僕たちの冬の謎解き大作戦

現場検証

　僕と東雲さんは、雪だるま破壊事件の現場に向かって歩いていた。少し寒い風が吹いて、僕たちは肩を寄せ合うように歩いた。

「真くん、さっきのカフェ、すごく楽しかったね」と東雲さんが言った。

「ああ、あそこは僕のお気に入りの場所なんだ。もう少しゆっくりしていたかったけど、仕方ないよね」

　内心、もう少し遊んでから現場に行きたかった僕は、少し残念だった。東雲さんとの特別な時間が終わってしまった感じがして、寂しい気持ちがあった。

「でも、事件の解決も大事だから様々なね」と僕は自分に言い聞かせるように言った。

　現場に着くと、雪だるまの残骸が広がっていた。頭だけが壊されていて、周りには何も手がかりがないように見えた。

「ここが事件現場か」と東雲さんが言いながら、周囲を見回した。「犯人はどこから来て、どこへ逃げたのか……」

　僕も一緒に周囲を見渡したが、何も怪しいものは見当たらなかった。

「どうして頭だけを壊すんだろう？」と僕はつぶやいた。「普通なら全体を壊すんじゃないかな」

「そうね、それが一番の謎だわ」と東雲さんが同意した。「でも、必ず何か理由があるはずよ」

　僕は少し不満を感じながらも、事件解決に向けて気持ちを切り替えることにした。

「よし、もっと詳しく現場を調べてみよう」と僕は言った。

「その意気だよ、真くん」と東雲さんが微笑んでくれた。その笑顔を見て、僕はもう少し頑張ろうという気持ちになった。

「ねえ、この足跡なんだけど」僕は雪だるま周辺のものを指しながら言う。「これの特徴から犯人像を絞り込めないかな」

「そうね、これから分かるのは……男子のものってことかしら」

「ちょっと待ってよ。どうしてそう言い切れるのさ」

「これを見て」と東雲さんが足跡の形状を指差した。

「この足跡の大きさと形状、そして靴底のパターンが男子用のものと一致するの。女子の靴はもう少し小さくて、形も違うし、靴底のデザインも違うのよ」

　僕は改めて足跡を見た。

「本当だ……この靴底のデザイン、見たことあるかも」

「それに、この足跡の深さから、犯人はある程度の体重があることが分かるわ。男子の方が可能性が高いと思うの」

　僕は感心しながら頷いた。

「なるほど、そんなところまで考えるなんて、さすが東雲さんだね」

　東雲さんは微笑んで、「真くんもよく気づいたわ。さあ、これで犯人の絞り込みが少し進んだわね」と言った。

「あと犯人の特徴は左利きなことかしら。ほら、壊された雪だるまの頭を見て。左上からヒビが入ってるわ。左上から壊すには、犯人が左利きと考える方が自然ね」

　なるほど、そういう切り口もあるのか。靴底の件では調べる提案をしたのは僕だけど、そこから犯人像を割り出したのは東雲さんだった。そして、今回も。さすが、僕のクラスのシャーロック・ホームズだ。

「これで、犯人の特徴が絞れたわね。同級生で、男の子。そして、左利き。こんなところかしら」

「うーん、ここまで分かっていても、男子全員に『左利きですか？』なんて聞いて回れないし……」

「まあ、左利きの確率は1割というから、普段から観察していれば見つかりそうな気がするわ。もうこんな時間。もうそろそろ今日の調査は終わりね」

　腕時計を見ると夕方の5時だった。冬だから陽が落ちるのも早い。辺りは暗くなり始めていた。事件の調査に夢中で気づかなかった。

「そうだね。暗い中に一人で帰らすのは不安だから、僕が送って行くよ」

「本当？　最近、この街も物騒だから助かるな」

　僕たちは事件のことは忘れていろんな話をした。流行のアニメとかおすすめの本など。そうこうしてきるうちに東雲さんの家に着くと彼女はこう言った。

「ありがとう、私のナイトさん」

　東雲さんのナイトか。悪い気はしない。僕は微笑んで手を振り、家に戻る途中で考えた。明日はさらに事件の調査を進めよう。事件の調査を通じて、東雲さんと一緒にいられる時間が増えることが楽しみだから。