第4話 悪役のスキルツリー

ジョニーは俺の子守を引き受けると早速家畜小屋を案内した。鳥しか居ないはずだが大きさは家二軒ほど、二階までの高さと窓がある。数十羽くらいは居そうなサイズ感だ。

扉を開けると一階はそこかしこに藁で島が作られていた。

「一階は鶏の小屋だ。奥の方に引戸があって、その先庭があるんだが、日中はそこで自由にさせてる。」


壁と一体化していてわかりづらいが確かに引戸があった。木の一枚板を両開きに備え付けている。


「一応掃除は終わってる。藁も敷き直してるからふかふかだぞ。」


確かに藁の島は形が整っていて、藁自体もきれだ。


「たまごは?」


「そいつは小屋の外においてある。洗ってからルールー、いつもご飯作ってくれるやつに持ってくつもりだ。」


「やったー。」


今夜はオムレツかな。卵料理はおっさんだろうが子供だろうがいつだって好きだ。唐揚げも好きだし、鶏飼ってるて最高だな。


「じゃあ鶏共に合うのは後にして、二階に行こうか。ほらよっ。」


ジョニーは俺を抱き上げ、小屋の二階へと続く階段を上がる。一階の天井が人間の家より高く、二階半といった感じだ。


二階は鳥たちが止まる為に突っ張り棒の様に部屋を横断する棒が何本かあった。人が移動できるように数が抑えられており、足りない分はスタンドタイプの餌皿付きの止まり木がいくつかおいてある。

二階にいる鳥たちは大きく三種類。カラス、タカ、フクロウ。そしてその各種に一羽ずつ異様なモノが紛れていた。

まずはカラス。九羽の群れの最奥に朱鷺の様な薄い桃色の個体が一羽いる。他のカラスと比較すると同じ形をしているので真逆のカラーリングでもカラスであることは間違いない。

