第5話 はじめてのレベルアップ

◆◆◆


ジョニーと一緒に俺は卵を届けるため、台所に向かう。

小さな領地の領主とはいえ館はそれなりの大きさなので、準じてほかのものも大きくなる。家族だけでなく使用人たちの食事を作る台所は食堂含めてレストランののようである。来賓との会合に使う部屋とは分けているので、ベイブもそこで使用人たちと食事をしている。


「ルールー、今日の分の卵を持ってきたぞ。」 


ジョニーは台所の勝手口で芋の皮むきをしている若い女に声をかける。


「ありがとうございます。今日は何個とれましたか?」


「今日は二十個くらいかな。」


「人数分はなさそうだから、オムレツにするしかないか。」

ちょっと残念そうなルールー。


「せっかく肉が余ってるから卵を肉で包んでるやつ、あれを食えると思ったのに。」


「それはいいんだけど、今日はなんでベイブ様が一緒なんですか?」


「いやー、それが、ベイブの臨時教育係になったんだよね。なんかセバスから使用人の仕事をみせて教えるように言われたんだよね。」

頭をかきつつもさして困った様子もなくジョニーはいきさつを説明する。


「ふーん。そのうち台所も何やってるか見せるのか。」


「だろうな。俺はこれからアーサーのとこに行って、ベイブのレベルアップについて相談してくるんだ。」


「もう鳥小屋はいいの?」


「いやー、午前の仕事は終わって教えることもないし。それにベイブのスキルはちょっと特殊でレベルアップさせてみないといけないんだよ。やっぱ狩りのプロとしてはその辺はわかるんだよ。」


「へぇー。」


ルールーはまるで納得していない様子だったが、ジョニーは気にせずアーサーのもとに向かっていく。


◆◆◆


結局、アーサーの書斎に戻ってきてしまった。

ジョニーがドアをノックしてアーサーを訪ねる。


「ジョニーです。アーサーはいますか?」


「いるぞ、入ってこい。」


ドアの向こうからアーサーの声がする。

ドアを開けるとアーサーしかおらず、セバスチャンの姿が見えない。

アーサーはせわしなく書類整理をしておりこちらの方を見ていない。


「ジョニーどうした。ベイブの子守を任せたと思ったが。」


「その件で相談があります。ベイブのレベルをアップさせようと思って。さすがに無断でレベルアップさせるのは悪いかと思ったので。」


「なんだと。」


アーサーは書類とのにらめっこをやめ、こっちを向いた。そこで初めて俺がいることも気づいた。


「どういうことだ。ベイブのレベルアップだなんて。さすがに早すぎはしないか。」


アーサーが複雑な感情を押し殺しながらジョニーに問いただしているが、表情に困惑と我慢がにじみ出ている。


「ベイブのスキルがちょっと特殊でレベルを上げてみないとわからんのですよ。鳥小屋で色々教えようかと思っていたのですが、ウィズダムたちを紹介したときにスキルの話になったんですよ。その時にベイブのスキルも確認してみたんですが、ようわからんスキルばっかで満場一致でレベルアップさせてみようって話になったので、その許可を取りにきました。」


「なるほど、少なくともベイブはよくわかっていないだろうから満場一致ではないな。それより、ベイブのスキルは何なんだ。」


「それがなぁ、魔法基礎に粘液精製、よく音の出るビンタの三つだったんだよ。魔法基礎はまだしも残り二つが全然想像がつかないからレベルアップさせてスキルツリーを解放したほうがいいと思うんだ。」


「魔法基礎もそれだけでは魔法の系統が分からんな。俺の後を継ぐんだ、竜に通じるスキルがあるかは確認せねば。いいだろう、このままじゃ鍛えようがないスキルばかりだし任せた。」


「了解です。」


ジョニーに最後だけ敬礼をして返事をし、俺と一緒に部屋を後にした。


◆◆◆


洗濯小屋で大きなタライを拝借してから目的の場所へと向かう。

今度は鳥小屋ではなく、その奥の鶏たちが放し飼いにされている庭のさらに奥。森と屋敷の間にある、庭というには微妙なその場に来ていた。

ここに来るまでの間にスキルのレベルアップの方法はジョニーが教えてくれた。

まず、スキルのレベルアップにはポイントを消費する。ポイントを消費してスキルツリーを解放することでレベルがあるのだが、どのスキルツリーも1ポイントで解放できる親切設計である。肝心のポイントだが自身のレベルアップに獲得できる。この辺は一般的なRPGと同じでを倒して経験値を稼いでレベルアップという感じで、その際に各種ステータスも上昇する。実際には筋肉がつくわけではなく、加護による補正値が上昇するという形になるらしい。こんな複雑なことを四歳児に話しているが、俺はおっさんなので理解はできている。ジョニーは全部わからなくてもいいが聞いておけといったスタンスでこちらには話しているので、確実に信用できるいい大人だ。下手に子ども扱いはせず、必要なことは一応話しておいてくれる。子供にとってはわからなくても馬鹿にされている態度が透けて見える方が嫌だから。


