第9話 第二の転生者

アシュリーは朝だけ俺の部屋に入って起こしてくる。

ただ、普通に起こさないときもある。週一は必ずいたずらを仕掛けてくる。

今日も鼻をつままれて苦しくなったところで起きた。


「おはようございます。ベイブ様、朝です。」


「おはよう。」


もう慣れたもんだ。最初こそ添い寝程度のいたずらだったが、いつからか耳に息を吹きかけたり、指を咥えさせられてたりとよくわかんない方向にエスカレートし始めた。前世も今も朝には弱いのでこれについては一生仕返しできないだろう。



◆◆◆


いつも通りの朝食を終えると今日もジョニーのところに向かう。昨日と違い早い時間に行くのでまだジョニーも仕事中である。鳥小屋を訪ねるとジョニーは一階の清掃中だった。


「ヘイ、ジョニー。」


「なんだ、今日はもう来たのか。セバスはどうした。」


「ひとりできた。」


「わかった。手伝わなくていいから見てろよ。」


藁なので四歳児にの俺にも運べないことはないが、子供用の道具などないのでやりようがない。軍手すら子供用がないので藁をつかんで片付けることすらできない。


「最初は卵を拾うんだ。もう終わっているが、鶏を外に出したらまずはこれだ。踏みつけないようにしっかり拾っておくんだ。」


ジョニーは手に持ったかごの中から卵を取り出して説明する。


「そのあと、卵はきれい洗うんだ。普通は水とかで洗うんだが、俺は【洗浄】のスキルがあるからそれで一発だ。よく見てろよ。」


数秒程度だが卵が光中が見えなくなる。光が収まると卵についていたわずかな糞なども見えなくなりきれいな白い卵になった。


「つるつるー。」


「あとは日陰において腐らないようにしておく。夏なら水につけておくんだ。これから掃除するから一旦は小屋の外に置いておく。」


ジョニーは昨日と同じく小屋の外の日陰に卵置き、藁をかぶせておく。


「卵を取ったら、汚れている藁を取っていくんだ。そのままにしておくと鶏が病気になるからきれいにしておく。そうするとあいつらもいっぱい卵を産むんだ。」


それからジョニーは黙々と藁を片付けていく。一束程度から島ごとの藁まで汚れを見極めて持っていく。取り除いた藁は鳥小屋の外にある手押し車に乗せていく。あっという間に手押し車に藁が山積みになる。


「大体半分くらい終わったが、藁がいっぱいになったから捨てに行くぞ。ベイブ、ついてこい。」


「うん。」


ジョニーは手押し車を押しながら、俺の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。もう少し早くてもいい気はするが、走って俺がこけてももっと迷惑をかけるだけなのでこれでいい。四十のオッサンなんだから、しょうもないことで若者の手を煩わせるべきではない。


「くさい。」


思わず声に出してしまったが、ひどい悪臭がしてきた。

目の前にいくつかの木枠が並んでいた。横幅は1メートル、奥行きも同じ程度。高さが1.5メートの木箱の中には茶色く土のようなものがたまり、悪臭を放っている。


「目的地の堆肥所だ。ここに藁を捨てて肥料を作っていくんだ。野菜くずとか腐った野菜もここに捨ててるんだ。」


それだけじゃないだろ。明らかにこの匂いは人糞のにおいが混ざってる。トイレが水洗でない時点でわかっていたがここに置かれていたのか。ただ、ご都合設定の中世のためなぜか柔らかいトイレットペーパーが存在し、そいつらもここで分解されている。

ジョニーは藁を堆肥の上に藁を置いていく。特にかき混ぜたりはしない。堆肥を入れている木箱が複数あるので、ローテーションさせてフェーズごとに使い分けているので、溜める途中のものについては特に何もしない。それとできた堆肥は下から使うようにしているので、そういう意味でも特に堆肥を混ぜてるかうことはしていない。


