第11話 深い森を切り開く

ルールーと駄弁っていると兵たちが集まってきた。ルールーも賄いを食べ終えたので席を去る。それと同じタイミングでクルーゼとアシュリーがやってくる。アシュリーはメイドだが、俺の世話をする関係で昼食の時間はきっちりしている。鎧を脱いだクルーゼは服の上からわかるような筋骨隆々なBODYだ。半袖から出ている腕は足と間違えるほどの太さをしている。クルーゼはは自ら食事をもらいに行き、俺は配膳を待っている。俺の昼食は軽くパンと具沢山のスープ、クルーゼや兵たちはそれにステーキを合わせている。パンやスープの量もかなり多い。


「ベイブ様、午後からは森の木々を伐採します。今日は入り口付近の木を切るので、獣たちに襲われる心配はありません。」


安全だと言ことは俺だけでなくアシュリーにも言い聞かせているのだろう。一応世話を焼いているので心配すると思っている。そういう目配せをクルーゼはした。


「森を切り開くのは大事な我々の仕事です。切った木は乾かして薪や家を建てるために使ったりと用途は多いです。アーサー様の名声が高まれば移住してくるものもいますし、重要な資材ですのでいつでも足らんのですよ。」


うちは人が多いので飯炊きにも風呂の薪も馬鹿にならない。こうファンタジー的な魔法の道具を期待したが、我が家には内容なので燃料として木は重要な資源だ。


「それに森を切り開くのはドラゴンを狩るためです。ドラゴンのいる森奥まで続く道を作れれば大軍を向かわせることができます。ドラゴンがいなくなってもその道があれば調査や交易に役立ちます。」


「すごーい。」


よくこんな話を子ともにしてくるな。俺ならわかると思っているのか。

まあ、わかるが。うなづいておかないと貴重な情報が流れてこなくなるので、子供ながらにすごさが分かっているアピールはしっかりしなければならない。


「それに我々が成果を上げないと国から許可と補助金が出ないのです。今はまだ、森が広すぎるので、領地に面している部分を押し上げている段階です。なのでまだ入り口付近で止まっているのです。」


なんとも世知辛い事情だろうか。アーサーが忙しい一端にこの辺は影響しているだろう。大人の社会は調整の連続だ。貴族に転生したということは前世でも苦しめられたこの辺をまたやらなければならないということだ。勝手が違うところはあるにせよ経験があるだけましというのが救いか。



◆◆◆


昼食を終え一休みしたところで、クルーゼに連れられて森の奥に行く。

そこには小さな小屋があり、兵たちはそこから斧や鋸、鉈などを持ってくる。中には鍬を担いでいるものもいた。


「作業に取り掛かる。慣れていても気を抜くな。ここの木は多きものばかりだ下敷きになったら取り返しがつかん。声をかけて周りに人がいないようにしろ。必ず森の外側へ木を倒すように。作業はじめ。」


「「「了解」」」


クルーゼの掛け声に合わせて兵は少人数のグループに分かれていく。それそれ手にした道具によって同じ班分けがされているようだ。


「普段なら私も作業に加わるのですが、今日は説明役に徹しましょう。まず、大きな鎌を持った班ですが、彼らはには下草を刈ってもらっています。作業する際に邪魔になるので刈ってもらっています。ああいった下草も肥料になるので細かく砕いて堆肥に混ぜるのです。」


鎌を持った班は麻袋と台車も合わせて持ってきており、草を運ぶために使用するのだろう。一人一つ麻袋をもって森に入りながら、外で待機させている台車の脇にも麻袋がいくつか積まれている。手持ちの麻袋が満タンになってもすぐ次の袋が待っているのだ。


「次は斧を持った班です。彼らが伐採の主要部隊です。木を伐り森を減らすためにはどんどん木を切り倒していかなければなりません。それからあそこにいる鋸を持った班、あれも主要部隊です。切り倒した木を運びやすいサイズするために切っていきます。要望があれば大きいままにしますが、大抵は私の背丈の高さほどに切ってしまいます。」


鋸の班の中には鉈を持っているものもいて枝打ちも彼らがやっているようだ。

ほとんどが薪になるのだろうが、初めから小さく切ると運ぶ回数が増えて面倒なのだろう。それに2メートル弱なら継ぎ合わせて家具にもなるからちょうどいい使い勝手なのかもしれない。


「最後に鍬やスコップを持っている班ですが、彼らは切り株を撤去する作業をしています。最後の仕上げとして整地の邪魔になる切り株の根を切り、土を掘り起こして取り除きます。木が生えないようにするためにも彼らの仕上げが重要なのです。」


この中では頭抜けて土まみれになって作業している。中腰の姿勢も相まってこの中では一番きついだろう。堀返した土の中から虫も出てくるので俺は一番やりたくない。

クルーゼが草刈りをしているところに俺を連れていく。


「我々は森をつぶしてはいますが、すべての木を切り倒しているわけではないのです。小さい木や木の実などのとれるものはそのままにしています。この辺はジョニーや狩りに行く兵たちがやってくれるのです。区画整備や植え替えで木の実のとれる木は残す予定です。」


「ちいさい木はどうするの?」


「小さい木は基本的に植え替えて森にならないように管理していきます。将来的には木材にする予定です。植替えの難しいものは若い木も仕方なく伐採しています。」


なんというかちゃんとしてんな。これがシナリオ通りなのか転生者の入れ知恵なのかわからないが、むやみに伐採しないところが進んでる気がする。単に食糧事情をを鑑みて木の実は残しているのかもしれないが、木の植替えを意識するなんてのはこういう世界の価値観なのか?


「こういうのはセバスチャンが考えて方針を決めるのですよ。アーサー様は戦いやそれに関することは知識があるのですが、こういったことについてはまだまだでセバスチャンが方針を打ち出して、彼の弟子であるジャックスが実務の調整をしているのです。」


「ふーん」


追加の転生者についてはセバスチャンが濃厚になったな。新しく名前の出てきたジャックスも怪しい。セバスチャンが転生者の場合、この世界は意外と前からちゃんと歴史があるのかもしれない。セバスチャンは明らかに初老だから俺が生まれる四十年以上も前の歴史が存在する。ぽっとできた世界かと思っていたが、もしかしたら百年や二百年の歴史はちゃんとあるのかもしれない。設定上出てくる人物には転生者の可能性があって、この国の歴史をさかのぼるシナリオがあれば十分にあり得る。


ベイブがクルーゼから作業の説明を受けている間も伐採が進み、何本も木が倒される音がする。枝が折れる連続音、木の倒れる重い音が響く。

鋸班の手が足りてないので倒木はそのままだが、皮を剥ぎ、端を少し切り落とせば使えるので、放置で問題ない。さすがに伐採のペースが速すぎるときはクルーゼが止めに入り、刈った雑草の運び出しや枝打ちなどをやらせる。












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