「お前たち、さすがにこれは集めすぎじゃないか?」


山盛りのグミ。10~20センチ四方の立方体のグミがピラミッドのごとく山積みにされている。基本的に透き通った色でオレンジやピンク、水色などアソート感たっぷりの様々な色のグミがある。

そしてこの山はプルプルとわずかに震えているのだ。


『そんなことはない、こいつらは経験値が少ないからいっぱいいた方がいい。』


赤いタカのブレイブは間違いないといわんばかりに胸を張る。


これ、生きてるのか?

もっとわかりやすく目と口がついてる某スライム風の何かだと思ったが、こんなんただのでかいグミだ。


「じゃあやるぞー。」


借りてきた大きなタライを地面に置くと鳥たちに声をかける。

朱鷺色カラスであるイノセンスが木の枝を咥えてジョニーの元まで持ってくる。

そのままジョニーの肩に止まってから木の枝を渡す。

ブレイブが適当にグミを一つ咥え、ジョニー向かって投げる。当然のごとく軽々とキャッチする。


「【木工製作】、木のナイフ。」


ジョニーが持っていた形が光に包まれ、木のナイフに代わる。質量は無視してないのだが、明らかに太さを無視した出来のいい期のナイフが出来上がる。

しゃがんでからタライの上でグミのできたのナイフを突き刺すと、グミは弾力を失い形を崩す。ナイフを抜くとグミの中からどろりとした液体が流れ出て、タライの中に落ちていく。


「グミは簡単に死ぬ。中には甘い汁が入っていて、これを煮詰めて料理に使うんだ。だから殺すときはちゃんとこの汁を捨てないようにしろよ。」


十分に中の知るが出きったグミは数ミリほどの皮だけとなった。ジョニーはそれを肩に止まっていたイノセンスに与える。


『これだよこれ。』


そういうとイノセンスはグミの山の近くまで戻っていく。交代でグミ山からウィズダムがグミを咥えてやってくる。そして同じように方に止まり、グミをジョニーに渡す。


「よし、今度はベイブの番だ。グミは俺が持っててやるからお前がナイフを使うんだ。」


ジョニーは柄を俺に向けてナイフを渡してくる。

四歳児では大きいナイフなので両手で持っても見栄えが良くない。


「ちょっと待て、【木工制作】。」


木のナイフが光に包まれると、木のナイフは半分ほどのサイズになり二つになり、そのうち一本だけを渡してくる。俺がナイフを受け取ると余った方はタライの内側に立てかけた。


「いいぞ、こい。」


ジョニーが野球のキャッチャーのようにグミを構える。

両手で持ったナイフを「ふん」という掛け声に合わせてグミに突き刺す。

ナイフの間隔から力を少し加えすぎてのが分かった。


「もう少し力を抜いていいぞ。」


「うん」


「じゃあ、ナイフを抜くんだ。」


ナイフを抜いた裂け目からこぼれていく透明な液体を見ても生き物を殺したといいう感覚になれない。せいぜい野菜を切った程度だ。


「いい感じだ、もう何回かやるぞ。」


◆◆◆


十回ほど同じことを繰り返したところでジョニーがステータスを見るように言ってきた。先にジョニーがやって見せたのだが、スキルの確認と同じように今度は四角を宙に描きながら「ステータスチェック」というと今度は青白い長方形のウィンドウが現れる。


「レベルがちゃんと上がっているな。」


ジョニーが覗き込んでステータスを確かめる。

この世界の数字はかろうじてわかるが、ほかの文字が全く読めないにも関わらずステータスはすべてわかった。現在のレベルは2、蓄積された経験値量などは不明でステータスも軒並み低い。ほとんどが1か2で回復力だけが20になっている。


「面白いステータスしてんな。回復力が高いってことはケガしてもすぐ直るし、筋肉もすぐ付くぞ。それに魔力も回復しやすくなるから地力は上がるな。」

















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