第7話 撃つべし、撃つべし、撃つべし

◆◆◆


何分待ったかわからないが、ようやくジョニーが帰ってきた。

ゲームでありがちな先の尖った一本足の看板を持って走ってくる。円などの柄は書いていないがあれが的なのだろう。そこそこ大きく四歳児の背丈は超えている。


「いや、手ごろな木材がなくてな。この時期は使わないから雨戸を借りてきた。」


借りてきたとは言っているがスキルで的に作り替えられている以上、そのまま返せはしない。的のサイズ感的にナイフでやったように何分割かされているだろうから、そこから元の雨戸に融合できるとは考えられない。手ごろな木材が手に入ったらジョニーがスキルで雨戸でも作って返すのだろう。それは借りてきたとは言わない。


ジョニーは看板の両端をもってぐりぐりと地面に押し当て、あたりをつける。少し沈んだところで上から思いっきり押して看板を地面に突き刺す。地面に刺さったところで看板がちょうどベイブの目線に会う高さになった。


『よし、スキルを使ってみろ。』


「うん。【打撃】」


ブレイブの合図に合わせて的にこぶしを突き出し、スキルを発動する。

発動して一、二秒で看板から大人がかるく小突いたような音がする。コツンという乾いた音は弱弱しいがグミ程度なら倒せそうな音がした。

ただ、このスキルはかなり異常だ。


『これは恐ろしい。威力は何のステータスに依存しているかわからんが弱い。しかし軌道が全く見えんし、的に当たるまで音がしない。』


その通り、全く見えないのだ。風圧や風切り音なく、ただ打撃の結果のみが反映されているかのような感じだ。威力さえ確保できれば完全に暗殺用のスキルになる。射程が確保できればなおのこと危険だ。


「やっぱり見えなかったよな。ブレイブが見えないっていうなら本当に実体がないんだろうな。」


「【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】」


「どうした!」


ジョニーが慌てるのも無理はない。何も言わず急にスキルを連打したのだ。

でも仕方ないだろ、さっき打った時に体から何かが出ていく感覚があった。これが魔法の発動なのか、この【打撃】特有の間隔かわからないが、何度か打つべきだと直感が働く。体がもっとスキルを使えと言っている気がする。

威力は特に変化はない。だが、さっきよりぐっている感覚がする。板い触れている感覚ではなく振りかぶったという感じがする。もっと【打撃】を打って打って打ちまくればわかると思う。


「【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】、【打撃】」


今度は十回。さっきよりもわかる。薄らとはしているがわかる。

この魔法は俺の今の筋力を参照して威力を計算している。

俺の何倍かの力で殴りつける。その結果を対象物に届けている。

この魔法は魔法でありながら筋トレを推奨するというおかしな魔法だ。だがこれは明らかにこのキャラのための調整だ。高い回復力でトレーニングの成果が出やすい肉体と筋力を参照する魔法。転生先はブタ貴族といわれているが、かなりの筋肉ダルマなはずだ。力士と同じで脂肪の下にかっつり筋肉があるタイプ。スタミナと防御のための脂肪がブタ貴族といわれる原因だ。

であればブタ貴族になるのも悪くない。むしろスキルが完成形に伸びている証だ。


「ぼくはこのスキルをもっとつよくする。」


「そうか、そんなに良かったか。目立つようなスキルじゃないがいいのか?」


「うん。このスキルさいきょうだから。」


「そうか、ベイブの好きにしろ。そろそろいい時間だし帰るか。」


「うん。」


ジョニーは本当に心配していたが、ベイブのまっすぐな目を見て考えを変えた。

ベイブの目が余りも純粋すぎて完全に気圧されたのだ。


◆◆◆


ジョニーがベイブを屋敷に送り返している間、三羽の鳥の長たちが集まって、ベイブのスキルについて話し合う。


『【打撃】、かなり末恐ろしいスキルだな。この目で見えないのはかなりすごいぞ。竜とて当たるまで気づけんだろうな。』


赤いタカ、ブレイブの目は特殊だ。

ジョニーのスキルの影響でブレイブはモンスター化している。その際いくつかのスキルとレベルアップの概念を習得している。この時得たスキルの一つに【心眼】がある。このスキルは力の流れを読み取ることができる。それはたとえ【風魔法】であったとしても空気の移動に際して力が加わる以上をそれを見ることができる。その目で見えないということはスキルが発動してから攻撃が当たるまでの軌道がないということの証明である。