「たまに灰が足りないいときは藁を焼きに場に持っていくんだ。もう、そろそろその時期だ。」


意外としっかりした農業やってんなこの家は。領地全体でやってるであればアーサーの領主としての腕はかなりのものだ。

こう考えるとドラゴネアス家は主人公サイドの家っぽい気がしてならんな。

いや待て、おかしくないか俺が悪役確定なのに、家族は使用に含めて平和そのもの。理不尽な上司の感じなどアーサーからは全くしない。それで俺だけがひねくれるパターンがあるのか。俺のRPG経験が違和感を告げてくる。

となれば考えられる可能性は大きく四つだ。

もっともあり得るのは主人公が弟のパターン。優秀な弟については昨日初めて懸念したが、そもそも主人公であればより可能性が高い。しかも兄弟で女の取り合いなどまさにラブコメ的展開。かなりあり得る。

二つ目は主人公がゲームの世界観としては悪役サイドのパターンだ。ゲーム上、主人公が正義であるという固定概念を利用する手法だ。どの段階でそれが分かるかはゲームによるがそれが分かるまでは”敵=悪”なので、ドラゴネアス家がいい貴族でも問題ないのだ。少なくともこの世界としては正しいことをしているということだ。

三つ目はあり得てほしくはないが、大きな不幸が襲ってくるパターンだ。純粋な人間が過去凄惨な目に会い、歪んでしまって復讐の鬼となってしまう。俺が悪役になるきっかけとして竜にこの屋敷を襲われて家族を失う羽目になるというシナリオだろうが、さすがに阻止したい。悪役を演じきってでもこのパターンは避けたい。

最後に四つ目の可能性としてはアーサーかそのブレインが転生者であるという可能性だ。この可能性は最も可能性として無理がない。忘れていたが俺は複数の選択肢からダーツで決まった悪役に転生している。主人公についても同様に転生する可能性を考えていたが、当然ほかの役も転生者がいてもおかしくないのだ。悪役が生まれる家なのだから、家ごと悪役側の可能性もある。そうなるとその家の人間に転生してしまった人からすれば、悪役サイドから抜け出したいと思っても仕方がない。俺はさすがにそれはポリシーに反するのでやる気はないが、家ごと処刑されるパターンを避けるためにそういう行動をしている可能性もある。容疑者はドラゴネアス家の主人アーサー、その右腕のセバスチャン、その妻マリー。家の方向性に口が出せるほどのメンツは今のところこの三人しか知らない。


「どうした、そんなに臭いか?」


「だいじょうぶ。」


難しい顔をしていた俺を見ての心配だろうが、問題はそこではない。ほかの家を知らないから正確な比較はできないがご都合主義のゲーム設定を無視しても我が家は豊かな生活をしている。この事実を確認するにもゲームとしてのこの世界の知識も現実としてのこの世界の知識も足りなさ過ぎて判断ができない。

下手に疑うことは出来ないが、今後の展開と両親たちが転生者である可能性を考えておかないといけないのは意外と厄介だ。特に後者はお互いの意見が合わないパターンもあり得る。最悪の展開も想定すると頭が痛い。


「そうか、これもう一回やるぞ。」



◆◆◆


鳥小屋の一階の清掃を終えた後は二階に向かう。昨日はイレギュラーだったようで、すでに鳥たちは残っていなかった。かなり賢いのか俺たちの会話を聞いてわざわざ外から戻ってきてかっこつけた陣形で待っていたのだ。


「みんなは?」


「ああ、あいつらは今パトロール中だ。鶏を放し飼いにしてるから出ていかないように見張ってるんだ。それから狐や狼たちから鶏を守ってる。」


「すごいね。」


ここでも俺は見ていることしかできないが、ジョニーが床を掃き、止まり木を雑巾で拭いてきれいにしていく。


「エサはどうしてるの?」


「それは勝手にとってきてるぞ。ブレイブたちがよく捕まえてくるのを分けているんだ。イノセンスたちが野菜が好きでそれは分けてもらってるんだ。そうだ、午後からは狩に行くから、今日はここまでだな。ベイブはまだ狩についてこれないから別の人に頼む。」


「きょうはグミやらないの?」


「昨日はかなり食べたし、二ヶ月くらいないかな。」


そんな、それじゃレベル10になるのはお預けかぁ。









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