第10話 ドラゴネアス家の私兵団
狩りに行くと言ったジョニーだが、俺を連れて我が家の訓練所へと向かう。ドラゴネアス家は小さいとはいえ領地持ちの貴族なので、私兵を持っている。私兵の中にはアーサーがドラゴンを狩ったときのパーティーメンバーもいる。見廻りや訓練が忙しく、一緒に食事をする機会が少ないので、あったことがない人もいる。
「クルーゼ閣下、兵をお貸しいただけないでしょうか?」
見事な銀の甲冑を着た金髪の大男にジョニーは話しかける。笑いをこらえていて、茶化してやろうと言うのが明らかだ。
「ジョニー、またそれか。いつもの面子でいいか?」
クルーゼと呼ばれた大男は訓練する兵達を仁王立ちで眺めたまま振り返らず答える。
「それで問題ない。もう一個頼みがあるんだがいいか?」
「なんだ。もしかしてベイブ様の子守の件か?一緒に来たと思ったらそういうことか。」
クルーゼはまだ兵達を見ていて、ジョニーとベイブが視界に入っていないにも関わらず、状況をあてた。
「流石!お見通しで。」
「狩りに行くんだろ。ベイブ様を連れては行けんからな。セバスチャンからも話は聞いてる。」
「ベイブそういう訳だ、この後はクルーゼに見てもらうんだ。」
「うん。わかった。」
俺がいることを察知したのを特に触れてないあたり、この二人の中では当たり前のことなのだろう。むしろその先まで想定通りといった感じだ。
「ではベイブ様、後は私にお任せを。」
ベイブ達の方に体ごと振り向き、マッチョな笑顔で応える。
◆◆◆
数名の兵士を連れベイブは狩りに行った。昼飯は食堂で軽食を貰って狩りの合間に食べるらしい。訓練がキツイのか狩りに行きたがる兵士もいたが、「お前にはまだ早い。」とクルーゼが一蹴した。
「ベイブ様、ジョニーは二日に一度狩りに行きます。長い時は数日かける事も有るので、意外とジョニー忙しかったりするのです。」
「ジョニーいないとき、ニワトリのせわどうすの?」
「ここに居る者が交代で対応します。ベイブ様も会ったと思いますが、イノセンスが指示を出してくれるのです。カラス達はは狩りに行かないので残って鶏の見張りをするのですよ。」
「へー、へんなのー。」
「確かに鳥が鳥の世話を焼くというのおかしな話ですが慣れてしまうと意外と普通ですよ。」
言われてみればカラスが狩りをしているイメージがない。狩りに行かず餌にありついている感じは前世もここも同じだ。ただ、やってる事が違いすぎて天と地ほどの差がある。
「ベイブ様、ジョニーが頻繁に狩りに行く理由知ってますか?」
「しんせんなお肉のほうがいいから?」
「それもありますが、それであれば彼のタカとフクロウたちが野兎や野鳥を捕まえてくれます。最大の目的は竜の痕跡を探すことで、我々は常に新しい竜を探しています。」
「ドラゴンをさがしてるの?」
「ドラゴンだけでなく、偽竜のダイナとワイバーンも探しています。ダイナは翼のなく、ワイバーンは腕のない竜といえばわか狩がいいでしょうか。どちらも強いですがドラゴンに比べれば見劣りします。」
ダイナは恐竜のことだろう。亜竜ではなく偽竜ということは劣化版のドラゴンというよりはもう系統が違う扱いだな。それにしてもまだドラゴンを狩る必要があるのか。
「なんでさがしてるの。もうドラゴンたおしたじゃん。」
「残念ですが、一匹のドラゴンを倒しただけでは爵位は一代限り。そうでね、ベイブ様がこの暮らしをできなくなるといった方が分かりがいいですかな。今は戦争がないので力で成り上がった当家には手柄を立てる手段がないのです。アーサー様が強く、貴族として立派であることを証明するためには竜を狩って証明する必要があるのです。」
「それってほんとにいるの?ちかくの森に。」
「はい。目撃例はあります。ドラゴンがいることで王国は目と鼻の先にあるこの広大な森を十分に調査できていません。それにドラゴンの住んでいると周りにダイナやワイバーンが集まってくるのです。だから偽竜の痕跡だとしても探して奥にいるドラゴンを見つけるのです。そのためにジョニーは頻繁に森に狩りに行くのですよ。」
「ジョニーはたいへんだなー。」
「ですが、運よく偽竜が見つかれば食料にもなるので、一石二鳥です。それに偽竜はドラゴンと違ってすぐ増えるのです。定期的に間引かないと森から出てきてしまいます。そうならないために我々は竜を狩る訓練を日夜しているのです。」
そう言って目の前の兵士たちを指さす。
クルーゼの説明は普通の子供には雰囲気だけは伝わりそうだが、俺には一応全部理解できた。つまりドラゴンは森の主なのだ。それがいることで森の資源を獲得するどころか調査もままならない。理外の強さの主の周りには熊みたいに強い奴らが集まってきて、そいつらを狩らないと人里に被害が出る。ドラゴンを狩って名声と爵位を得ても厄介ごとを押し付けられた上に、狩り続けないと爵位のはく奪もあり得るなどふざけてる。だが、やる気がないものに爵位を与えると偽竜の被害が出るので仕方ないのかもしれない。
「午前の訓練は終了!午後は伐採作業だ。昼飯をしっかり食っておけ。」
クルーゼが大きな声で訓練終了を告げるとたちは兜を脱ぐ。頭から蒸気が立ち込め汗が滝のように垂れる。
「臭くなるからしっかりと洗って乾かしておけよ。」
兵たちは耳にタコができているような顔で聞き「了解しました」と告げて訓練所を後にしていく。
「私も着替えますので、一度食堂までお送りします。」
◆◆◆
クルーゼに食堂まで送ってもらうとしばらく待つこととなった。
昼は朝晩の食事と違い人によってとる時間がまちまちだ。文官連中は軽食を作業部屋に運んでもらい取っている。メイドたちも作業の区切りがついてからなので、必ず同じ時間に食事をとれない。中には料理長が試作しているおやつを目当てに昼をずらしているものもいるらしい。そのため、昼時に食堂を利用するのは兵たちが中心で、あとは畑などの世話をしている力仕事の関係者だけくらいだ。
朝の食事も遅いものもいるし、ジョニーのように弁当をねだるものもいるので、人が起きている間キッチンはずっと稼働している。さすがに交代で休憩はしているものの、ドラゴネアス家で一番忙しい場所といってもいいくらいなので、誰もいないことはない。
「あら、ベイブ様。今日はクルーゼ様に送ってもらったみたいね。」
賄いをもって出てきたルールーが話しかけてくる。
「まあね。あさはジョニーといっしょだったよ。」
「ええ、今日は狩の日だからどうするかと思っていましたが。なるほど、クルーゼ様が付いておられるのですね。」
「あんまりよくわからなかったけど、たのしかった。」
「そうですか。まだ見学だけでしょうから、見てるだけでは面白くないでしょうね。」
「うん。もうすこし大きくなったら、やれるかも。」
その時は何の武器を使うべきだろうか。訓練していた兵士たちは槍と弓が多く、剣は見当たらなかった。まるで石器時代のようなラインナップだが、うちの私兵は相手にするのが人よりも獣や竜になるので理解は出来なくもない。大きな盾とメイスを持って訓練をしているようなものそれなりに人数がおり、その辺は面白かった。
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