『このスキルは明らかに異常です。普通の目にも心眼に捉えられないとなれば、攻撃を見てよけるのはほぼ不可能でしょう。』


銀羽のフクロウ、ウィズダムはその高い知性で冷静にものを見えている。その発言はとても重い。よけられない攻撃などまさにチートだ。


『いや、避けられんこともない。ブレイブ貴様は目に頼りすぎている。ウィズダムも奴の発言につられすぎだ。あのスキルは真っすぐしか飛んでこない。腕の延長線上にしか現象は発生していない。動き回っていればそう容易くは当たらない。問題はあれが曲がるようになったり、追いかけてくるようになるかだ。』


朱鷺色のカラス、イノセンスはウィズダムの発言を即座に否定する。

彼はただのカラスであるころから賢く、観察眼に優れていた。ウィズダムがスキルの恩恵により知性がずば抜けているが、観察との合わせ技であればイノセンスの方がしっかりと対象を捉える。


『確かに魔法系スキルは修練によって軌道を変えたり、追尾スキルの獲得が考えられるますから、その可能性は十分に考えられるでしょう。』


ウィズダムはイノセンスの指摘にうなずく。


『それよりも問題は華がないことだ。ジョニーもその辺は心配しているだろう。』


『ブレイブ、あなたの言う通りです。目に見えないスキルはいかに強くなっても誰がやったかが分からない。』


『故にこれは暗殺者や狩人のスキルであって、戦で武功を上げる貴族の子が持つべきスキルではない。竜にとどめを刺せたとてその証拠が見えないのでは取り立てようがない。』


『そこです。アーサーの【竜断】は剣術スキルでしかも派手に光をまとってくれますから、その功績に疑いようがない。スキルとスキルツリーを見せる以外に方法はないですが、スキルツリーをあまり見せびらかすのも得策ではないですか困ったものです。』


『とにかく証人を増やすしかないだろう。竜を狩るときには大所帯で目撃者を増やしてやれば、何とかならんかな。』


ウィズダムの疑問にイノセンスが返すがやんわりと否定される。


『それではだめですね。今度は個人の評価が下がってしまう。できるだけ数合わせは入れるべきではないですね。一回の人数が限られる分回数をこなして証人を徐々に増やすべきでしょう。回復魔法があるので引く手数多なのは良いことです。』


『しかし、ほかの二つのスキルが厄介だな。あれでは伸ばしようがないだろう。さすがのお前たちもいい使い方を思いつかんだろう。』


『残念ながら。粘液は滑って転ぶ可能性はありますが、石の床出ないと効果が低いでしょうから野戦でつかうのは難しいですね。ビンタの方も大きい音が出るだけでは囮になるくらいしか出来ないですが、あれで注意をひけるような相手は特にいないと思うですよね。』


『同感だ。あのスキルたちは戦闘用ではない。俺が考えるにあいつの攻撃用スキルはたぶん【衝撃魔法】のみだ。【木魔法】も【風魔法】も一つ目のスキルが攻撃でない場合は補助系スキルが目立つのが通例だ。』


『そう考えますと、最善の選択どころか唯一の選択肢が【衝撃魔法】ですか。これは大変ですね。まあ、完全に決まったわけではないですから、ほかにも時々ポイント降って様子見をしてもらえればいいんですが。』


『いや、あの目では無理だな。』


ブレイブの戦士としての感がそう告げる。





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