第8話 家族の食卓

◆◆◆


ジョニーに送ってもらった後、夕食までは時間がったので自室に戻った。スキルのレベルアップとかもしたかったが、睡魔に襲われてメイドが呼びに来るまで熟睡していた。前世では縁のなかったメイドのいる生活。子供の特権を生かし甘えまくっているが、さすがに年の差がありすぎるのでそういう気持ちにはならない。魂に従えばそれほどでもないが、肉体が若すぎて反応しない。しかも向こう側はアーサーとのワンチャンを狙っている子もいらしい。

ただ、新興貴族というのはやることが多すぎて暇がない。妻との時間を作るので精一杯のアーサーには浮気する余裕など欠片もない。しかも第二子を身ごもった妻のためさらに仕事に身が入りベイブもかまってやれていないのだ。


「ベイブ様、夕食の時間です。モタモタしてると食いっぱぐれますよ。」


田舎育ちで口が絶妙に悪いメイドのアシュリー。唯一ベイブの身の回りの世話を担当している。といっても四六時中ついて回るわけではなく、必要な時にそばに来るくらいで、それ以外の時間はほかのメイドと同様に働いている。


「いくー。」


俺はベッドから降りアシュリーの待つ部屋の入口まで行く。ノックもせずドア開ける割には部屋には入らない。妙な一線を引かれている。なんかむかつくので毎回抱きついておく。


「アシュリー!」


「抱っこはしませんよ。自分で歩いて下さい。」


「うん。」


アシュリーとは長い付き合いになりそうなので今は甘えといて、大人になったら返せばいい。多分、今日ちゃんと話したのは初めてだがジョニーも同じだろう。そう感じる相手は積極的にコミュニケーションをとっていってる。ちゃんと仕事はしていたのでその時の勘に従ってる。


◆◆◆


食堂に着くと既に各々食べ始めていた。使用人たちも交代で主人と同じタイミングで食事をするのは他の貴族ではありえない光景だ。この状況だけ見ればドラゴネアス家が主人公サイドだと勘違いしてしまう。

両親のいる席に座るとすでに配膳は済んでおり、そこにはジョニーも座っており食事がはじまっていた。当然のようにアシュリーは俺の横に座り食べ始める。食事は特に質素ではなく、かといって豪華でもない。具だくさんのスープとパン、それから切り分けられたオムレツと鳥肉のソテー。鳥はおそらく森で狩ってきたものだが名前はよくわからない。オムレツにはひき肉が入っていて旨そうだ。スープはいつも通り野菜たっぷりで、我が家の食事は貴族らしくはないがいい食事だ。マリーも身ごもったとはいえ悪阻が軽いので、みなと同じ食卓についている。さすがに食事内容や調理法は配慮されているが、肉も野菜もちゃんとした量が用意されていた。

いつもに増しておなかが空いていて、早いペースでどんどんと食べ進めていく。気が付いた時にはスープしか残っておらず、それもあと何口分かの量だ。

ベイブの食事が落ち着いてきたところでアーサーが話しかける。


「ベイブ、初めてスキルを使ってみてどうだった。」


当然、先に食事をしていたジョニーから話は聞いているだろうが俺にも聞いてくる。


「たのしかった。なんかへんなのが、からだからでるんだよ。」


「ほう。スキルを使うときの感覚が分かるのか。その辺はセンスがいいな。その感覚を忘れないようにしておけよ。」


「うん。あとね、グミをきるのもおもしろかった。」


「そうか。だが、もうレベルが9なんだろう。あれは10くらいまでしかレベルが上がらないから、しばらくはレベルアップできないぞ。」


そんな!スライム倒して何年って言った感じではレベルが上がらないのか?スキルツリーの枝葉の数を考えるにレベルはまだまだいる。レベルアップのための必要経験値が多くなるのもそうだが、獲得できる経験値がゼロになる感じの仕様だ。


「えー、おんなじようなやつはいないの?」


「あとはこの辺ではみないがガムというのもいるらしいが、あれもレベルアップには使えん。10レベルを超えたらしばらくはあきらめるんだな。狩りはさすがに早い。早くてもあと三年はだめだ。」


