をはっきりと言ってしまう。


「厄介だな、その前には伐採して森を狭める必要があるというのに」


「アーサー様。伐採を担当している我々からも具申しますと、今のやり方では人手が全く足りません。人手も増加だけでなく、やり方を変えませんと成果出る前にドラゴネアス家の資金がなくなると思われます。」


「となると、面を押し上げる戦略ではだめだな。まずは調査拠点とそれに続く道の整備を最優先にやらねばな。」


「そこなんですが、ルートの目星はここ数年の狩りで付けました。今伐採しているところから少し外れますが、切りやすい木が並んだルートは見つけているので、人さえ確保できればやれるでしょうね。」


「そうか。ハーベスト我が家が使える金で何人くらいは雇えそうだ。」


眼鏡をかけた禿げ頭の小太りのオッサンに問いただす。


「残念ですが多くても二十人が限界ですな。そのあとの調査も考えると金が足らないでしょうから。私兵団の一部にはしばらく出稼ぎに出てもらう必要があるかと。それで減った分も合わせて雇った方がいいですな。いっそのこと高額でもプロを借りてきて道筋をつけた方がいいでしょう。」


「わかった。とにかくこれは早い方がいい。準備ができ次第、遠征と木こりの採用を始めよう。セバスチャン、あとは頼んだぞ。」


「承知いたしました。」


セバスチャンが恭しくお辞儀をしてこの話は終わった。






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