第4話

 私はメキメキと腕を上げ、俳句研究会の皆と距離を縮めていった。今やすっかり研究会の一員となり、漱石論を介して彼女ともお近づきになる事ができた。お近づきになれたのは良いが、彼女と話すのは漱石氏と俳句のことばかりで、実際のところ近づいたのか遠ざかったのか分からない。


 その後も彼女へと恋の句を読んだ。どうにも手応えがない。

今更ながらに告白という手段にして俳句はひどく間接的で回りくどい。

         ○

 ついに偽漱石氏を紹介する日が来た。


「道後の湯から離れられないと云う設定だから」と伸ばしに伸ばしていた日取りだったが、彼女の「足湯はどうでしょう?」の一声で、ここ「坊ちゃんからくり時計」前の足湯に皆集ることとなった。


「……信じられない」


 最初に気づいたのは彼女だった。

 振り返ると、偽漱石氏はいた。いや唐突に出現していた。無邪気に感動する彼女をよそに、他の部員はぽかんとしている。

「なんだよ」

「誰もいないじゃないか」

「やれやれ、いっぱい喰わされたな」

 と、皆は行ってしまった。戸惑う私達二人に偽漱石氏は言う。


「我々が見えるのは、男女の付き合いを経験せざるものだけ、片恋の者なのだよ」


「え?」

「全く、野暮な事を言うね、君は」偽子規氏もまた唐突に出現した。  


「正岡子規先生!?」


 頓狂な声を上げた彼女に、  

「忍ぶれど夏痩せにけり我恋は」と偽子規氏は詠み微笑んだ。


 【つづく】

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