「そんなー。」


「大丈夫、三年なんてあっという間よ。あと一年もすれば家庭教師が来るのだから暇なのは今くらいよ。」


マリーはやる気の出た我が子がうれしくてたまらないといった楽し気な表情でベイブを見ている。

正直、マリーとの距離感はつかめずにいる。転生して前世の記憶があるのでどうしても両親を完全に親とは思えない。アーサーはなんか父親というか先輩って感じがしてそれなりにかかわり方には苦労していない。前世の母親は早くに死んだし、子供のころの記憶もあまりないので、接し方がよくわからない。アシュリーもいる分、本能で甘えていた1歳くらいまでは何とかなったが、それなりに自我が出てくるころからよくわからなくなった。


「そうだな、ジョニーに見てもらいながらスキルを好きなだけ使ってみろ。スキルは使えば使うほど体になじんで使い勝手がよくなる。」


「わかった。」


熟練度システムかな。それともゲームでないからこそ感じる感覚なのかわからないがスキルは使った方がいいというならそうしよう。

そのあと一番乗りで食事を終えたので少し暇だった。


◆◆◆


「ベイブ様、お風呂ですよ。」


食器を片付けたアシュリーが声をかけてくる。


「いくー。」


アシュリーは出来るメイドなので、すでに風呂の着替えを用意して脱衣所に準備してある。風呂は使用人たちと共用のため毎日沸かしてあり、男女それぞれの大浴場と個室の三つがある。ベイブはまだ小さいので女性の大浴場に入り、アシュリーに頭を世話を焼いてもらっている。アシュリーからの世話がなくなれば男湯に行くのだが、それは家庭教師の来る頃合いになる。

個室の浴槽は特別な理由でしか使わない。貴族クラスの来客があるときやより清潔にしておかなければいけない妊婦などのために使っている。

風呂は毎日沸かすが、外仕事の面々が多いのでどうしても汚れてしまう。洗い場もあるが汗水たらして働いている人間が多い世界ではしょうがない。毎日風呂にはいれることが異常なくらいだ。



◆◆◆


風呂は早目だったので意外と入っている人が少なかった。時間帯によっては十代の子もいるので変にやきもきせずに済んだ。アシュリーに頭を乾かしてもらい、寝間着に着替え、部屋まで送ってもらった。


「おやすみなさい、ベイブ様。今日はいつもより疲れているようだからさっさと寝なさい。」


「はーい。」


アシュリーはベイブがベットに向かうのを確かめてから扉を閉めた。

まだまだ、眠る気はないし眠れない。昼寝をしっかりしてしまったので目がさえている。ポイントを使いそびれていたので、サクッとそれをしておきたい。起き上がり、枕を背もたれにしてスキルツリーを開く。

スキルツリーとして伸ばすと決めたのは【衝撃魔法】と【回復魔法】、【回復魔法】の初期スキルである【癒しの手】は絆創膏がっておけば済む程度の傷であれば修復ができる。それより強力な回復魔法を獲得するとなれば、RPGの常識に照らし合わせて20レベルくらいだとして、スキルツリー換算だと5レベル程度の上昇が必要だろう。

そう考えると【回復魔法】のスキルツリーを上げきるのにはポイントが足らないのは明らかだ。今2ポイント持っているが、次のレベルアップ含めても確実なのは3ポイントしかない。

ここは【衝撃魔法】を伸ばして、威力の上昇に期待するしかない。うまくいって鶏程度を狩れるようになれば、狩猟に使える威力になる。そうすれば普通の生き物を相手に経験値を獲得できる。早速だが枝分かれする手前のスキルを二つまとめて解放してみる。


【◎筋力ステータス+10%】【◎射程延長(15)】


どちらもパッシブスキルでだ。【◎筋力ステータス+10%】は残念ながら今は有効でないスキルだ。ステータスでは筋力が5なので追加の補正はかからない。少なくとも二桁にならなければ価値がないので、レベルアップするしかない。ただあくまでステータスは加護による補正値といった感じなので、鍛えればどうにでもなる。

【◎射程延長(15)】は最大射程が15メートルになるようだ。昼間にスキルを使ったときは特に射程は意識していなかったが、確か3メートルくらいだったはずだ。表記がメートルになっているがこの辺はガバガバ設定のなせる技だろう。

残念なことに今回は意図したようなスキルは得られなかった。

次は二股にスキルツリーが分かれているのでレベル10になっても解放しきれない。

これ以上はどうしようもならないのでモヤモヤしつつも寝るしかない。その辺は前世での経験が生きてくる。嫌なことがあっても明日も仕事なら寝なければならない。

なんて日だ!



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