　ある噂が学校中を駆け巡った。あの成績優秀な美咲さんがテストで75点だった、という噂が。

　僕も最初は「たまたまに違いない」と思っていたけれど、どうも違うらしい。体育の持久走でも、いつもの走りはなく、並の結果だったらしい。これはこれで、別の謎が現れたぞ、と僕の探究心をくすぐった。

「それにしても、最近片岡くん元気ないわね」と東雲さん。

「そりゃあ、美咲さんの妹の絵理さんのこと好きらしいから」

　そう、美咲さんと絵理さんはいわゆる一卵性の双子というやつだ。その妹である絵理さんを片岡くんが好きなのは、周知の事実だ。

「片岡くんといえば、こんな話知ってる？　最近、ウサギ小屋に入り浸っているって話」

「へえー、それは初めて聞いたよ」僕にとっては興味をそそられる話だった。

「そうでしょ？　片岡くんって、やんちゃだけど、意外と動物が好きだったりして」

「まさか！　それは想像できないなー」

　そんなことを話していると「国語の授業をはじますよ」と先生が入って来た。

　数日後、ビッグニュースが飛び込んできた。またもや雪だるまの破壊事件が起きたらしい。今度は駅前が現場だとか。休日だったから、僕たちは駅前の広場で待ち合わせにした。

　待ち合わせ時間より少し早く着いて、東雲さんを待っていると、誰だか見知らぬ人が近づいてくる。

「真くん、挨拶がないなんて、ひどいじゃない」

　見知らぬ人の正体は東雲さんだった。え、これが東雲さん！？　いつもと違い長髪の黒髪をポニーテールにして、普段は見慣れないカジュアルな服装をしていた。白いフリルが付いたブラウスに、デニムのスカート、そしてスニーカー。いつもの服装とはまるで別人のようだった。

「東雲さん！？　ごめん、まさかこんなに雰囲気が違うとは思わなくて……」

　彼女はにっこり笑った。「今日はプライベートだから、ちょっと気分を変えてみたの。どうかしら？」

「すごく似合ってるよ！本当に別人みたいだ」と僕は驚きながらも感心した。

　その瞬間、僕の胸がドキッとした。東雲さんがいつもとは違う一面を見せてくれたことが、なぜか嬉しかった。普段の彼女は知的で冷静な印象が強いけれど、今目の前にいる東雲さんは柔らかく、親しみやすい雰囲気を纏っていた。

　僕はふと、彼女の笑顔が特別に感じられたことに気づいた。こんな風に心が揺さぶられるのは初めてかもしれない。僕の中で、東雲さんへの気持ちが少しずつ変わっていくのを感じた。

「じゃあ、行こうか。今日の計画、ちゃんと考えてきたから楽しみにしててね」と東雲さんが言った。

「うん、楽しみだよ」と僕は笑顔で応えた。これから始まる一日が、今までとは違う特別なものになる予感がした。

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