何気ない日常
事件の調査を通じて、東雲さんとの時間が増えて楽しみだなと思っていたけれど、あれ以降進展もなく、行き詰まっていた。だから、一時的に犯人探しは休止になっていた。雪だるま破壊事件が止まっているのはいいことだけれど、それと裏腹に僕の気持ちは沈み込む一方だった。
「おーい、真。しっかりしろよ」
どうやら、考え事をし過ぎたらしく、目の前では進藤くんが左手に持ったシャーペンで僕の腕を突いていた。
「ああ、ごめんごめん。次は体育の授業だったっけ」
「そう、真の苦手な体育の授業だ。正反対に運動が得意な片岡はもう体育館にに行ってるぞ」
嫌々ながらも体操服に着替えると、すでに片岡くんがバスケットボールで練習をしていた。鮮やかなドリブルをすると、あっという間にシュートを決める。そのまま左手でゴールにぶら下がって、アピールをする。男子からは「よくやった」「かっこいい!」という称賛の声があがった。
「そこまでにしてください。まだ、授業開始前ですよ」そこには体育担当の牧本先生の姿があった。
「それにしても、さっきの片岡くんのシュートかっこよかったね」
準備運動でペアを組んでいる畑中くんはドリブルの練習をしながら声をかけてくる。「まあね」と無難な返事をしていると、あることに気がついた。
「ねえ、畑中くんって左利きなの?」
「そうだけど、それがどうかした?」左手でドリブルをしつつ、畑中くんが返事をする。
「いや、なんでもない」
意外なところで左利きを発見した。この調子で観察を続ければ、案外犯人の正体が分かるのも時間の問題かもしれない。
「ねえ、もう一度美咲さんの目撃証言を聞きに行かない? この前の調査で進展があったから」東雲さんから提案があったのはある日の朝だった。
「もちろん!」
僕はこの時を待っていたんだ。これで東雲さんと一緒にいられるぞ!
「確か、6年C組だったよね。ゆっくり雑談でもしながら行こうよ」
僕の提案に東雲さんは首をかしげつつも、「まあ、それもいいかもね」と同意してくれた。
「そういうわけで、目撃した情報をもう一回聞きたいんだ」
「だから、そんな話したの覚えてないって」と美咲さん。
さっきからこの繰り返しだ。以前は雪だるま破壊事件の目撃情報を話してくれたのに、今度は一転、知らないの一点張り。
「ねえ、もしかして犯人が分かったから、かばってるの?」と東雲さんが指摘するが「違う」とすぐに返事が返ってきた。
東雲さんが「このままじゃあ、無駄じゃないかしら」と顔を近づけて、小声で提案してくる。僕が「そうだね」と返事をすると美咲さんからの聞き込みを諦めた。
「ねえ、真くん。顔赤いよ。風邪でもひいた?」
「そんなことないよ」
とても本当のことは言えない。東雲さんの顔が近かったからだなんて。
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