次はタカ。三羽の群れの先頭が赤を中心にした暖色系のカラーリングだ。こちらは模様がはっきりしている分カラスと違いタカであることはわかりやすい。

最後はフクロウ。六羽の群れの中心に白銀の羽と翡翠の目を持つ個体がいる。光を反射しかねない様な眩しい姿は夜を捨てている。


『おい、そいつは誰だ。』


音としては猛禽類の鳴き声だが、確かに言葉として理解できた。赤い嘴が動いていたので、あのタカが話したのだと思う。


「アーサーの子供だ。いづれは一緒に狩りに行くんだ仲良くしてくれよ。」


ジョニーは気安く友人に話すように鳥たちと会話する。


『ほう、強くなりそうか?スキルは何を持ってる。』


「アーサーの子供だ、大丈夫。強くなるよ。でもスキルは僕もまだ知らないんだ。」


『なら今見てしまえ。剣か、槍か、それとも弓か?』


「確かに良い機会だし見ちゃうか。」


ジョニーは鳥たちから俺の方に向き、膝をつき話しかける。


「いきなり声がしてびっくりしただろう。他の鳥と違うやつがいるのはわかるよな。あいつ等の鳴き声は人の言葉に聞こえるんだ。まあ、俺のスキルが原因なんだがな。」


スキルか。この世界(ゲーム)のシステムとしてスキルが有るのか。スキル次第ではどういう悪役を求められてるかがわかるかもしれない。


「俺は鳥と話せるスキルを持ってるんだが、そのスキルがどんどん強くなって、鳥たちを仲間にしたり、進化させたりできるんだ。喋れる三羽は進化した特別なやつさ。」


「すごい!」


ワクワクしてくる。悪役とかは一旦どうでもいい。ジャンプ育ちとしては特殊能力はやっぱり憧れだ。


「どうやってスキルみるの?」


「簡単さ、こうやって。顕現せよスキルツリーってな。」


ジョニーは開いた手を正面で円を描く様に回しながらキーワードを言った。

ジョニーの前に三つの円が横並びで現れた。円は青白く光っており、ゲームのステータス画面を想起させる色合いだ。それぞれの円の中心には異なる数字が浮かび上がっている。


「ベイブもやってみろ。」


「わかった。けんげんせよスキルツリー。」


ジョニーのやったこと見様見真似で繰り返し、三つの円を出した。ジョニーと違うのは円の中心の数字が全て"1"であることだ。

おそらくスキルの成長度合いか真ん中の数字なんだろう。

だがこの状態では何のスキルを持っているか分からないが、三つ持っているというので間違いないと思う。


「スキルは皆三つ持ってて、最初はレベル1だ。真ん中の数字がスキルレベルるだ。それから数字を触ってみろ。どんなスキルを持ってるかわかるぞ。」


俺は言われるまま左の円をタップする。

円が一歩前に出て、それからスキルツリーとしての枝が四方に生える。

それ同時にスキルがわかった。


「一つ目は魔法基礎か。どうやらベイブは魔法使いの才能があるらしいな。」


『魔法で竜を狩るのは厳しいぞ。かなりレベルを上げないと通用しないぞ。』


どうやらスキルを理解したのは俺だけじゃなく、ジョニーや特別個体のタカもだ。スキルを開くと周りもバレるというのは気をつけないといけない。


「他だ、他も見てみよう。」


『一理あるな。』


「ベイブ、もう一回数字を触ると元に戻るから、そしたら他のスキルも同じ様にやってみるんだ。」


「うん。」


魔法スキルは俺的には当たりだが、ドラゴン相手には微妙らしい。この世界(ゲーム)はメインヒロインがドラゴンだろうから、もしヒロインと戦う状況になれば遅れをとってしまう。

二番目以降のスキルに期待するしかない。

俺は真ん中の円をタップして次のスキルを確認する。


『粘液精製?モンスター系のスキルか?』


「多分な。だがこれだけでは何のモチーフか分からないから判断ができないな。だが魔法系より目はあるだろ。」


『そうだな。モンスターの力は私自身恩恵を受けているからわかるが、かなり強い。』


そんなスキルがあるのか。でも、粘液を出すようなモンスターは明らかにカッコよくはないな。醜悪なモンスターとか触手系じゃないか。ウネウネして無いモンスターが粘液出すかよ。そうなるとこのスキルは魔法より期待出来ないな。

これはもう三つ目のスキルに期待するしかない。

さっさと二つ目のスキルをしまい。三つ目のスキルを確認する。


「よく音の出るビンタ?」


『まったく意味の分からないスキルだな。 これはどう役に立つんだ?人間のお前ならわかるか?』


「うーん。これは指揮官系のスキルかな?ビンタなんて手のはめったにやらないが、音が大きい方が痛い気がするからな。あとは周りにも強い罰を受けているように見せる効果を狙っているのかもしれんが、俺には理解できないな。」


つまりはパワハラスキルということだな。

意味もなく音を大きくし、威圧するために周りに聞こえるようにする。

俺はブタ貴族になるらしいから、豚面パワハラ指揮官とか終わってる。

悪役を演じなくてもスキルを伸ばすだけで勝手に悪役になるというお手軽さが、逆にもう楽になるくらいだ。


『ならばスキルをレベルアップさせてスキルツリーの正体を確認しよう。まずは一つでいいから開けてみれば今よりわかるはずだ。』


「さすがに早すぎるな。確かに魔法も何が使えるか今の時点ではわからないし、レベルアップさせるのは総合的にはいいのだが、なんせまだベイブは四歳の子供だ。」


『初物はグミ狩りと相場が決まってるだろう。あんな何もしてこない奴なら大丈夫だ。それに俺たちが集めてきてやるさ。』


『私もその案に賛成です。』

今までタカしか話していなかったが、銀羽のフクロウが割り込んできた。


『あのアーサーの子だというのであれば、我々が考えているより優れているスキルである可能性が高いです。粘液のスキルもレベルが上がれば竜を殺す毒を生み出すものになるかもしれない。我々の想像で間違った成長をしてもよくない。』


「わかったよ、ウィズダム。ブレイブの案でいこう。イノセンスはどうだ?」


ジョニーはフクロウ、タカ、カラスに順に話しかけていく。


『私もそれで問題ない。とりあえず三レベル分でいいな。それ以上はアーサーにばれるぞ。』


「安心しろ、そこは今からアーサーに話してくるから、たっぷり集めておいてくれ。それにグミは重要な食糧だから持ってきてくれ。」


ジョニーはサムズアップして見せるが、明らかにカラスは納得していないという声色で鳴いた。


「よーしベイブ、これから卵をルールーに届けに一緒にいこう。そしたらお父さんに会いにくぞ。」


「うん。パパのところにいく」







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